見出し画像

イングマール・ベルイマン監督『野いちご』自分の人生はムダだったのか?


<作品情報>

スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンが、ひとりの老人の1日を通して人生のむなしさや孤独をつづり、ベルリン国際映画祭金熊賞をはじめ数々の映画賞に輝いた傑作ドラマ。名誉博士号を授与されることになった老教授が車で授与式場へと向かう道のりを、老教授の回想や悪夢を織り交ぜながら描いていく。老教授を演じるのはサイレント期の名監督として知られるビクトル・シェストレムで、本作が遺作となった。

1957年製作/89分/スウェーデン
原題:Smultronstallet
配給:ザジフィルムズ、マジックアワー
劇場公開日:2018年7月21日

<作品評価>

85点(100点満点)
オススメ度:★★★★☆

<短評>

上村
 人生振り返りものの原点にして最高傑作!
 デ・キリコのような誰もいない街、人生の裁判など抽象的で奇妙なシーンが挟み込まれ、「自分の人生には何もないのではないか」と思い始めます。
今までみたベルイマン作品の中で一番好きでした。全てのシーンや登場人物に象徴的な意味があり、それが破綻せず一つの物語として流れているのが見事としか言いようがありません。
 同じ女優が演じる二人のサラ、神学者と医者を目指す二人の恋人、仲の悪い夫婦…全てに意味があります。
 最後に記憶の奥の父と母に会い、現実のサラではあるがある意味想いを遂げるのです。彼は許されたのです。

吉原
 私が初めて観たベルイマン作品です。医師として名誉学位を授与されるまでの道のりを悪夢、空想、追憶などを交えて描いたロードムービーで、様々な人と出逢いながら自分の人生を振り返っていきます。ロードムービーは主人公の人生に何らかの変化をもたらすことがテーマの一つですが、登場人物の感情を描く故に、超大作となりがちです。それにも関わらず、本作は90分という短い時間で登場人物の感情を美しくも丁寧に描く名作であり、ベルイマンのキャリアを代表する作品と言えるでしょう。

北林
 大学3年生の時に初めて目にしたこの映画は、当時の未熟な私にはただ眠気を誘うだけの作品でした。しかし、時が流れ、6年経った今、改めてこの映画に触れ、その真の美しさに気付かされました。
 映画「野いちご」は、96歳の主人公の心の旅を深く掘り下げ、シュルレアリスティックな表現を通じて彼の夢と現実の間で揺れ動く心象風景を巧みに描いています。現実の延長線上にある強烈な現実を、主人公の老いた瞳から見せてくれるこの作品は、ただの夢ではなく、より深いリアリズムを描出しています。この作品を観ることで、老人の心の中の現実と夢、力のなさや失われたものに対する感受性が浮かび上がり、観る者の心に深く響くメッセージが刻まれます。細やかな感情の描写とシュルレアリスティックな要素が織り成すこの物語は、年を重ねるごとにより深く味わえる一作です。

<おわりに>

 ベルイマンの代表作といっても過言ではない本作、人生の終盤に差し掛かった老人がこれまでの出来事に遭遇していきます。シュルレアリスティックなロードムービーとしてこれ以上ない完成度を誇っています。
 まさに年を重ねるごとに深く味わえるのではないでしょうか。

<私たちについて>

 映画好き4人による「全部みる」プロジェクトは、映画の可能性を信じ、何かを達成したいという思いで集まったものです。詳しくは↓


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?