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1月の読書 | 「今」で繋がることの大切さ

断片的なものの社会学/岸政彦


誰にも隠されていないが、誰の目にも触れない」読み始めてすぐにやってきたこのワードにハっと心が動いた。あぁこれはわたしが日々の中で大事にしていることのひとつ。この景色も、この気持ちも、この匂いも、色も、肌触りも、今、わたしや一緒に味わったひとだけの秘密なのだと感じるとき、贅沢な時間が流れる。誰にも自慢しなくても、知られなくても、生きてるって感じる。ときに「私を見て」と声を上げ、ときに誰の目にも触れないところで幸せを見つける。後者の瞬間は、この世で最もロマンチックだ。世界は小さな小さな破片の集まりなのだから。

だがさらに、ここでもっとロマンチックな、あるいはもっともノスタルジックな現実とは何か。それは間違いなく、そもそも私たちがこの二人のことを何も知らないこと。

「誰にも隠されていないが、誰の目にも触れない」より

そして、そうした旅の途中で、これ以上進めば、もう二度と、もといた場所には帰れないかもしれない、という地点がある。そういう経験が、たまに訪れる。

「出ていくことと帰ること」より

私たちは、人生のなかでどうしても折り合いのつかないことを、笑ってやりすごすことができる。必ずしもひとに言わないまでも、自分のなかで自分のことを笑うことで、私たちは自分というこのどうしようもないものとなんとか付き合っていける。  それはその場限りの、はかない、一瞬のものだが、それでもその一瞬をつなげていくことで、なんとかこの人生というものを続けていくことができる

「笑いと自由」より

この社会にどうしても必要なのは、他者と出会うことの喜びを分かち合うことである。こう書くと、いかにもきれいごとで、どうしようもなく青臭いと思われるかもしれない。しかし私たちの社会は、すでにそうした冷笑的な態度が何も意味を持たないような、そうしているうちに手遅れになってしまうような、そんなところにまできている。異なる存在とともに生きることの、そのままの価値を素朴に肯定することが、どうしても必要な状況なのである。

「あとには彼女だけが残された」より


一言でも、心がハッとなったなら手に取ってみてほしい。わたしもこの本を友人に勧めてもらった。どうもありがとう。

深く、しっかり息をして/川上未映子

だから、本当に大切な人とは、できれば離れないほうがいいと思う。一緒にいることがすべていい結果を連れてくるとは思わないけれど、わたしたちはとにかく忘れてしまう生き物だから「今」で繋がっていないと、すぐに見えなくなってしまう。あっけないほどに忘れてしまう。だから大切な人とはできるだけ一緒に「今」を過ごすこと。それは「どれだけ長く一緒にいたか」を振り返って確認することじゃなくて、とにかく「今」を一緒にいること。過去や未来の不自由さに比べて、「今」だけは、自分の努力で少しぐらいは何とかできそうだって思わない?大切なものを守ってゆく、たくさんある努力の中の、これはひとつだと思うんだよね。

「全てを忘れてしまう私たちは」より


いつかまた会える。これも素敵だけれど、今、あなたに会いたい。これはもっと特別な気持ちだ。いつかなんて、ない。今しか、ない。それだけが、今のわたしを支えているのだ。未来ではきっと会える、来世でもきっと会える、でも、今を共有することはもっと重要で肝心なこと。

2月は川上未映子さんの小説を読む。楽しみです。

ののはな通信/三浦しをん

一人でも食べて寝て生活はできるけれど、本当の意味で生きるのはむずかしい。自分以外のだれかのために生きてこそ、私たちは「生きた」という実感を得られるのかもしれない。だれかというのは、ひとに限らず、動物でも植物でもいい。物質でもいいかもしれない。それを通して、社会とつながっている、社会のなかにたしかに自分の居場所がある、と感じられるものであれば。ひとが営む社会のなかでしか、自分自身を、自分が存在する意味を、見いだせない。人間って面倒な生き物ですね。

ののはな通信/三浦しをん


2人の少女が大人になり、歳をとり、女性になっていく、その過程の文通をのぞかせてもらった。おそらく、わたしも学生時代の青春のほとんどの記録が文通の中にある。何十分後かには休み時間で話せるのに、わざわざ先生の目を盗んで授業中にこっそり回した手紙、休み時間に隣のクラスに行って交換した手紙、毎日毎日手紙を書いた。年賀状も暑中お見舞いも、誕生日もクラス替えも卒業のときも。恋、友情、勉強全ての悩みを友と共有したことを思い出して、なにひとつ自分だけでは乗り越えてこなかったことを痛感する。この物語の中のふたりの少女の、女性の、人間の、瞬間の煌めきが詰まった命の物語だった。

それから単行本はおそらくもう出版されていないようだが、単行本の装丁が本当に本当に可愛かった。古本屋さんで出会えたこと、本当にありがとう。

かわいい

ミライの源氏物語/山崎ナオコーラ

「光る君へ」の放送が始まったこと、星のや京都での歌詠みの体験で古典文学に興味を持ったことをきっかけに手始めに読んだ一冊。あっっという間に読めてしまった。高校時代の古典の授業を思い出し、こんな登場人物いたな、と思いながら読んだ。そしてタイトルの通り、物語の非常に細やかで重要な部分を現代の風潮に合わせて痛快に意見しているナオコーラさんのテンポの良さと共感ができる中身。長く読まれる文学だからこそ、こうしていろんな解釈がこれからも生まれてくるのだと思う。面白かった。

プライドって大事ですよね。
プライドが高い人って、キラキラしています。
プライドは、自尊心という言葉と言い換えられることもあります。「自分を大事な存在だと思う」「自分を尊いもののように扱う」といったことは生きる上で大事です。日本には謙遜を美徳とする文化があって素晴らしいです。でも、それが行き過ぎて自分を必要以上に低い存在と捉えてしまう人もいるみたいで、悲しいです。

「マウンティングー六条御息所と葵の上」より

二元論で性別が描かれる物語でも、異性間でしか恋愛感情が芽生えない物語でも、面白く読むことはできます。ただ、書かれていない人がいる。書かれていない心もある。そのことを、頭のどこかに常に持っていたいです。光源氏が服だけ抱きしめて遠くにいる相手を想像したように、私も読書をするときは文章という衣を見つめて、これは衣のみだけれども、世界のどこかに隠された心があるのだ、と想像したいです。

「ジェンダーの多様性ー書かれていない人たち」より

ルッキズム、マザコン、不倫、エイジズム、マウンティング。指摘されているかどうかだけで、今も昔もそんなに変わらないのかもしれない。紫式部がそんなこと考えていたかどうかは分からないけれど。源氏物語は初めて!という方でも面白いと思います。


kindleで読むことも少しずつ慣れてきましたが、やっぱりわたしは本の装丁の紙質やデザイン、色合い、行間、本によって少し異なる書体、ページをめくる作業が好き。紙の本で読めるときには紙で読もうとやっぱり思うのでした。


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