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エッセイ:大ちゃんは○○である65

ソファーに腰を下ろしてから40分程経った頃だろうか。
「25番の方、6番の窓口へどうぞ。」
とのアナウンスが響き渡った。
僕は手にしていた番号札を今一度確認すると、
やや重たく感じる腰を上げ、6番の表示が出ている窓口に向かった。
「よろしくお願いします。」
と言って、担当者に番号札を渡して席につく。
担当者に目をやると、きれいに七三に分けられた髪に銀縁眼鏡をかけた初老の男性だった。
あまり表情はない。名札を見ると『小村』と書いてあった。
「どういった職種を希望されていますか?」
表情を変えないまま、淡々とした口調で担当の小村が尋ねてきた。
「あの、介護職を探しているんですが。
正社員で、できれば夜勤がなくて。
通勤時間は45分以内だとありがたいです。」
僕は希望条件を大まかながらも明快に答えた。
すると、小村は少し顔を綻ばせ頷きながら
「はいはい介護職ね。たくさんありますよ。
ただ、夜勤のないところという条件で正社員となると、
訪問介護か通所介護事業所の紹介が主にはなってくるとは思いますけど、
それでも大丈夫ですか?
給与面では厳しい現実もあると思いますが。」
と具体的な提案をしてくれた。
僕は「大丈夫です。」と即答に近い感じで答えた。
経済的にもあまり余裕がない状況で、一日でも早く働き始めたかった僕にとって、
大まかな希望条件さえクリアしているところであればどんなところでもよかった。
ましてや未経験で未知の世界。
やってみないことには分からない。
面接の予約を取り次いでくれるかもしれないという希望が見え、
何件か求人を出してもらえるのではとドキドキしていると、
聞き慣れた言葉が僕の鼓膜を震わせた。

つづく

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