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〜忘れられない出会い〜(10代編)シンジさん

「お前、何度も何やっとるだがや!!」

薄いグラスを洗っていた時。
パキッ!という音と共に
あ、またやっちゃったよ…
と思った瞬間。

パントリーに響く店長のシンジさんの声…
ガッツリ顔を寄せられて
頭突きを喰らった。

「すみません…」

割れたグラスを
そっと割物用のバケツにいれる。

もう何度目だろう…
1日で3回割ったこともある、
パフェ用のちょっとくびれたグラス。

割と忙しかった
ティータイムが落ち着いて、
ちょっと気が緩んでいたのかもしれない。

シフトの関係でホール要員は
僕とシンジさんの2人だけ。

厨房担当のタカシさんは
仕込みの真っ最中だった。

「手、切ってないか?気をつけてな。」

タカシさんがそっと声をかけてくれる。

「はい。大丈夫です。すみません…」

リゾートバイト始めてから
何回謝っただろう…最早数えきれない。


シンジさんとタカシさんが
休み時間にふざけて遊んでいる時、

「ハハ、ガキみたいですねーw」
と言った瞬間。

「なんや!ガキがガキやと!!」

胸ぐらを掴まれ、押し倒されて
床に転がる僕の上に跨り、
殴られたたのは3日前のことだ。

「すみません!すみません!」
殴られながら、泣いて謝る僕。

止める人は誰もいなかった…。

「いい加減、口の利き方に気をつけろや!」

馬乗りでひとしきり殴られた後に、
捨て台詞を吐きながらバックヤードに
去っていくシンジさん。

タカシさんに肩を掴まれながら
宥められていた。



使えないバイトの代わりは
いくらでもいる。

そんな仕打ちを受けながらも
続けているのはお金の為もあるが、
楽しいことも沢山あるからだ。

まず、食費がほとんどかからない。
賄いがでるからだ。

初めてカルボナーラを食べたのも賄い。
こんなに美味いものがあるのかと驚いた。

人生で、1万円札を何枚も手にしたのも
リゾートバイトを始めたおかげ。
ビックリしたし、嬉しかった。

初めて外国人と話した時は緊張しまくった。
何よりコミニュケーションが出来ない。

聞き取れないから、
何を言ってるのか分からないし、
何を話せばいいのかも分からない。
恥ずかしさと悔しさで
胸がいっぱいの経験だった。

この体験がキッカケで
簡単な英会話集の本を買って勉強した。


初めてナンパをしたのもそうだ。

シンジさんとタカシさんには
ドライブに連れて行ってもらったり、
ご飯を食べに
近くの居酒屋に連れていってもらう度に、
可愛い女の子がいると声をかけてこいと
命令された。

そう。命令だ。
拒否することは許されない。
何度声をかけたかなんて覚えてすらいない。

毎日毎日、日本全国から、
時には海外からも人がやってくる。

一期一会の連続なのだ。
ダメなら次が合言葉だった。
2人とも彼女いるのに…。


童貞を捨てたのもそうだ。
相手は東京からバイトにきていた
女子大生のユウコさん。
年上だった。
酔って雰囲気に流されて
いつの間にか終わってた。

「で?どんなやった?」

シンジさんにはすぐにバレる。
情報が全て入ってくる立場だからかな?

「な、な、何がですか??」

「とぼけんなや!したんやろが!」

「は、はい!よかったですぅ!」

何が聞きたいんだろう…。

「こんなガキのどこがいいんかなぁ?」

シンジさんが彼女のカオリさんに聞いた。

「えー?ゆうちゃん可愛いじゃん!」

カオリさんはちいかわ代表のような
ぬいぐるみ系女子。
思わず頭ポンポンしたくなる感じだ。

なんでシンジさんと付き合ってるんだろう…
いつもそう思っていた。

元ヤン全開だけど店長で、
いつも自信に満ち溢れている。
話す時はガッツリ目を見て逸らさない、
典型的なオラオラ系だ。

走り屋でよく山に走りに行っている。
ドリフト走行を初めて見た時は
ビックリした。

いつも連れて歩いてくれる割には
自分の事は一切話さない。

手下扱い。
そんな言葉がぴったりな関係だった。


遅刻しては蹴られ
失敗すれば叩かれ
口の利き方を間違えれば殴られる。

全て体で叩き込まれた思い出しかないけど、
間違いなく忘れられられない人だ。


(この話はフィクションであり、
登場人物は全て仮名です!笑)





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