あの日に囚われたまま。
外に出ると少しだけ冷たい風が頬を撫でていく。あぁ、もう秋なんだなと実感する。
あんなに焼けるように痛かった日差しはいつの間にか柔らかい優しい日の光として降り注いでいる。
蝉の声は聞こえなくなり、代わりに鈴虫が鳴いている。
この季節は過ごしやすくていいのだけど、私にとってはあの人を思い出す季節となり、どうにも切ない感情が押し寄せる。
忘れられない人は誰しも1人や2人いるだろう。
ただ私にとっては、忘れられないどころか今でも目を閉じれば全てを思い出してしまうくらい鮮明に記憶している。
そう。唯一、特別な人。
もし過去に戻れるとして、同じ人生を辿るとしても私はまたあなたに出会う人生を選ぶんだろうなと思う。
それがどんなに切なくて悲しくて胸が張り裂けそうなくらい涙が止まらない日々を再び経験することになろうとも。
限られた時間であり、いずれ別れが来ると分かっていても、あんなにも幸せな時間は何にも代えがたいものであるからだ。
もう少し会うタイミングが違ったら、もっと違う結末だったのかな。
それとも全く交わらない世界線の中で生きていたのかもしれないね。
色々な世界線があって、きっとパラレルワールドがあることだろうかと時々想像さえしてしまう。
そんなことに想いを馳せることもあるけれども、いつまでも逃げていないで私は今いるこの世界線を生きているのだから、きちんと向き合わなければいけない。
それでもこの季節だけは敵わない。
この秋の香りは、あの日と同じままだ。
どうしても私の心はあの日に囚われたまま時を越えられないらしい。
それであるならば、永遠に秋しか来ないわけではないのだから、毎年この時期はあなたとの思い出に浸かる日々を過ごしてもいいかと諦めている。
寒い冬が来るまで。
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