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砕け散るところを見せてあげる

ライトノベルが原作らしいが、話は全然ライトじゃない。むしろ、ずっしりと重い。

ざっくりと言ってしまえば、前半は純愛もので後半はサイコサスペンスの二重構造。ちょっとセンセーショナルなテーマを盛りすぎているきらいがあり、正直ついていけない設定やセリフ回しもちらほら。

主役の二人、中川大志と石井杏奈の演技はすばらしいし、高校生カップルとしてしっかり成立していた。しかし、いささか過剰な演出が興を削ぐのだ。クラスで強烈ないじめに遭っている玻璃(はり/石井杏奈)だが、あんなに“見える化”された状況で犯罪とも取れる行為を一方的に受けるなど、果たしてあり得るだろうか? なんの対応もしない教師の無能ぶりに呆れてしまい、その後の話が入ってこない。30年くらい前の高校が舞台だとしても、もう少し真面目にいじめ対策は取られていたように思う。というより、れっきとした傷害事件なんですけど…。

中川大志演じる清澄(きよすみ)の純朴で実直な性格を、理想のヒーロー像として美化する演出にも一抹のあざとさを感じてしまう。ヒーローの定義を滔々と語らせる割には、結末をあれで良しとするのはどうなのか。命を賭して守った玻璃のことを考えなかったのだろうか。他者の命と同等に自分の命も大切にすることが、真のヒーローの矜持ではないのか。これでは、高校生から大学生、そして社会人に至る過程での清澄の成長が見えてこない。

中盤以降、玻璃の父親(堤真一)が登場してからのサスペンスにも、いろいろと不安要素が付きまとう。堤真一が演じる狂気には、いささかの不満もない。迷いなく繰り出される、フルスイングのドライバーショットには、感心させられたほどだ。ただ、玻璃にすべての不幸を背負わせておいての逆転劇に、カタルシスが感じられない。学校での壮絶ないじめ以上に家庭での虐待のほうが、玻璃にとっては辛い経験だったのだと理解はできる。しかし、前半の恋愛シーンに比重を置きすぎたがために、玻璃の地獄のような日常があっさりと紹介されたにすぎず、溜飲を下げるまでには至らなかった。

恋愛、いじめ、虐待と少々こすられまくったネタを一緒くたに盛り付けられても、脂っこいだけで胃がもたれる。清澄以外にも玻璃に手を差し延べてくれる人たちがいて、どのエピソードもほっこりと温かい気持ちになっただけに残念だ。構成次第で、名作になり得たかもしれなかったのに。

それにしても、精神を病むような酷い仕打ち受けていた玻璃の歯が、陶器のように真っ白いとは、いったいどういうことか。


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