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読書日記(2024年3月)

なんだかよくわからないうちに過ぎていった大阪最後の月。
本を読んだ記憶があまりないのだけれど、振り返るとまぁいつも通り読んでいた。なんか新潮文庫が多い。

大阪の自宅に置いてきた本もあり、背表紙の写真と本文の引用は省略。今後も大阪と東京を行き来することになるので、このあたりどうしようかな、と少し思案しています。


焼き餃子と名画座|平松 洋子

佐久間ゆいさんと一緒に北浜であなごを食べたとき(おいしかった)、東京の西のほうに住む、という話をしたらおすすめいただいた本。
フードエッセイは好きでよく読むけれど、新しい方の本を手に取るたびに、視点も空気感も人によってぜんぜん違うなと驚く。
平松さんのエッセイは、平易な無駄のない言葉しか使われていないのに、その場の空気や食のよろこびがぐんぐん流れ込んでくる。トンカツを食べたくなった時の心情が事細かに書かれている一編を読んだら、私までトンカツが食べたくてたまらなくなり困った。お酒を飲む様子がたくさん書かれているのも、いいな、と思う。

この世にたやすい仕事はない|津村 記久子

夫が買ってきたのを借りて読んだ。
バスのアナウンスの原稿を作るとか、小説家の家を監視カメラでひたすら見張るとか、おかきの袋裏の「ひとこと」を考えるとか、ニッチすぎる仕事を渡り歩く主人公の話。どれも絶妙にありそうでなさそうで、ちょっとファンタジーな雰囲気もあるのにそれぞれの仕事で生じる苦労や苦悩がめちゃくちゃリアルで、宙ぶらりんな気持ちで読み進めることになる。
私もたまに「仔ポメラニアンにひたすら登られるような仕事ないかな」と思ったりするけれど、その仕事にも多分苦労はあるんだよな。
謎が投げっぱなしになったり後味の悪い終わり方をしたりする話が多くて、現実の仕事って確かに、そうだよなあ……と思いながら、読み終わるとなぜかすがすがしい気分になる、不思議な本だった。

鉄鼠の檻|京極 夏彦

YouTubeの『ゲームさんぽ』(いろいろな分野の専門家がゲームの世界のあれこれを分析するとても面白いチャンネル)で、大正大学 仏教学部の教授が出ておられた回を見て読み返したくなった。
ミステリって通常あまり読み返す気にならないのだけれど、京極堂シリーズは私の情報整理能力だと、一度読むだけでは「とりあえず犯人と動機はわかった」程度の理解しかできない。よって、読み返してナンボ。前に読んだときよりも禅の歴史やお坊さん同士の関係性がすっと頭に入ってきて満足した。ほぼ民俗学の教科書として読んでいる節があります。

放課後の音符キイノート|山田 詠美

十数年は優に読み返していなかったのに、荷造りの途中でなぜか手に取って一気に読んでしまった。中学生くらいのときに買ったと思うんだけど、裏表紙の値段が362円(税別)となっていて時代を感じる。今そんな値段で本買えないよ。そして今見たら文庫版の表紙が変わっている……!
山田詠美さんは本当に、「特別な女の子」を書くのがうまいなあと思う。集団の中でふわりと浮き上がって、静かな、あるいは強烈な光を放つ女の子。買った当時は、そんな存在になりたいと焦がれながら読んでいた覚えがある。今読み返すと物語自体はもちろん、そのときの自分の自意識ごとまぶしくて甘酸っぱい。


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