終わりのない幸福などない

実家に帰省して2日目。田舎の夜は寒い。
父はお酒が入り早々に自分の部屋に寝に行ったらしい。
こたつの中に肩まで入って寝転んだ私の視界にはテーブルの上の積み重なったみかんの頭が少しだけみえる。
壁に掛けてある時計はここからは、かろうじてみえて午後6時12分になるようだ。
つけっ放しのテレビから正月らしいクイズ番組が流れているが、誰も真剣にはみていない。
うつ伏せになり、巨大な甲羅を持った亀のようにこたつの中を独占する。
右側にはさっき入ってきた夫の冷えた足先が。その向かいには正座をしながらこたつにあたる母の太ももがある。
わたしはさらにだらりと体を投げ出し、こたつの中でゆるく大の字になりながら左右の足で夫と母親の足に静かに触れる。
妙な安心感に包まれ徐々にまどろみながら、そういえば子どもの時にも同じようにこたつの中にある父と母の足にそっと触れて確認していたことを思い出す。
子どもの時の無意識さはアラサーになって、懐しいデジャブとして感情の輪郭を持って現れる。
ふとアラサーになった私は幸福という言葉が浮かぶが、とてつもなく早いスピードで儚いことのように感じなんとも言えない気持ちになる。
あと何度このデジャブ的幸福の輪郭をなぞることができるのだろうか。
そんなないまぜになる感情から意識をそらしたくてどうでもいいテレビを眺める。


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