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吉田篤弘さんが紡ぐ、優しい物語の世界。そっと手渡したい5冊。

今年の3月に『鯨オーケストラ』と出合い、優しい物語と言葉の選び方に惹かれ、吉田篤弘さんの作品を好んで読むようになった。

X(旧Twitter)に投稿している読書記録も、吉田さんの作品が大半を占めている。もしかすると、鶴田の投稿に対して「またかーい!」と思った方もいるかもしれない(好きになったらトコトンな性格のもので……)。

でも、投稿するうちに「気になったから読んでるよ」や「気になるから、最初に読むならコレ!という本を教えてほしい」などといった、嬉しい言葉をもらうことも増えた(ありがとうございます)。それに加えて、素敵なものはもっと広まってほしいし共有したいと思ったので、今回は、吉田さんの本について書くことにしました。

■2023年に読んだ吉田篤弘さんの本


本を紹介する前に、個人的な記録も兼ねて2023年に私が読んだ本のタイトルを残しておきます。 2023年12月20日時点で、読了した本は20冊(+途中のものが1冊)。物語やエッセイ、随筆集、どれも夢中になって読み進めた。

『流星シネマ』
『屋根裏のチェリー』
『鯨オーケストラ』
『台所のラジオ』
『おやすみ、東京』
『水晶萬年筆』
『金曜日の本』
『それからはスープのことばかり考えて暮らした』
『レインコートを着た犬』
『中庭のオレンジ』
『木挽町月光夜咄』
『つむじ風食堂の夜』
『月とコーヒー』
『それでも世界は回っている1』
『それでも世界は回っている2』
『なにごともなく、晴天』
『ブランケット・ブルームの星型乗車券』
『神様のいる街』
『針がとぶ』
『あること、ないこと』
『圏外へ』(※途中)

本当は、「全部読んで!」と言いたいけれど、今回は物語に絞り、読了した本の中から5冊選びました(あくまで個人的なおすすめです)。

■『月とコーヒー』

『月とコーヒー』は、世の中から忘れられたものと、世界の片隅で暮らす人々が主役の物語。収録されている24の短篇小説には、美術館に展示されている絵画から星を盗んだり、存在するかもわからない「この世で1番おいしい朝食」を求めて旅に出たりと、「物語らしい非現実的な空間や出来事」が詰め込まれている。

そして、吉田さんが「1日の終わりの、寝しなに読んでいただきたい短いお話を書きました」とあとがきに書いているとおり、寝る前に読んでほしい1冊でもある。個人的には、じっくり楽しむために毎晩1話づつ読み進めるのもおすすめ。

吉田さんの優しい物語をたっぷり楽しめる1冊となっているので、「何から読めばいい?」と聞かれたら、「まずは、これを読んで」と手渡したい。

■『針がとぶ-Goodbye Porkpie Hat』

『針がとぶ』は、記憶と旅にまつわる7つの物語。連作短篇集のようなゆるやかな繋がりがあり、「この物語は、あの時の彼(彼女)の過去、あるいは空想の話なのでは?」や「この単語が出てくるということは、舞台はあのホテルか」などと、考えを巡らせながら読み進める楽しさがあった。

今まで読んだ吉田さんの本の中で、個人的に1番好きな作品です。なかでも、旅する絵描きと万物を売る雑貨屋の話『パスパルトゥ』は何度も読み返しています。noteのタイトルに、「そっと手渡したい」なんて付けたけれど、この本に限っては「ぜひとも!」と、熱量高めに手渡したい。そのくらい、個性的で愛おしい人々の物語でした。

■『台所のラジオ』

『台所のラジオ』は、食と台所に置かれたラジオを軸にすすむ12の物語(連作短篇集)。作中には、小さな安食堂で食べる紙カツや江戸の屋台で食べた(はずの)きつねうどんなどが登場する。豪華なものではなく、親しみやすさや懐かしさを感じられ、食べるとホッとする。そんな料理や食べ物を中心に選んでいるところも良いなと思った。

この本を読むまで、「吉田篤弘=優しい物語を書く人」というイメージを勝手に抱いていたけれど、良い意味で覆された。もちろん、優しく温かい物語も収録されている。けれど、少しだけ背筋が凍るような物語もあって、吉田さんの新たな一面を知りますます好きになった。

■『おやすみ、東京』

『おやすみ、東京』は、深夜1時の東京が舞台の連作短篇集。作中には、映画の小道具を専門に扱う調達屋や古道具屋の店主、深夜タクシーのドライバーなど、さまざまな職業の人々が登場する。

それぞれにスポットを当て、人々の日常を描いているのだけれど、ある物語で主役だった人がほかの物語にさりげなく現れるところも面白い。「あれ、この人……」と気づいた瞬間は、思わず笑みがこぼれた。

そして、個人的に『おやすみ、東京』は、ほかの作品より文章にくせがないと感じた。独特な言い回しや書き方が、あまりされていない。するすると読める文章。でも、しっかりと吉田さんの世界観も感じられる1冊となっている。

■『鯨オーケストラ』

最後は、長篇小説の『鯨オーケストラ』。ナレーションや朗読など声の仕事を生業にする青年が、担当する深夜のラジオ番組で「17歳の時に、モデルをした絵の行方がわからない」と話したところ、視聴者から1通の手紙が届く。この手紙をきっかけに物語は動き出し、さまざまなモノや出来事がつながっていく。

以前、別のnoteにも書いたけれど、本書に登場する、見ると体験するとでは大きな差があることについて触れた「天国と六角レンチ」の話は、思わず「なるほど」となった。吉田さんの本には、違う角度から世界を見るきっかけとなる言葉がちりばめられている。

そして、じつはこの物語、鯨が眠る崖下の町を舞台にした『流星シネマ』、崖上の町に暮らす元オーボエ奏者の彼女とその友人が主役の、『屋根裏のチェリー』ともつながっている。この2作は、『鯨オーケストラ』にも登場し物語の鍵となる人たちが主役であり、彼(彼女)らが暮らす町の伝説や過去に起きた事件などに触れている。

『鯨オーケストラ』のみでも十分楽しめるけれど、より深く物語の世界に入り込み、もっと近くで主人公たちの結末を見届けることができると思うので、気になる方は『流星シネマ』と『屋根裏のチェリー』も手にとってほしい。

個人的におすすめしたい、吉田篤弘さんの本でした。5冊と言いながら結果的には7冊になっているし、好きと勢いで書いたnoteですが、ここまで読んでいただきありがとうございました。1人でも、「読んでみたいな」と思ってもらえたら嬉しいです。




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