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エジプトのデート❤相手は米軍スナイパー、そしてエジプト人映画俳優!!

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国が国だけあってか、エジプトでデートする相手の職業や肩書きはなかなか珍しいものが多かった。

まずは米軍人スナイパー。70年代?のアメリカアクションドラマ『私立探偵マグナム』のマグナムに似ていた。背の高い感じとか体格とか顔の雰囲気やヒゲのあたりが。

マグナム氏とはカイロの巨大なアメリカン大使館(カイロのアメリカ大使館は世界一マンモスだったはずだが、実際広大だった)のパーティーで出会った。

ちなみにどこの国でも、日本大使館は必ずアメリカン大使館のすぐご近所にあるものだ、と誰かが言っていた。本当かな?


私はちょうどレバノン観光旅行から戻ってきたばかりだった。するとマグナム氏は

「自分もレバノンには行ったことあるよ」。

「レバノンは美しい国ですよねぇ~!バールバック遺跡や海水浴には行きました?」

マグナム氏は首を振った。「いや、深夜に上空から飛び降りて入国しただけで、一切観光はできなかった。残念だ」

????

「ベイルートのアメリカン大使館爆破事件の時に、大使館員救助のための特殊任務でレバノン入りしたんだ。

あ、自分の職業はスナイパーなんだよ。だから上空から縄でスルスルって降りて入ったんだ」

...マジか! 


マグナム氏は私よりずっと年長だった。今頃気づいたが、

「こんな若い日本人の小娘が、カイロにたったひとりで住んでいる、大丈夫なのか!?」という心配もあって、それできっと気にかけていろいろ誘ってくれたんじゃないかなと思う。


それはともかく、マグナム氏とのデートはなかなか変わっていた。まずは初デートの行き先はシューティングクラブ(射撃場)だった。確か実弾玉による射撃だったと思う。

「銃の撃ち方は知っておいた方がいいよ、いずれきっと役立つからね」と言われたが、むろん今に至るまで全く役立っておらず。

ちなみにカイロ市内にはいくつか銃の店があった。一応、ライセンスがないと銃と実弾の玉は購入できないはずだったが、そこはエジプトだから実際はわからない。また、旧ソ連製とポーランド製の銃が売られていたと思う。


むろん、定番なデート先の夜のカイロタワーにも、一緒に出かけたことは出かけた。

ちなみにカイロタワーといっても高さは全然大したことがない。そのくせ、入場料は高い。外国人料金は確か十か二十ポンド、エジプト人料金の倍以上だ。

もっともカイロタワーに限らず、すべての観光地や公共乗り物(国内線飛行機含)そして映画館でも外国人料金というものが存在していた。高い!


カイロタワーのエレベーターに乗ったとき、マグナム氏はあ、と思い出したようにさりげなく言った。

「そういえばちょっと前にこのエレベーターの中で、ユダヤ人たちがテロリストに襲われたんだよね」。

...!!!そういうことはもっと早く言ってくれ、と思ったがマグナム氏のテロ事件情報は、日本大使館からかかってくる『テロのお知らせ』電話よりずっと早かった。さすが米軍人!


マグナム氏は日本にも駐在経験があった。日本では何をしていたのか、と聞くと

「米軍基地(神奈川)のアメリカンハイスクールで高校生に実弾による射撃を教えたり、あとは北〇鮮のスパイ暗号をキャッチする地味な仕事もさせられていたなあ。

東京には世界中のスパイが集まっていたねえ。日本はスパイを取り締まる法律がないだろ?だから東京はスパイが潜入するもってこいの街だった、ワハハ!」。

「...」

マグナム氏いわく、スパイ活動をするなら東京が一番やり易い(取り締まる法律がないため)、

そして万が一、捕まった場合はエジプトの刑務所に入るのが最もラッキーだという。

「エジプトは全てにおいて、コネと賄賂で何ともなる。だから世界で一番出やすい刑務所は、エジプトの刑務所なのさ。ハハハ」。


その後、マグナム氏はワシントンDCに帰ってしまい、それっきりだ。ただ、一度だけアメリカの向こうから国際電話をかけてくれたことはあった。

だけども、エジプト側に盗聴されているのが露骨で(受話器の向こうで、ひそひそ喋るアラビア語が聞こえていた上、声が反響しまくっていた)、あまり大した会話ができなかった...


次に出会ったのが、エジプト人の映画スターだった。場所はマリオットホテルのパブだった。(ちなみにバーではなくパブ。エジプトもイギリス英語なので、アパートもフラット、クッキーはビスケット!)

あっさり言えば身も蓋も無い、ただのナンパだったが、明るくて面白くて感じが良かった上、米語がめちゃくちゃ流暢の上(ロサンゼルスの大学出だった)、当時のエジプトでは珍しいドイツ車に乗っていた。

なので、軽いノリで気軽に会うようになったが、すぐに気になったことが2,3あった。

いつも面白おかしくジョークを話す明るくて面白い男性だったが、絶対に職業を言わなかった。

職業不明は気になったが、一緒にいるとずっと大笑いさせてはくれていたので、

「何の仕事をしているのにせよ、あなたはコメディアンになるべき。コメディアンの才能がある、コメディアンを目指しなさい!」。

私が繰り返してしつこくそう薦める都度、愉快氏はニコニコするだけだった。


職業がミステリアスの上、会える時間はいつも真夜中過ぎだった。カイロには朝まで営業している店はいくつもあったので、出かけ先に困ることはなかったけど。でも深夜にしか会えないってどういうこと?

その上、あまりにも気前が良かった。高級レストランやクラブでバンバン大枚はたき、チップもどーんと払っていた。またパーティーでもどこでもかしこでも、愉快氏は顔が広かった。だれもかもが彼を知っているようだった。


うーん...私は唸った。これはどう考えても、愉快氏はマフィアだなと思った。

いつも大金を持っていて、変な時間帯にしか会えずそして顔が異様に広い。

マフィアしかありえないと思った。

これより以前に、私はちょっと喋っただけの、ルクソールのマフィアのお爺さんに求婚されたことがあった。

三番目の妻に日本人でも欲しいな、とふと思ったらしい、それで白いラクダを数頭、結納品として贈られそうになったことがある。

それで、また同じようなややこしい事態は御免だ、と私は思った。だから、ある時愉快氏のドイツ車に乗せてもらっていた時に、深呼吸をしてから氏に詰め寄った。

「ねえ、あなたはマフィアじゃないの?マフィアならもう会えない!」。

すると愉快氏は黙り、「分かった、僕の正体を教えるよ。何も言わないでついてきて」。

組織のアジトにも連れて行かれるのか!?とびっくりした。だけど到着したのはダウンタウンにある映画館だった。

ぬぬぬ?と首を傾げつつも、一緒に劇場内に入った。

席は満席で活気に満ちていた。館内が暗くなり上映が始まると、エジプト人たちが待ってました!と言わんばかりに手を叩き、ヒューヒュー口笛を鳴らした。

そして大画面に主役の男優が登場すると、ドッと大喚声が上がった。でも一番大声を上げたかったのは、私だ。ひい!と息を呑まずにはいられない、あんぐりせずにはいられない!

だって、愉快氏なのだ、隣に座る愉快氏が映画館のスクリーンに登場しているのだ!!

そう、愉快氏は主役を務める映画スターだった!!

エジプトの映画看板やポスターは写真ではなく、こってり描かれたあつ苦しいペンキ画ばかりだった。なので同一人物とは全く気がつかなかった。

これでもろもろの疑問を解けた。深夜にしか会えなかったのは、いつもそれまで撮影が長引いているから、お金持ちなのは映画俳優だから、そして大勢に顔が広いのも愉快氏がスターだから!

....

映画スターに私は「コメディアン(芸人)になれなれ」と上から目線で偉そうにアドバイスしていたのか...

なんてこったと穴があったら入りたいぐらいだ。


そうそう、愉快氏の話で何となく覚えているのは、カイロは中東のハリウッドと呼ばれており、エジプト映画はアラブ諸国で大人気であること、

そして女優はどうしてもエジプト人女優よりも色白で美人が多いレバノン人やシリア人女優の起用が多い、など。


結局、愉快氏とは自然にご縁が切れた。喧嘩とかは全くなかったかな、向こうがすべてにおいて余裕がある大きな人だったから。

ただこちらも学業や仕事があったので、さすがに深夜過ぎにしか会えないのは体力的にきつく、日常生活に支障があった。あとあまりにも世界が違う、ついていけないといおうかまばゆい過ぎる!

また、愉快氏が映画スターと知ってしまってから、私の方が妙に気後れをおぼえ、ギクシャクするようになった。それで向こうもつまらなくなったのだろう、何となく徐々に疎遠になってしまった。


ちなみについ最近、愉快氏をスマホで検索してみた。きっと今頃、大御所俳優になっているに違いないと好奇心がわいたのだ。

が、あっ...下の名前、苗字を覚えていない!

とりあえず上の名前のファーストネームで検索をかけてみた。するとなんと!

同じファーストネームのエジプト人俳優がごまんといる!しかもみんな顔も似ている!!

だから結局、愉快氏の現在は全く分からなかった。だけどその方がむしろいいのだろうな、つかの間に見させてもらったアラビア千一夜物語の思い出は美しいまま永遠に✨...

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