マネジャーとしてのあるべき姿を手放してみたら新しい可能性が見えた話
今回は私にとって忘れられないエピソードを書きたいと思います。
私が30代前半の頃のことです。私は200人くらいの事業部でマーケティング部のマネジャーをしていました。
部のメンバーは私を入れて5人。デザイナーやアートディレクターがいて、カタログやチラシ、POPを制作したり、プロモーションやWEBマーケティングを担当していました。
マーケティング部は、全国にいる店舗スタッフやお客様をまわっている営業担当の皆さんが前向きに営業、接客ができるよう、販促物や分析データで支援していくことがミッションであるため、いかに営業さんや店舗スタッフさんと連携し、一体となって仕事できるかが大事でした。
私はこの役割を担う前、とある新規事業の立ち上げを経験していましたが、そこでチームメンバーとの関係性がうまくいかないという手痛い失敗をしていました。
今回も同じ失敗をするわけにはいかないと考えた私は、マネジャーになった際に、とにかくこれまでの自分のやり方を変えてみようと決心しました。
そこでまずは、営業さんの同行をするところから始めました。
電車やお客様先を訪問する車中で、普段どんなことを考えながらお客様先をまわっているのか、今の仕事への期待や不満、今後のキャリアについて考えていること、もっとやってみたいと思うこと、マーケ部隊に期待することなどなど相手が話してくれるままに、意見を挟まず聞いていました。
自分がこう思うというのは白紙にし、誰が何をしたいのかなということをずっと眺める、理解することに徹するということをしてみました。 半年間くらいじっとやってみたこの期間は、今思うと傾聴の期間であった
ように思います。
新規事業の立ち上げを担っていた頃は、絶対に赤字を出して、事業をつぶしてはいけないので、マネジメントの手綱を握り、自分の考えを洗練させ、
そこで考えたロジックをわかりやすく説明し、納得してもらおうと考えて
コミュニケーションをとっていました。
相手の意見に自分が賛同できれば共感を示し、違うと思えば、「こうじゃない?」と指摘、アドバイスをする。
相手を言いくるめようという気はなかったものの、スタンスとしては、自分の考えをいかにわかりやすく、説得力をもって伝えるかに腐心するという視点であり、自分の価値観、考えを脇に置くということはありませんでした。
一方、マーケティングマネジャーになってからの私は、そこを手放してみるというスタンスに初めて立ってみました。
それはなかなか勇気のいることでした。
皆がどんな風に動いてくれるのかは相手任せですし、自分の責任を放棄して
いるようにも感じました。自分のコントロールの及ばないところで事業が
回っていくということに、不安がありました。
しかし、時間が経つにつれ、営業さんから「新たにこんなことがやりたいんですけどできませんか?」というような相談が持ちかけられたり、部内のデザイナーやアートディレクターからも「今度はこういう企画がしたい」という提案や相談が多く持ち込まれるようになりました。
正直、自分にはこれが有効なのか理解できない提案もたくさんありました。
最低限の確認はするものの、詳細は目をつぶり基本的にOKを出していきました。
非効率があったり、更によりよい手法があるかもしれないとは思いつつも、
もはやそれは現場を信じて委ねることしかできませんでした。
結果、一年ほど経った頃には、自発的に動いて考えるメンバーが増え、業績が上がり始めました。更に、私の方で、競合分析や顧客分析のプロジェクトをして、新たな営業施策を立案していったのですが、たくさんの現場の情報が集まり、かつ、多くのメンバーがその施策にかかわり、一緒に創っていってくれるということが起きたのです。
結果的に、私の考えを伝えても、皆が受け入れてくれることが増え、組織がイキイキとしている手ごたえが感じられました。当時はエンゲージメントサーベイのようなものはなかったですが、もしそういったサーベイをとっていれば、数値は上がっていたのではないかと思います。
当時はわからなかったのですが、人材育成の理論を学ぶようになった今、振り返ってみると、自分がコントロールを手放したことで、相手の中に、”自分で決められる”という自己決定感であるとか、”自分が実行している”という自信や有能感が一人ひとりに育っていたのではないかと思います。これは内発的動機の重要な要素です。
自分を振り返ってみても、自分が成長したと思う瞬間というのは、人にアドバイスされたり、指示に従ったりしてやったことではありません。
自分で実際に考えてお客様に出してみて、フィードバックをもらいつつ学んだことこそが本物の経験として自分に蓄積されますし、この会社で働いているという誇りになると思います。
そう考えたとき、マネジャーというのは、自分がコントロールすることを手放す。ある意味思い通りに動かすということを諦めるということから現場の自分ごと化が始まり、それが現場のモチベーションアップへとつながっていくということがあるのかもしれません。
現在、生業としている組織開発の仕事でも、経営と現場の裁量をどこでバランスさせるのかというテーマに行きつくことが多くあります。
現場と経営が対話して、お互いの合意点を探るということが大切です。その組織ならではの納得解をつくるご支援ができたらと思います。
また来月もよろしくお願いします!
2021/10/30 VOL132 sakaguchi yuto
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