「わたしだけのおいしいカレーを作るために」 感想。
水野仁輔さんの「わたしだけのおいしいカレーを作るために」をさっそく手に入れた。
水野さんのカレーに関する著書は多い。
20冊以上書かれているのに、帯には「水野仁輔初の料理エッセイ!」と書かれている。カレーのことばかり書いているのに、まだ「初」があるのがすごい。 というか、常に「初の試み」をしている方に思える。 レシピ本があり、スパイスの教科書があり、カレーのルーツを国内外探し求めたノンフィクションまである。昨年出版された「いちばんおいしい家カレーをつくる」でファイナルカレーがわかって、次はどうなることかと思っていたら「わたしだけのおいしいカレー」を1冊かけて解き明かすときた。読まずにはいられない。
もちろん、新しさはエッセイだからという書籍の切り口のせいだけではない。
水野さんの本を参考にしたら美味しいカレーができたから、こちらも「そうか、たまねぎはこう扱えばいいのか!」などとわかった気になって真似し続けていたのに、新しい本では御本人自らひっくり返してくる。えええええー!
そこが、すごくわくわくする。
過去にカレーを研究していたカレーに詳しい先生なのではなく、まさに今も研究し続けていて最新の考えを発表しているカレーに全力で向き合っている方だという証だと思う。
この本では、(この本を書いていた時期の、と勝手に書き添えておく)水野さん自身が最もおいしいと思うカレーのつくり方をたったひとつ紹介している。あとがきに振られていたナンバーは215。レシピのボリュームとしては前代未聞のページ数である。
今まで水野さんは、沢山の本を通じていろいろなおいしさを教えてくれた。それはどれも水野さんならではのテクニックや食材のバランスに基づいているので全部水野さんのおいしさだけど、今回のレシピはもっとプライベートなものだった。圧倒的に赤裸々だ。
それを正解として教えられるのではなく、水野さんが水野さんのおいしさに辿りついた行程をみちしるべに、私たち読者もまた、わたしだけのおいしいカレーに向き合う。
「カレーが好き」という共通点があったとして、あなたの好きと私の好きが完璧に一致しているわけではない。せつないようだけれど、みんなに嫌われないカレーがあるとしたらそれは平凡で強烈なときめきには至らないものかもしれない。また、強烈なときめきを「好き」という人もいれば、まったりした安らぎを「好き」という人もいるわけで、案外孤独な道である。
昨年、私もいわゆるルウカレーではなくスパイスを組み合わせてわたしのカレーをつくりはじめた。最初はレシピ通りに。何をどう変えたらどんな味になるのかをあれこれ試して、私らしい味が徐々にみえてきた。
私以外の人に食べてもらう時「私は大好きな味だけど...どうかな?」と不安が大きかったけれど、読み終わる頃には不安は消えていた。もちろん急に自信を持ったわけではなく、不安に思っても仕方がないとすがすがしくなったから。わたしはわたしの好きな味に向き合おう。
「読むカレーの本」だけれど、読むだけでいられるだろうか?
食材を買いに家を飛び出したくなった人はきっと私だけではないはずだ。
AIR SPICE http://www.airspice.jp/ で水野さんのレシピを再現するためのスパイスセットが売られている。便利だ。カレー作りのハードルをどこまで下げてくれるのか。
気軽に飛び込んだ沼が深い。
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