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Tragedy~グラビアアイドルの受難

怪我フェチの間では有名なある漫画にインスパイアされて書きました。とにかくたくさんの包帯を巻いたりほどいたり。ギプスや装具などもいろいろ出したかった。ゴスロリなどの衣装にもこだわって書いてます。グラビアアイドルを主人公にした「怪我ドル」物語。2ちゃんで公開時、素敵なイラスト書いてくださった方がいらしたのですが...。保存しておかなかったことを後悔。

2009年11月23日 (月)
Tragedy−1
 夏莉(かり)は21歳。
短大を卒業し、派遣の仕事に就いて
すぐスカウトされ、
バイトのつもりで始めたグラビアで
最近じわじわと人気が出てきたところ。

もともとかなり痩せっぽちだったが
胸だけはあった。
人見知りする性格だったが、
カメラの前で人形のように指示通り動き
きわどい格好をすることには
不思議と抵抗がなかった。

むしろ違う自分になったみたいで、
意識が朦朧としてしまい、
すごく濡れてしまう。

女性ホルモンが活発に分泌されるのか、
どんどん体の曲線が丸く
官能的になってきた。

色素の薄い大きな目と長いまつげ、
やはり色素の薄いさらさらの長い髪
お嬢さんっぽい上品さと、
大胆なポージングや恍惚の表情との
ギャップがたまらない、
というファンが多い。

「夏莉チャン、
今日の衣装はちょっとすごいわヨ!
あたし夏莉チャンのために
すっごいの作っちゃったの!」

オネエ系のスタイリストAKIが
嬉しそうにちょこちょこと走ってきた。

夏莉とは大の仲良しで、
まるで女友達のような間柄。

痩せた手足・ウエストと、
グラビアを始めてから豊かになった胸と
お尻を持つ夏莉にぴったりフィットする
衣装はなかなかなく、
AKIはいつも不満を抱えていたという。

「夏莉チャンはネエ、
水着よりもこういうチラ見せの方が
絶対色っぽいんだからあ」 

いそいそと夏莉に衣装を着せてくれる。

「わあ、素敵...!」

夏莉は鏡に映った自分を見て、
我ながらうっとりしてしまった。

つややかな黒のサテン生地と
繊細なレースがふんだんに
使われているその衣装は、
華奢な腕をふんわりと包み、
胸元は深く空いている。


背中はコルセットのように胴を
締め付けるサテンのリボンだけ。

 同じ生地の黒いミニスカートは
腰履きで大きなリボンがついており
細くくびれたウエストが
白く浮かびあがる。

スカート下に
フリルのたくさんついた
白いペチコートがついている。

「えっとお、こういうの
ゴスロリっていうんでしたっけ?」

「いやあね!
それを言ったら興ざめじゃないの!
さ、次は靴よ」

高さ15センチ以上はありそうな
ごつい厚底ヒールの靴をはかせ、
服とお揃いの黒のサテンリボンを
ふくらはぎに交差させながら巻き付け
膝下で蝶結びを作る。

髪を巻き髪にし、
大きな白いリボンを付けられた夏莉は
まるで本当の人形のようだった。

「これよ!これ!
最高よ夏莉チャン!」

撮影が始まった夏莉は
いつものように恍惚の境地にいた。

ベッドや椅子を使った撮影が終わり
衣装替えとなったが、
プロデューサーが急に

「すぐに脱いじゃうのもったいないなあ。
ちょっと、外で撮ってみようか」
と言い出した。

その日は古い洋館を借り切っていて、
イギリス風のきれいな庭があった。

青空の下、スカートを持ち上げ、
少女のように走り出した夏莉。

カメラがその活き活きとした姿を
追いかける。

が、夏莉が突然敷石に足を取られ、
左足首が内側に曲がったかと思うと
 反対側に弾かれるように転倒した。

「ああっっっっっっ!!!!!!」

「夏莉!」

「夏莉チャン!」

左足首を抑えうずくまる夏莉に
皆が駆け寄る。
「誰か。救急車!救急車呼んで!」

「待っ...て....」

夏莉が苦しそうな表情で顔を上げた。

「大..丈夫で..す…から..」

「夏莉チャン...」

夏莉は震えながら体を起こす。
足首に力がかかり、
一瞬ビクンッと体を震わせ息を飲む。

我に返ったAKIが体を支え、
マネージャーが
左足をまっすぐに伸ばした。

「ああっ....!!
いったあいっ!!!!!」

皆はどうしたらよいかわからず
手を出せない。

下を向いて荒い息をしていた夏莉は、
やがて顔を上げ、気丈に微笑んだ。

「....すい..ません。
足、くじいちゃっ....たみたい。
....いっ..たっ...!!!」

「夏莉チャン、無理しちゃダメよ。
病院行った方がいいわ」

「でも、撮影まだ終わってないから..
少し休ませてもらえれば大丈夫です」

マネージャーが近くのコンビニに
湿布と包帯を買いに行き、
他のスタッフが夏莉の足を
レフ版に載せベッドに運んだ。

AKIが靴を脱がせ、
おそるおそる湿布を貼り
包帯を巻いてくれた。

足の痛みに耐える夏莉よりも
AKIの方が泣きべそをかいていた。
「うっ、えっ、ゴメンなさいね。
あたしが悪いんだわ。
こんな靴をはかせてしまって.....」

「そんなことないって。
私が勝手に転んだんだし」

これ以上AKIを苦しめないよう、

夏莉は苦痛を押し殺して微笑み続けた。

Tragedy−2
 痛み止めを飲んで30分ほど休み
夏莉はAKIの手を借りて着替え始めた。

今度は白いビキニの水着。

湿布と包帯はギリギリまで
しておいた方がいいと考え、
AKIの肩を借りて歩き出す。

「いたっ....!!!!!!」

足をついた途端、
ズキンと痛みが走った。

「っつう.....」

「夏莉チャン...」

AKIが涙目になる。


「ごめんごめん。....
大丈夫!さ、行こう」

覚悟を決め、足を引きずって歩き出す。

歩く度にズキズキと
痛みがくるぶしを襲った。

隣の部屋に入り
プロデューサーを見ると、
心配そうな顔の中に
なぜか興奮の色があった。

「大丈夫?夏莉ちゃん。
足痛そうだから包帯そのままにしよう。
うん、いいよ。それ。
白い水着とすごくマッチしてる!」


足を怪我している設定のまま
撮影は行われた。

出窓に座り痛そうに足をさする姿。

壁にすがり懸命に足を引きずって
歩こうとする姿。

床に倒れ悶絶する姿。

ソファに座り痛む足を抱きかかえ
涙をにじませる姿....。

演技ではない夏莉の苦痛の表情と、
時々抑えきれず漏れる喘ぎ声に
全員が興奮していた。

「もっと声だして。
痛がっていいんだよ」

本当に痛みが我慢できなくなってきた
夏莉は、おもいっきり喘いだ。

自分でもよくわからない興奮で、
わざと足を痛めつけたくなり、
ソファから立ち上がって歩き出した。

「はあっ!ああっっっっ!
あっっっっ!!!!!!!!」

3歩目で夏莉は崩れ落ちた。

足を抑えて転げ回り悲鳴をあげ続ける。

...カメラは
その様子をじっと見つめ続けた。

「.....カ...
...カット!カット!」

魅入られるように固まっていた
プロデューサーがようやく声をあげ、
マネージャーとAKIが夏莉に駆け寄った。

「傑作だ.....大傑作になる...」
プロデューサーは茫然と立ち尽くしていた。

水着の上に
大きな男物の紺色パーカーを着せられ
そのまま夏莉は病院に運ばれた。

左足首は内側靭帯の部分断裂。
といっても完全断裂の
一歩手前のような感じ。

無理して歩いたり、
転んで痛めつけたため炎症はひどく、
左足は
つま先からふくらはぎの中程まで
シーネという板のようなものが当てられ
幅広い厚手の包帯により
幾重にも固定されている。

転んだ時に打ったと思われる膝付近にも
腫れと内出血が出てきており、
膝下から太ももの中間当りにかけて
湿布とネットのような
ものが当てられていた。

車いすで処置室から出てきた夏莉を見て
AKIがめそめそと泣き出した。

パーカーがミニワンピのように
なっているため、両足がむき出しで、
白い包帯の巻かれた痛々しい左足と
華奢な右足との対比が目に痛いほどだ。

痛み止めの座薬は入れてもらったが、
厳重に固定された重い足首を
持ち上げて立つことが出来そうにもない。

マネージャーが抱き上げて
車まで運んでくれたが、
体が揺れる度、膝も足首も痛みだし、
夏莉はマネージャーの服にしがみついて
ぼろぼろ涙をこぼした。

車のなかでも、
AKIがしゃくりあげながら

「ごめんね。夏莉、ごめんね。
痛い?大丈夫?」
としきりに話しかけてくるが、
夏莉にはまともに返事をする余裕もない。

足はますます激しい痛みと熱を放っている。
さすがにAKIも話しかけるのをやめ、

「はあっっ......!
すうっ....ああっっ...!!
はううっっ...!!!!!」

夏莉の荒い息づかいだけが車内に響いた。


再び抱きかかえられ、
ようやくマンションのベッドに
横たえさせられる頃には、
夏莉はもう失神寸前の状態だった。

もう一度座薬が入れられ、
疲れきった夏莉は眠りに吸い込まれた。

夜中に何度か痛みに目覚めるたび、
AKIが心配そうに覗き込み、
氷をのせてくれたり
汗を拭いてくれるのがわかったが、
お礼を言う余裕もなく
夏莉はうなされ続けていた。


Tragedy−3
マネージャーとAKIの声が聞こえた。

「とにかく怪我が治る
まで仕事は断るしかないな」

「夏莉チャン可哀想!
あたし、できる限りお世話するわ」

「待って!...
っっうっっ!!!!!!!」

飛び起きた夏莉の左足に激痛が走った。

「夏莉チャン!」
「夏莉!」

慌てて夏莉の体を支える二人をキッと
睨みつけ、夏莉は言った。

「絶...対...仕事はする!勝手に断らないで」

「でも、この足じゃ無理だよ」

「絶対!...する....ん.
..だから.....」

痛みで動けなくなった夏莉を横たえ
マネージャーがあきらめ顔でこう言った。

「わかった。でもせめて
お医者さんが言ってたように、
あと3~4日は我慢して安静にしなさい。
仕事は相手先に頼んで日にちを
延ばしてもらうから」

「あ..り..がとう」

4日後、病院に行った夏莉は
ギプスにした方がいい
という医師のすすめを断固として拒否し
シーネと包帯による固定を続ける
ことにした。

膝の打撲は動かせるくらいまで回復し
左足を浮かせて松葉杖で
歩くことができるようになった。

その足で、先日撮影してもらった
プロデューサーのスタジオを訪れた。

今日の夏莉はスモーキーピンクと
グレーの細かいチェックの
膝丈ワンピを着ている。

胸のあたりにタックが
たくさん取られたそれは、
裾がふんわり広がっていて、
膝下から見えるごついシーネ固定の
左足が痛々しい。

「夏莉ちゃん!よかった。
心配してたよ」

「先日はすいませんでした。
ご迷惑をかけてしまって」

「そんなことないよ。
すごくいい画が撮れた。
今、写真とDVDの編集しているんだけど
みんな大興奮だよ!」

「そうですか。よかった」

ほっとした夏莉に、
プロデューサーがちょっと
恥ずかしそうに切り出した。

「できるだけ近いうちに、
もう一度撮りたいんだけど
スケジュール空いてないかなあ?」

「えっとお、明日から
○○社さんのグラビアなんですけど、
これから行って足のこと
説明しようと思ってます。
まだ足をついて歩けないし、
包帯固定をはずしちゃいけないって
言われちゃったんです」

「そうかあ...じゃあ、
足は写らないようにしなきゃね」

「そうですよね。やっぱり....」

「うん、うん。足を写さないでうまく
撮ってもらえるように頼んだ方がいいよ。
俺からも言ってみるよ。
ええっと、○○さんだよね」

妙に熱心なプロデューサーに
ちょっと不審を感じたものの

ちょうど空いていた1週間後に
撮影スケジュールを組み、
夏莉は次の約束に遅れないよう
足の痛みに耐えながら
スタジオを後にした。 

Tragedy−4
その後1週間
グラビア撮影が数本あったが、
皆、夏莉を気遣い左足を使わずに
すむようにしてくれた。

パソコンで画像修正できるため
足の包帯を外さないまま撮影しても
問題ない。

皆の優しさに包まれ、
痛み止めを飲んで足をかばいながら
仕事をこなせた夏莉は、
満足感と幸福感を感じていた。

1週間後
あのプロデューサーとの
仕事がやってきた。

足を保護するため分厚く包帯を巻き
松葉杖をついていた夏莉を
プロデューサーは嬉しそうに迎えた。

「夏莉ちゃん、どう、足の具合は?」

「おかげさまでだいぶよくなりました。」

「でも、まだ歩けなさそうだよね...?」

「いえ、少しだけなら、
たぶんなんとか。あっ..でも
包帯取ったら歩けないかも...」

「包帯は取らなくていいよ。
でも、可哀想だけど、
すこーしだけ歩いてもらわないと
いけないかも、なんだ」

「大丈夫です。頑張ります!」

「夏莉チャン。ほんとに大丈夫?」

AKIが心配そうに衣装を持って来た。

「大丈夫よ。
すごーくたくさん包帯巻いてるの。
ほとんど足が動かせないくらい」

確かに左足は、
ふくらはぎの中程までしっかりした
包帯で何重にも巻かれてガチガチに
固められ、ほとんどギプスを
しているかのように見えた。

夏莉は衣装に着替え、
所定の位置まで松葉杖で進んだ。

松葉杖をマネージャーに
預けようとすると、

「あ、いいよ松葉杖持ったままで。
あでも、1本だけにしようかなあ。
右側に松葉杖持って
しがみつくようにして歩ける?」

「はい」
言われたとおり歩き出す。  

まだ腫れている足首は
やはり歩くたび痛みだし、
夏莉の顔は歪み、
思わず喘ぎ声がでてしまう。

見ているAKIやスタッフが不安に
なるほどの時間、夏莉は歩き続け、
喘ぎ続けている。

「.....カ.カットー!
ごめんごめん。夏莉ちゃん。
大丈夫?痛かったね?
少し休んだほうがいいね?」

「....大丈夫...です。
次はどうしたらいいですか?」

「包帯1回はずして、また巻き直して
もらっていいかな?
そこのソファに座って」

不審の目でプロデューサーを
見始めていたAKIが割って入る。

「ちょっとお、
なんでそんなことさせんのよ」

「俺が何をさせようが文句ないだろ。
危険なことをさせようとしてる
わけじゃないし」
「AKI、私は大丈夫だから心配しないで」
夏莉が言い、片松葉杖のまま
ソファに歩きだす。

「うっっつ!!あっつ...!!!
いっ..たたたたあ....」

ソファに座って思わず足を抱き寄せ
なでさする。

「ちょっと...だけ、
待って..ください。.
..すいません....」

「いいよ。いいよ。
そのまま。....撮ってる?」

プロデューサーはカメラマンを振り返る。

それでわかった。

プロデューサーは
夏莉のリアルな捻挫ドキュメントを
撮りたいのだ。

確かに、
レースのついた紫のキャミソールと
お揃いのミニフレアパンツをはき、
ソファに体を預け、
分厚く巻かれた包帯を痛そうに
なでさする夏莉の、
表情と喘ぎ声は官能の極みと言えた。

Tragedy−5
憑かれたような表情の夏莉は
ゆっくりと足の包帯を解き始める。

足首に力がかからないように、
微妙に姿勢を変えながら
真っ白い包帯を解く
夏莉の体が艶かしくうごめく。

1本目の包帯が外れた。

包帯はかなり長いのに、肌は全く現れず、
ギプスのような包帯が
一回り小さくなっただけ。

2本目
やはり包帯をはずしても、
肌はじれったいほど見えてこない。 

3本目の包帯が解かれ始める。

ようやく、ふくらはぎの方から
肌と湿布が見え始める。
夏莉は時々手を止め足をさすり喘ぐ。

....4本目

湿布に包まれた腫れぼったい
足の甲と足首の上の方が見えた。
固定の緩んだ足が揺れ、
夏莉の息づかいが荒くなってくる。


...5本目..

足首に8の字を描くよう何重にも巻かれた包帯
が解かれた。
途中なんども腫れた足首が動き、夏莉がうめき声をあげる。

足の甲から足首全体に貼られた
湿布を剥がす時には
どうしても足首の角度が変わってしまい
夏莉は体を震わせ小さな悲鳴をあげる。

何度も何度も手を止め、
痛みをこらえながら長い時間をかけて
やっと、湿布も剥がされた。

ようやくあらわになった足首は、
内出血のため変色し、腫れ、
包帯の跡がくっきりとついている。

夏莉以外の
その場にいる全員が
ごくっとつばを飲み込んだ。

夏莉は
右の足首に左の足首をのせ、
時々揺れる足首に喘ぎ声を
漏らしながら聞いた。

「このまま巻き直せばいいですか?」

「あ..、ああ...頼む..」

「つっっ...!」

「あはあっ.....!」

包帯を足に巻きながら夏莉が喘ぐ。

時々手を止めて足をさする。

周りの皆は身じろぎもせず見つめている。

「...終わりました」

夏莉の声に、
呪縛が解けたように
プロデューサーが我に返った。

「あ、,ああ....お疲れさん。
今日はもう終わりにしよう」

「え?..はい」

Tragedy−6
プロデューサーのごり押しにより
その10日後のオフ日に
再度撮影が組まれた。

夏莉の足はだいぶ回復し、
包帯で固定し
体重をかけすぎないようにすれば、
少し歩くことができるようになっていた。

医師はブレースなどの器具での
固定をするよう言っていたが
夏莉は付けるのをいやがった。

仕事場までは松葉杖を使って
左足をつかないように歩く。

今日の衣装は
鮮やかなブルーとグリーンプリントの
チュニックワンピ。
デートに出かける、という設定。


足は10日前より軽いものの
やはり包帯が固く巻かれている。

シルクのストッキングをはき、
大きめのサイズのハイヒールを
履こうとする夏莉。

が、腫れが残る包帯を巻いた左足は
なかなか入らない。

涙をにじませながら足を
やっと入れたものの、
ハイヒールの角度が
新たな痛みを引き起こす。

「ああっっつうっ....!
くっっ.....!!」

夏莉はハイヒールの左足を抱え
肩を震わせて耐えた。

AKIが文句を言うより早く、
プロデューサーが言った

「夏莉ちゃん、ハイヒールはやめよう。
ミュールでいこう」

「はい...」

ハイヒールを脱ぐのがまた大変だった。
足首を片手で押さえながら
かかとを無理矢理はずす。

「あああっっっ...!」

涙が頬を伝う。

しばし休憩がとられた後、
かかとの低いミュールサンダルを
履いた夏莉が鏡の前に立つ。

左足をかばいながら、角度を変え、
ポーズをとる。

足を引きずりながら
出かけようとして玄関に向かい、
段差で痛みに耐えきれず、
足首を抱えて座り込んだところで
その日の撮影は終了となった。

次の日
夏莉の足は再び腫れあがっていた。

ハイヒールを履いたり
脱いだりすることで
足首に無理な力がかかったせいと

実は、段差を降りる時に
捻ってしまっていたのだ。

夏莉は湿布を貼り、
痛みに震えながら、
包帯で足を厳重に固定する。

「大丈夫、大丈夫...」

自分に言い聞かせるように
口に出しながら立ち上がり、
足を床にのせる。

「いっっつ.....!!!!」

ほんの少しついただけなのに、
足首が砕けそうな痛みを感じた。

「ああっ......!!!
いたっ....!!!
痛いよお....」

痛みを我慢するのに慣れてきたと
自分では思っていたが、
回復していたのに
悪化させてしまった落胆からか、
耐えられない痛みに感じられる。

今日は夕方からDVD発売イベントがある。
グラビア数人での共同撮影会が
予定されていて、

最近軽めの包帯固定でなんとか
歩けるようになっていた夏莉は、
ロングブーツを履いて
イベントに登場しようと思っていた。

「こんな足じゃ無理だよ...
歩けないよお.....
うっ、えっ、ああんっ!」

足を抱えて泣きだした夏莉。

その時、インターホンからAKIの声がした。


Tragedy−7
「どう?夏莉チャン。歩ける?」

「うん!歩ける!すごーい!」

夏莉はゆっくりと歩く練習をしていた。

足はグラディエーターサンダルを
ものすごくごつくしたような感じの
茶色の革ブーツで覆われている。

昨日の夏莉の様子から、
また足を痛めたことに気づいていたAKIが
徹夜で改造してくれたブーツだった。

左足用のブーツは、
ふくらはぎ上部から膝上までを
数本の皮のベルトで締め付けて
がっちり固定し、
足首を中で浮かせたままにする
上げ底のような構造になっていた。

かなりごつい外見なので、
厳重に包帯を巻いた腫れた
足でもなんとか収まった。

右足用は外見はそっくりな厚底ブーツで
ベルトはただの飾りだったが、
左とは逆に大きすぎて
ぶかぶかだったので、
綿を巻きつけフィットさせる。

バニラアイスクリームのような
ふわふわの衣装には、
白いリボンがまるで包帯のように
巻き付けられていて、
超ミニのすそからちらりと覗く
華奢な足と、ごつすぎるブーツの
 アンバランスさが
何とも言えない魅力を醸し出す。

ブーツと痛み止めのおかげで、
夏莉は笑顔でイベントを
乗り切ることができた。

ところが、.....

イベントが終了し控え室に入った途端
夏莉は失神してしまい、
救急車で病院に運ばれた。

足首はますます腫れ上がっており、
厳重に巻かれた包帯とブーツにより
強く圧迫されていたため、
激しい痛みを起こしていた。

また、がっちりと固定され、
足を支えていたふくらはぎ上部と膝、
太ももは帯状に赤く変色し
熱を持っていた。

鎮痛剤の点滴と、
足を高く上げ氷で冷やす処置が
断続的に行われている。

「大....丈夫...だよね?..
私の足...?」

「....ああ、大丈夫だよ。
もう少し休んでから帰ろう」

「帰..れるんだね....。
よかった....。仕事
....できるよね?..」

「ああ...大丈夫。
今はゆっくり休みなさい」

カーテンの後ろで、
AKIが鳴き声を押し殺しながら、
夏莉とマネージャーのやり取りを聞いていた。

夏莉の足はダメージがひどく、
マネージャーもこれ以上は
無理させられないと判断し、
無理矢理入院させることにした。

反抗しようとした夏莉も、
左足全体の激しい痛みには
屈服するしかなかった。

1週間後
ふくらはぎ上部と膝、太ももの
挫傷による炎症がだいぶ回復したので
ようやく退院の許可が出たが、
夏莉の無茶に腹を立てていた医師は
問答無用で
足首にギプスをはめてしまった。

いや、もしかしたらマネージャーが
裏で手を回したのかもしれない..

退院はしたものの、
足首をギプスで固められ、
その上から太ももまでを包帯固定された
夏莉はマンションで
おとなしくしているしかなかった。

Tragedy−8
退院して数日後
例のプロデューサーから
写真集とDVDの編集について
打ち合わせしたい、との連絡が来た。

マネージャーのみで対応しようとしたが
プロデューサーは
しつこく夏莉の同席を求める。

しかたなく、夏莉は松葉杖をつき、
ギプスと包帯姿のままスタジオを訪れた。

夏莉は長めのゆったりとした
生成り色のワンピースを着ていたが
ソファに座りAKIがあてがってくれた
クッションに足をのせる時、
膝がうまく曲げられない状態であることや
太ももの方まで包帯が巻かれていることが
ハッキリわかった。

プロデューサーはギラギラした目で
夏莉の足を凝視している。
「夏....夏莉ちゃん....。
AKIから聞いたよ。
足、大変だったね?」

ようやく我に返ったように話しかける。

「いえ、すべて自分のせいですから。
それより、仕事の方は?」

「ああ、これ。今までの分、
一応確認してくれるかな?」

写真は、
怪我する場面こそなかったが、
ほとんど包帯姿の夏莉が
痛そうにしているものばかりだ。

「すいません。
こんな写真ばかりじゃマズいですよね。
足が治ったら一番にそちらでの
撮影を入れさせていただきますから」

恐縮してマネージャーが頭を下げる。

「うーん確かにちょっと足りないよね」

「はい」

「いや、あの......、
実は... 
足りないっていうのは....」

「.....?」

「夏莉ちゃん!頼む!
今日撮らせてくれないか?」

「ええっ?!」

うすうす気付いてはいたが、

プロデューサーは怪我フェチだった。

結局夏莉とマネージャーは
プロデューサーの熱意に負け、
撮影を引き受けた。

真っ赤なビキニを身につけ、
つま先から太ももまで
ギプスと包帯で覆われた姿

包帯をほどき、
内出血で紫に変色した膝を
痛そうに曲げ、
ギプスを抱える姿....。


Tragedy−9
一ヶ月後
夏莉の「リアル捻挫写真集&DVD」は
空前のヒット作となり、
夏莉は“怪我ドル”として
一躍有名になった。

夏莉はそう呼ばれるのをいやがり
早く足を直したかったが、
やっとギプスが取れたのに
足首は痛みがとれず不安定なまま。

ブレースだけはしたくないので、
普段はふくらはぎ中間あたりまで
がっちりと包帯固定をし、
移動時などには
松葉杖を使うことが多かった。

あのプロデューサーとの契約により
他の作品で包帯姿を露出する
ことはできないが、
移動時やプライベートの時などの
包帯&松葉杖姿がネットに流出し、
ファンの熱狂は高まった。

イベントの時などは目立たない肌色で
テーピングをしたり、ロングブーツで
なんとかごまかしていたが、

ヒールのある靴で歩くのは
激しい苦痛と困難を伴った。

無理して歩いたり、
殺到するファンに押されたりして、
何度も不安定な足首がぐらつき
痛みがぶり返すため、
夏莉の焦りは募った。

もし、またひどくなったら....

あのプロデューサーが
手ぐすね引いて待っているようで
ぞっとする夏莉だった。

「足はいつになったら治るんだろう?」

外出用のメイクを終えた
夏莉はため息をついた。

黒ニットの膝上丈ワンピに着替え、
固く左足の包帯を巻きなおし
黒いタイツを身に着ける。

タイツを履いても包帯の巻きスジが
うっすらと白く浮きだし、
その厚みがはっきりわかった。

「もうこんな時間...行かなきゃ...」

もう一度ため息をつき、
寝室を出た夏莉は
足首の痛みに顔をしかめた。

今日は寒いからいつもより足が痛い。
立ち止まって足をさすり、
足を引きずって玄関まで行く。

痛みをこらえながら黒いパンプスを履く。

「うっ..!..くっ..」

思わず涙が込み上げる。

しばらく足首を抱えて痛みに耐える。

やがて右脇にあてた松葉杖に体重を
預けるようにすがって歩き出した。

マネージャーの待つ地下駐車場に
向かいエレベーターホールを出た夏莉は

突然目の前に立ちふさがった
人影に悲鳴をあげた。

脇にそれて逃げようとするが、
足首に走る痛みに耐えきれず
倒れ込みそうになる。

騒ぎに驚いたマネージャーが
駆けつけるより早く、
倒れる寸前の夏莉を
抱き支えたのはAKIだった。

「あんた、何すんのよ!」

AKIは最近ファンの行動が
エスカレートしているのを心配し、
密かに夏莉の護衛をしていたのだ。

「あたしの夏莉チャンに手を出すん
じゃないわよ!」

AKIが夏莉の前に立ちはだかる。

それからの数秒間は、
まるでスローモーションのようだった。

襲撃者の背後から押さえ込もうと
するマネージャー。

髪を振り乱して襲撃者の顔に
爪をかけようとするAKI。

右手の松葉杖にかろうじてすがりながら
立ちすくむ夏莉..。

次の瞬間、
マネージャーを振り払った
襲撃者の頭と腕が、
激しい勢いでAKIの肩にぶつかり、
AKIが弾き跳ばされた。

AKIは
目を見開き立ちすくむ夏莉に激突し、
二人はそのままコンクリートの床に
叩き付けられた。

「ぐぎゃああっっっっ!!!!!!!」 

という、
誰のものかもわからない悲鳴と

「ゴギッ!!!」

「バギ!!!!」

「グゴゴ!!」という異音が響いた...。

サングラスとマスク、帽子を着けた
襲撃者は慌てて逃げ、
ようやく我に返ったマネージャーが
携帯で救急車を呼び

「夏莉!しっかりしてくれ!夏莉!!」

と何度も呼びかける。

体が不自然に折れ曲がったような夏莉は

白目を剥いたまま
ひくひくと痙攣している。
AKIは放心状態で
座り込んだままだった。

その後、夏莉の姿は人々の前から消えた。


Tragedy−10
...そこは、日本とは思えない。

おだやかな気候。

青い透き通るような青空と
エメラルドグリーンの海が見渡せる高台

ゴシック調のお城のような屋敷が建っている。

海を望む広大なテラスに
天蓋のついた白いベッドが置かれている。

その中に....
白い柔らかい布地のドレスに包まれた
女性が眠っている。  

優しい風がつややかな女性の髪を揺らし
髪が透けるような肌の頬をなでる。

「う..ん.....」

吐息がもれ、女性のまぶたが
ゆっくりと開かれる。

ふわふわの羽布団が背中にあてられ
半身が起こされているが、
それ以上動くことができないようだ。

女性が傍らのベルを左手で探り、
ほんの少しだけ持ち上げて鳴らした。


影のように潜んでいた人物が、
すぐさま音もなく近づき
キャスターのついたベッドを
屋根の下に移動させ、
脇に置いてあった車いすに
静かに女性を乗せる。

まるで体重がないかのような
女性の体は、
奇妙なカゴのようなものに包まれていた。

それは、あの惨劇から
半年ほどたった後の、
夏莉とAKIの姿だった。

右手に抱えた松葉杖ごと倒れ、
AKIに押しつぶされた形になった夏莉は

右半身を強く打ち、
鎖骨、肋骨、肩、腕に数カ所の骨折を
負っていた。

松葉杖と地面に挟まれた手のひらと指は
ほとんど骨が砕けたようになり、
松葉杖に叩き付けられた
右足の大腿部、下肢部分も骨折。

左足首はついに靭帯が完全に断裂し
脱臼状態になっていた。

頭は少し打ったものの、
顔だけは奇跡的に無傷だった。

折れた肋骨が肺に突き刺さり、
一時は生死の境をさまよった。

なんとか一命を取り留めた後、
状態のひどい骨折数カ所に
金属片を入れボルトでつないだり、
左足首の靭帯を縫合する手術をし、

その後2ヶ月間
ほとんど全身をギプスで固められ
病院のベッドから離れられなかった。

いったんギプスをはずした後も
数カ所の再手術、再々手術と
ギプス固定が必要で、
入院生活は半年に及んだ。

今も右半身は腰からつま先まで
アルミとシリコンなどで構成される
装具に包まれ、

右手はネック&ショルダーブレースから
つながったアルミの棒が肘の辺りで
90度に曲がって手首につながり、
手首からは1本1本の指に
細いアルミの装具が装着されている。

左足も膝下から足の甲までの
装具に覆われている。

自由に動かせるのは左手だけだが、
ずっと寝たきり状態だったため
自分では体を起こすことすら出来ない。

リハビリのため
入院はまだまだ必要だったが、
あまりにも夏莉の精神状態が
不安定になったため、
この地で療養させることにしたのだった。

骨折や靭帯は解剖学上では治っているが
夏莉はどうしてもリハビリを
始めようとしない。

それどころか、ほとんど口もきかず、
まるで人形のようになってしまった。
ひっそりと夏莉に寄り添う黒服のAKIも
全く別人のようだった。

夏莉を襲った犯人は、
変装したあのプロデューサーだった。
今は暴行罪で逮捕され、刑務所にいる。

会社からは莫大な賠償金が支払われ、
それによって夏莉の療養生活は
まかなわれている。

お城のような洋館は、
夏莉のファンである大富豪からの寄付。

入院中から現在までの夏莉の写真と
映像はAKIが定期的に撮影し
ネットで世界中に販売されているため、
生活には全く心配はなかった。

プロデューサーが密かに撮らせていた
襲撃シーンの映像が、
闇ルートで入手できる、という噂もある。

それにしても....
ゴスロリの衣装から始まった
夏莉の受難は
いつまでも続くように思えた。

そう、まるでゴシックロマンの
世界に幽閉された姫のように。

荘厳なお城のような屋敷で、
美しい衣装に包まれ、
装具で拘束された夏莉は
この世のものとは思えないほど美しい...。

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