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Aalto大学でのデザイン修士を目指される方へ。IDBM(Design)の雰囲気や学んでいること。

こんにちは、Mayuです。私は今、フィンランド Aalto大学の修士課程、IDBM (International Design Business Management)でデザインを学んでいます。

10月も半ばに差し掛かり、海外大学院の出願準備を進められている方は、モチベーションレターやポートフォリオ作成に本腰を入れられる頃ではないでしょうか。モチベーションレター作成にあたっては、「自分が何を学びたくて、大学では何が学べて、だから私はあなたの大学に行く必要があるんです」ということを伝えることになりますので、出願校のリサーチは皆さんかなりされていることと思います。
私も受験前、大学のウェブページとシラバスを隅々まで読んでいましたが、やはり一番参考になったのは、在学生の方のリアルな話でした。

なので本記事では、私が通うAalto大学、特にIDBM(Design学科) について、「Aalto大学の雰囲気ってどんな感じか?」「デザイン学科の中にもいくつかプログラムがあるけど、IDBMは何が特徴なのか?」「授業はどんな風に進み、何が学べそうなのか?」についてお伝えしたいと思います。まだ1ピリオド目を終えただけの段階ですが、何か一つでも、大学院留学を目指す方の参考になれば、と思っています。
また、今回は既にある程度大学についてリサーチをされている方に向けて書いていますので、ウェブ等で公知の情報はあまり詳細に書いておりません。ご質問があればまた追記していこうかな、と思っています。


IDBMの概要

私が所属するIDBM (International Design Business Management)の最大の特徴は、ビジネス・デザイン・テクノロジー領域の学際的なチームで実践的なプロジェクトに取り組み、コラボレーション能力や課題解決能力を身につけること、にあります。なので、IDBMの必修科目は全てビジネス・デザイン・テクノロジーの学生によるジョイント形式で行われます。IDBMのジョイント必修は下記の通りです。

IDBM Challengeは後述していますが、チームダイナミクスの実践学習及びIDBM全体のイントロの位置づけです。Corporate Entrepreneurship and Designは広義のブランディングに近い内容に感じました。
他、ビジネスモデルやプロトタイピングなど、ソリューション創出に必要なビジネス・デザイン・テクノロジーの基礎的な知識を学びます。
目玉であるIndustry Projectではパートナー企業と半年間実践的なプロジェクトに取り組み、学びを実践に反映していくような構成です。


IDBMにはどんな人がいるの?

IDBM全体の人数は50人くらいだと思います。各学科から1/3ずつ、と聞いていましたが、実際にはビジネス学科の学生が一番多く、ついでテクノロジー、デザインが一番少ないかな?と言う印象。グループに分かれる際も、大体ビジネス×2人、テクノロジー×2人、デザイン×1-2人、の構成になります。ただ、授業によって必ずしも全員が一年生ではなかったり、副専攻として受講している人もいるので正確な人数比はよく分かりません。
国籍で言うと、フィンランド+ヨーロッパ圏の学生が2/3、アジア圏の学生が1/3と言う感じでしょうか。アメリカ圏の学生にはまだ会っていません。

IDBM全体としては、何か新しいことを自分の力で起こしたい、自分のビジネスを立ち上げたい、というマインドの人が多くて、働きながら学びにきている人、既に起業している人も大勢います。むしろそちらの方が主流かもしれません。
みんな本当に色んなバックグラウンドを持っていて、一概にビジネスの学生、テクノロジーの学生、という風に区別はできないし、する必要もない、という印象があります。テクノロジーの学生も自分でビジネスをやっていたりするし、ビジネスの学生もデザインツールを使いこなしてサクサクとデザインしたりします。
なので「何か一つの専門的なスキルを身につける」というよりは、「人とコラボレーションして、カオスな状況でも、協力して課題に立ち向かっていくスキルとやり抜く力」を身につけることが根底にあるのかな、と思います。

IDBM(Design) の概要

私はデザイン学科に所属しており、その中でIDBMというプログラムを専攻している、ということになります。なのでIDBM(Design)の修士号はMaster of Artsとなります。上述のIDBMジョイント必修に加え、IDBM(Design)の学生はデザイン学科のジョイント必修授業を受講します。

デザイン必修科目は非常に基礎的なものです

さらに、デザインの専門的スキル獲得を目的として、デザイン学科が提供する授業から8~10単位分を自身で選択して受講します。
加えて、30単位分の選択授業を受講します。これは本当に何でもありの枠で、デザイン学科の授業ばかりをとっても良いし、デザインと全く関係のない別の学科の授業をとっても良いとされています。過去には、デザインが人の認知に及ぼす影響を探求したいので脳科学の授業をとっていた学生もいる、とスタディコーディネーターの方から聞きました。
とは言え、一年目はIDBMのジョイント必修でスケジュールがほぼ埋まるので、基本的に一年目はIDBMとデザイン学科の必修科目に集中し、二年目に修士論文のテーマやキャリアプラン、個人的な興味に合わせて選択科目を受講していくことになるようです。

IDBM(Design)にはどんな人がいるの?

IDBM(Design)の学生は多分15人くらいです。私が受験した時の倍率は10倍くらいだったのではないかなと思います。(インタビュー試験の時に、「150人以上の候補者がいるんですよ。あなたを選ぶメリットは?」と聞かれて、すっかり弱気になった思い出があります。)
IDBM(Design)の学生のバックグラウンドは様々ですが、同級生はプロダクトかグラフィックデザインを専攻していた人が多いです。ただし、私の学部専攻はデザインではないですが合格しているので、学部時代の専攻は必ずしも関係ないと思います。
同級生たちがIDBMを選んだ理由としては、「働いている中でデザイナーの役割の制限を感じた、根本的な課題解決に貢献できてないと感じた」「どうやって他の分野とコラボレーションしてデザインの価値を発揮するか知りたい」「最新のテクノロジーと併せて新しい提案をしたい」などなど。学部から上がってきている学生もいますが少数で、社会人経験のある人が多いです。デザインの現場で何かしらハードルを感じて、その解決の糸口を学びにきているという人が多いように感じます。

IDBMの授業の雰囲気、何が学べるのか(デザイン学生視点)

上述のように、IDBMはコラボレーションを大前提としていますので、恐らく全ての授業が各学科の学生で構成されるグループワーク中心に進みます。
1ピリオド目の主要科目であるIDBM Challengeでは、チームダイナミクスの学習をベースとしつつ、基本的なデザインフレームワークを猛スピードで体験し、トランジションデザインのエッセンスも学び、ピッチの作法を学び、最終的にはピッチイベントを実際に開催する、これを1ヶ月半で、と言うてんこ盛りの内容。
グループワークの合間合間で関連する理論のレクチャーがあるのですが、基本的にレクチャーはそんなに丁寧ではありませんし、目新しい理論を学ぶ、と言う感じでもありません。割と基本的な理論が紹介され、それらについて個人で文献を読み込み、グループワークの中で実践して、そこから疑問に思ったことについて自分で新たな関連研究を参照して、何を学んだかをレポート形式で振り返る、というスタイルです。理論研究と実践を行き来して、理論を使えるものにする、という感じでしょうか。ただ先生もチューターの方もとても親切で距離が近いので、知りたいことがあればいくらでも話してくれますし、提案の内容も真剣に一緒に考えてくれます。

もう一つの個人的な感想として、スピードが速い。全部の。1ヶ月半で1ピリオドが終わるというのも忙しない感じですし、先ほども書いたように働きながら学びにきている学生が多いので、みんな予定がパンパンなんです。なので、グループでの話し合いが終わると、「ごめん!仕事いかなきゃ!」と言って風のように走って去っていきます。ぼーっとしている私は、最初はこの怒涛のディスカッションの雰囲気にちょっとのまれちゃいましたが、まぁ段々と慣れてきます。
でもみんな休む時はちゃんと休み、土日はやらないスタイルなのは救いです。グループワークの初めに「土日の打ち合わせや持ち帰り課題はどうするか?」と言う議論になったのですが、「ごめん、土日はできない、心の休息が必要だから」と言っていたチームメイトがいました。心の休息が必要、とちゃんと言えるのは素晴らしいです。

他に良い点として、企業と距離が近いことがあるかなと思います。授業の中でもたびたび外部のゲスト講師によるレクチャーがあったり、企業訪問があったりします。IDBMの卒業生との繋がりで、という感じのようです。卒業後のキャリアは様々なようですが、フィンランド国内ではデザインコンサル関係の職についたり自身でデザインファームを立ち上げている人が多いような印象です。
ある日先生が体調不良の日に、急遽ヘルシンキ市のデザインコンサルをしている企業の方がレクチャーに来てくれたこともありました。他にもスタートアップ含む企業との接点が様々に用意されているので、外に視点を向けるという意味では恵まれた環境だと思います。

他のデザインプログラムとの違い

私の場合、まずデザイン学科に出願することは決めていて、その中で下記の三つのプログラムを検討しました。恐らくAaltoのデザインを検討される方はこの三つで迷われる方も多いのではないでしょうか。

Collaborative and Industrial Design (CoID)
Creative Sustainability (CS)
International Design Business Management (IDBM)

下記、私の主観になりますが、三つのコースの特徴を記載しています。より詳細な情報が知りたい方は、noteにも各プログラムの卒業生/ 在学生のライターさんがいらっしゃると思いますし、ブログなんかも検索するとヒットするのでそちらも併せて情報収集いただくと良いと思います。

Collaborative and Industrial Design (CoID)
三つの中では最もデザインの専門性が高いと思います。CoIDの中でも更にプロダクト、UI/UX、サービス、と専門分野を選択していくそうなので、具体的に追求したいデザイン領域がある方は良いのではないでしょうか。コデザインに関心がある方もCoIDがメインになってくると思います。基本的にはグループワークが中心と聞いていますが、IDBMとの違いとしてはメンバーがデザイン学科の学生が主であることかなと思います。

Creative Sustainability (CS)
サステナビリティに強い関心がある、サステナビリティに関連する具体的な関心領域を明確に持っている方に良いと思います。サステナビリティという強いゴール目標があって、そこに向けてデザインのアプローチを考える、という順序かも。非常に人気のコースで、既にサステナビリティに関する活動に積極的に関与している学生が多いようです。授業内容についてはまだ詳しく知らないのですが、生物多様性の研究のためにキャンパス内で蜂を培養している?という話も聞き、ユニークなプログラムだと思います。

International Design Business Management (IDBM)
デザインの実務経験を積む中で他分野とのコラボレーションやデザインの拡がりに何らかの課題意識を持っている、他分野とコラボレーションして新しいことを生み出したい、という方に合っていると思います。個人的には、カオスに対する耐性やマネジメント能力もかなり身につきそうだなと感じています。
逆に、IDBMの必修だけでは具体的なデザインスキルを伸ばすことにはやや不向きかもしれません。選択科目を中心に、自分の必要なスキルに関連する授業で補っていくことになります。

応募の優先順位づけとしては、各プログラムの必修科目で何が受講できるか、を見られると良いかなと思います。というのも、選択科目で他プログラムの授業をとることももちろん可能なのですが、人気の授業の場合、主専攻の学生が優先的に選ばれ余った枠を抽選、という仕組みになっているからです。それぞれのプログラムの目玉授業は当然人気なので、デザイン学科の学生であっても主専攻でなければ選ばれないケースもあるみたいです。
なので、各プログラムのカリキュラムを参照された上で、譲れない授業を決めて、それに該当するプログラムを第一志望に据えられるのが良いのではないでしょうか。

というわけで、私が所属するIDBM(Design)を中心に、雰囲気や何が学べるのかをご紹介しました。
すごく大雑把にまとめると「どんなメンバーとでもとにかく協働してやり切る、やり抜く力をつける」「学んだら即実践する環境に身を置く」「外に視点を向ける(大学の中に閉じない)」というところがIDBMの特徴かなと思います。もし大学院生活をやり切れたら、色んな意味で逞しくなりそうだな、という印象を今のところは持っています。

とは言え、まだ1ピリオド目を終えただけなので、学ぶ内容も受ける印象も、どんどん変わってくるとは思います。また時間が経ったら、新しい気づきを書き足していけたらなと思います。

少しでも留学を検討される方の参考になれば嬉しいです。ご覧いただきありがとうございました。


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