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フィンランド デザイン・建築博物館のこれまでとこれから

こんにちは、フィンランドAalto大学大学院にデザイン留学をしています、Mayuです。

以前の展覧会記録で少し触れたのですが、フィンランドのデザイン博物館と建築博物館が統合移転されるそうです。現在は最終決定の合意段階で、これから建築コンペが始まるみたいです。(2023年12月現在)
この二つの博物館は、Korkeavuorenkatuという地区にあり、二つの建物は今現在もすぐ近く(徒歩30秒)にあります。これらが一つの建物に統合され、運営母体となる新たな会社も設立されるそう。新会社自体は2024年1月からもう始動するみたいです。個人的に、これは結構な変化なのでと思い、どんなミュージアムになるのかとてもわくわくします。


二つの博物館の歴史


デザインミュージアムの起源は1873年に遡り、School of Applied Arts (Veistokoulu)の創設に伴い設立されました。1888年に新校舎"The House of Arts"(現在のアテネウム美術館)が完成し、美術学校と一緒に美術館の機能もそちらにうつります。しかし建物が狭かったことから、すぐに美術館だけ独立させることが決まり、数度にわたる移転を繰り返して、1979年に今の建物に落ち着きました。
ちなみに現在の建物は1883年にできたもので、もともとはBrobergska samskolan (ブロバーグの共同学校)と呼ばれるフィンランド初の共学学校のために建てられました。それまではフィンランドに共学というものは存在しなくて、男女分かれての教育が当たり前だったため、当時は共学は不道徳だと考える反対派もまだたくさんいたそうです。ですが、複数の学校を用意する必要がないという合理性や、男女平等を認めるべきだという主張が決め手となって学校は存続し、ここから共学が広まっていきました。日本での共学導入は1947年の教育基本法からなので、日本よりも遥かに早いですね。

デザイン美術館は75,000点の作品と45,000点のドローイング、125,000点の写真を貯蔵。デザイン博物館のパーマネント展は、小じんまりしているけれどよくまとまっていて、トピックも定期的に見直されているので好きです。

設立当初のデザイン博物館の目的は、現在のように優れた国内のデザインのショーケースというものとは少し異なります。主には、美術学校に通う生徒に優れたデザインを見せてそのレベルアップを図るというのが目的でした。この考え方は当時としては特段珍しいものではなかったそうです。
なので、初期の展示品には国内の成果だけでなく、国外の優れたデザインが多く含まれ、その多くはウィーン、ロンドン、パリ、ベルリン、ストックホルムなど近隣ヨーロッパ諸国で開催された万国博覧会から買い付けられてきたものが多かったようです。

設立初期の貯蔵品。英国のポット、フランスのペーパーウェイト、中国のカードホルダーなど。

一方の建築博物館は、1956年にSAFA(フィンランド建築家協会)によって設立され、建築に特化した博物館としては世界で二番目に古いとされています。(最古はモスクワのシチュセフ建築博物館。)現在の建物に移転したのは1982年で、この建物はもともとヘルシンキ大学によって使用されていた。新古典主義の建築で、大階段がとても美しいです。

ちなみに当初の名称はRakennustaiteen museo (the art of building museum) だったのが、2012年になってArkkitehtuurimuseo (architecture museum)になった。

建築博物館はパーマネント展はそこまで気合い入ってない感じかな?と個人的には思うのですが、アーカイブはとても充実していてよく管理されています。SAFAや著名なフィンランド人建築家たちによって寄付された書籍や、図面、新聞雑誌、建築家のインタビュー記録まで、かなり充実しています。

新しいデザイン博物館


新しい博物館は、Makasiiniranta地区に建設される予定だそうです。ここはオールドマーケットホールがある港のすぐそばで、エスプラナーディ通りからもほど近い、まさにヘルシンキ観光の中心地です。港のすぐ横にあるカイヴォプイスト公園の丘からはヘルシンキの街と海が見渡せ、特に夏のこのエリアは本当に美しいです。
今の博物館のロケーションはヘルシンキ中心地から少し離れていてやや行きにくいのですが、観光ど真ん中の場所に移転されることになるようです。

新しい建設予定地。エスプラナーディ通りからつながる港のエリアです。
https://www.admuseo.fi/eng-site/homepage

再開発地区のマスタープランのコンペは2021年から22年にかけて既に行われていて、Konsortium Granというチーム(Niam、K2S Architecs、White Arkitekter、Ramboll Finland、Rakennuttajatoimisto HTJ Oyが主要メンバーのよう。K2S Architectsはヘルシンキのカンッピの礼拝堂などを手がけている建築事務所)によるSaaret(アイランド)という提案が優勝しています。

出典:https://www.projektiuutiset.fi/saaret-ehdotus-voitti-helsingin-etelasataman-konseptikilpailun/

コンペでは特に周囲の景観や建築物との調和をどのようにバランスをとるかが重視されたみたいですが、歴史的建造物と自然が調和するこのエリアの景観は本当に大事にされていて、60年代にアールトが設計したエンソグッツァイトの本社ビルは建設にあたって結構もめたらしい。

奥に見える白い建物が物議をかもしたアールトによるエンソグッツァイト社の本社ビル。角砂糖とも呼ばれている。

再開発にあたって、現在は港の業務や駐車場として使われているこのエリア一帯を歩行者優先エリアにかえる予定のようです。港沿いを、車ではなく歩行者のための憩いの空間に開発しなおす、という思想はコペンハーゲンのニューハウンの歴史も思い出させます。最終的にはカイヴォプイスト公園ともつながって、一帯が心地よいひらけた空間になりそうです。

資金調達はほぼほぼ済んでいて、あとは新しいミュージアムに関する内容の最終合意が得られ次第ミュージアムの建築コンペが始まるそうです。2023年中には、と書いていましたけど、2023年はもう終わろうとしているので年明けくらいから本格的に進んでいくのではないかなと思います。

デザイン博物館では、どんなミュージアムを望むか、という投書ができるようになってます。

新しいミュージアムは展示だけでなくイベントや議論の中心地にもするということで、その立地も含め、デザインというものにどれだけフィンランドが気合を入れているかがよく分かります。ミュージアムの建築コンペがどんな感じで進んでいくのかも楽しみ。

参考:https://www.admuseo.fi/eng-site/homepage

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