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スーツのせい?

始まりがあれば、終わりがある。
スタートしたのだから、ゴールがある。
それが、自分の望んだ形のゴールかは、・・・また別の話だ。

いつの間にか、子どもは成長している。
抱きしめた時の頭の高さや、
抱っこした時の重さもそうだが、
その考え方や、想像力。言葉に驚かさせることが多い。

「ほら、見て」
と娘が、壁に貼られた身長計の前に立つ。

「これ、なんて意味?」
風呂場の前に貼られた身長計には、120cm以上の異性の入浴は禁止と書かれていた。

「じゃあ、もうすぐ、一緒には入れなくなるね」
あと、5cmで娘と僕は銭湯で一緒に入ることが出来なくなる。

娘と一緒に、初めて銭湯に来た日はいつだろう?
考えてみるが、思い出せない。

息子の入園式の日のことだ。
晴天にも恵まれ、入園式に出席した、パパ、妻、娘、そして主役の息子も全員、汗だくだった。

4月の暑い日だった、ということもあるが。
入園式が行われた場所が

そう、

森、だからだ。


息子は入園式に、あーちゃん(僕の母)が手作りした、深緑色のチェック柄のパンツとベスト。
白いシャツに、少し大きめの黒い蝶ネクタイを着ることに決めていた。

「森の中だから、保護者の格好は結構バラバラだから、好きにすればいいんじゃない?」

と、妻はいつも通り、困ることをサラリと言う。

結局、息子の格好に合わせ、スーツと革靴で行くことにした。
その結果。

暑ちぃ。


年長になった長女は、自分達で付けた桜の塩漬けを使用した桜茶を、到着した入園児と、その保護者へ振る舞っていた。

スーツ姿の息子を見て。
お盆に載せたお茶を運ぶ娘を見て。
子どもの成長を感じながら、少しだけしょっぱく熱い桜茶を頂く。

式典が無事に終わり、森でピクニックのようにみんなでお弁当を食べる。
食後は当然、子どもたちは、元気に遊び始める。

「遊ぼっ」

と娘に誘われるが、革靴では上手く走ることができない。
しかも、森の中だ、足場は最悪に悪い。
すでに、何もしていないのに革靴は砂と埃。土汚れが付着している。

「ごめん。この格好じゃ走れないや」
「・・・じゃあ、抱っこ」

と、少し高い木に、目の前に立った子どもをひたすら乗せて、下ろす。
といったエレベーター役に徹し続ける。

動ける格好で来た、他のお父さんたちは、

枝という剣を持った勇者や、炭治郎や、ダイや、ゾロたちに
(・・・蛮族にしか見えないが)

・・・バシバシと切られている。
(正確には逃げ回っている)

あぶねぇっ!スーツで良かった!

と思ったのは、娘には内緒だ。

場が解散する頃には、見渡す大人、子ども。全員が汗だくだった。

これは、もうお風呂に行こう、と提案すると、
「今日は、息子くんの、入園式だから息子くんが行きたいならいいよ」
と娘は答え、

今日は、もう、外食にしよう、と妻が提案すると、
「今日は、息子くんの、入園式だから息子くんが食べたい物を決めればいいよ」
と娘が言い切る。

じゃあ、今日はどっちとお風呂に入る?と尋ねると、
「今日は、息子くんの、入園式だから息子くんが決めればいいよ」
と、どこまでも息子の日であることを、尊重し、息子の意思を優先する。

娘の優しさの余韻に浸ることなく、

「じゃあ、ママ」

と、容赦なく息子はパパを切り捨てる。

露天風呂に浸かり、しみじみと子どもの優しさと成長を噛み締める。

この1年間の全てが、娘にとっては幼稚園の最後の行事になる。
この数年の間で、娘と入る銭湯は最後になる。
そして、小さな最後は日常に溢れている。

なーんて、考えながら露天風呂から見える景色を眺めた。

「パパさ」

「なに?」

「今日」

「うん」

「人気なかったね」


「えっ?」


「○○パパや、△△パパはさ、

みんなに人気だった・・・よね?」


「はっ、・・・はい。」

「次の、親子参観には来るの?」


「・・・さっ、参加させていただく・・・予定でいます」

「スーツ?」


「いっ、いいえっ! その際には、動ける格好で・・・」

「次は、人気

・・・あるといいねぇ」


「じっ、次回こそっ、次回こそは、」

と、ボスにミスを報告する悪役幹部の気持ちを味わいながら見た
露天風呂の景色を、僕はきっと、

一生忘れない。

・・・一生忘れない。

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