非・不愉快
日頃よく街を歩くのだが、ここ数年でガラッと変わった風景がある。
そう、アレだ。アレを使っている人が本当に増えた。特に比較的若い男女を中心にアレが浸透しているようで、アレを使っている人々がアレを使っていない人々に対して「アレじゃないと不便じゃない?」と疑問に思うことが多々あるらしい。私はアレを使っていないために、実際にアレを使っている友人に言われた。
申し訳ない。大変失礼した。
アレってのはコレだ。ワイヤレスイヤホンだ。有線が当たり前だったあの頃、イヤホンが無線で使える日が来るとは思わなかった、という感慨もつかの間、爆速的に普及していないか?ワイヤレス。
先述のように私はバリバリ有線ユーザーなので、「今時有線使ってんの!」なんて言われた日には逆にそのワイヤレスイヤホンを押し込んで鼓膜を破壊してやりたい衝動にかられるのだが、まあ、ワイヤレスイヤホンが市民権を得たことについてとやかく異議を申し立てるつもりはない。
が、ワイヤレスイヤホンが、さも「最初から有線などなかった」というツラをしているのが気に食わないのである。
先日のことだ。
先ほどとは別の友人に、また私が有線イヤホンを使っていることを伝えたら
「へえ、ノンワイヤレスイヤホンなんだ~」
と言われた。びっくりした。耳がイヤホンでふさがっていて聞き間違えたかと思い、耳に手を当てたがそうでもないらしい。
ノンワイヤレスイヤホン。
ノン・ワイヤレスイヤホン。
中学時代、数学の先生が言っていた。
「マイナスとマイナスをかけるとプラスになります。」
あの頃の、そういうんもんか、というおぼろげな感覚が、今はっきりと私の頭の中で浮かんでいる。
教育とは、学校を出たあとにこそ残るものらしい。
ありがとう、数学のS先生。あなたがくれた藁半紙のプリントが、私の足元を照らし、導いてくれた。
「それ、普通のイヤホンじゃねーか。」
「あ、そうか。でも今世の中みんなノンワイヤレスイヤホンじゃないのを使ってるぜ」
マイナスとマイナスをかけたものに、マイナスをかけるとどうなるか、S先生は教えてくれただろうか。
過去の自分に問うために、時間をマイナスに進める方法を、私はまだ知らない。
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