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宇宙人ビンズとガニーガ星人

この物語は、惑星テコヘンがありとあらゆる星々を調査するために結成した「惑星調査団」に所属する能天気な宇宙人ビンズと、その友ベーリッヒの活動報告である。


おつかれ諸君!私の名前はベーリッヒ。惑星テコヘンの惑星調査団所属の団員だ。今は相棒のビンズと共に宇宙を宇宙船で飛行中だ。ビンズは宇宙服を着て宇宙に漂っているゴミを漁ってる。たしかに、たまにエロ本とかレアモノのデータプログラムの入ったディスクとか出てくるけど、あいつが拾ってくる物は大概ろくなものじゃない。さて、どうやら帰って来たようだ。今回は何を拾って来たんだ?ビンズが宇宙服を脱ぎ捨て戻ってくると、新聞が握りしめられていた。は?新聞?おいおい、もっと色々あっただろうに。ビンズは私に一面を広げて見せてくる。なんだ?「ガニーガ星人、他惑星の要人を暗殺か!?」だと?ああ、惑星テコヘンもここ最近ガニーガ星との国交が始まったな。要人暗殺だ?内容も見ると少し酷いぞ。何ら根拠は無いのに他惑星との交渉を上手くさせる為にガニーガに対して反対意見を持つ者を暗殺しているだと?今のところテコヘンでそんなニュースは無いし、ガニーガ星人は温厚な種族で有名だ。少し鉄分の臭いが強めのシーフードを売りにしてる不器用な連中だ。そもそも見た目も動きも色もカニに近い彼らが暗殺など器用にこなせるものかね?だがビンズの興味はそこでなくガニーガ星ってカニ美味いかなという疑問だけだそうだ。確かに、気になる部分ではあるな。せっかくだ、ガニーガ星がどんなものか見てみるか。だがビンズ、ガニーガ星人はカニに似ているだけだから食べるなよ。


ガニーガ星、一面海の世界。青黒い海の底に沢山の海中都市があり、ガニーガ星人はそこで暮らしている。海中都市はバリアで覆われている場所もあり、水中エリアと空気エリアで分かれている。なるほど、自星人用と観光客用で分けられている感じか。うん、見た目はさほどテコヘンと変わりはないらしいが、この規模を数年で作れるのは凄いな。ビンズは早くも焼きそばを露天で買っていた。具はイカにエビ、もやしと紅しょうがか。うん、普通だな。ビンズがガニーガ星人に聞いたところカニは我らの先祖みたいなもんだから基本食わないぜーっと言われたらしい。え、じゃあ目的もうなくない?その時一体のガニーガ星人が声をかけてくる。なんかの随分と陽気なやつだ。名をガニバンといった。


へぇ、惑星テコヘンからわざわざ観光かい?この辺普通の店しかないからオイラが案内するよ!


この惑星の住人は皆んな親切だなぁ。おっとりとしてて、あまり時間に追われる事も無さそうだし。待てよ、いつもヒャッハーなテンションで生活しているうちの相棒を矯正する為にしばらくここに滞在するのも悪くはないのでは?そう考えていると、ビンズが焼きそばを私に手渡してきた。なんだ、もういらないのか?あんなに美味そうに食べてたのに。するとビンズはゆっくりと腰に付けている光線銃に手をかける。おいおい、なんで戦闘体制なんだ?我々がガニバンに連れられて歩いていると、人がいない裏路地にたどり着いた。建物が並ぶさびれた場所だ、歓楽街の跡地のような。そしてガニバンはふっと我々の前から姿を消し、その代わりに謎の生物達がが建物を駆け巡りこちらに接近してくる。緑色の目と体、蛍光色に光るアザの数々。従来のよりも遥かに大きいハサミを持ち、化学的にこしらえたであろう戦闘服。確かにガニーガ星人だがガニバンや他のガニーガ星人とは明らかに別物だ。

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そのガニーガ星人達は高速カニ歩きで建物の壁を駆けこちらに近づいてくる。なんてスピードだ!だがこのスピードならビンズにとっては遅いレベル。ビンズは腰から光線銃を引き抜き、引き金を2回引くとガニーガ星人達は生き絶えた。流石はビンズだ。惑星調査団最強のガンマンと呼ばれる男。だが余裕で勝った筈であるがビンズはまだ銃を下ろさない。そうだ、ガニバンがさっきまで、、、!


ん、なんだ?ここはどこだ?あ、そうだ、何か急に頭を強く打って。て、え?よく見たらここ牢屋じゃないか!施設自体は古いがどうやら軍事施設の様だ。あ、ビンズは!?良かった、同じ牢屋のベッドに横たわっている。そしてすぐにビンズも跳ね起き、事の重大さに気づく。そう、どうやら我々は何者かに捕まったようだ。先程のガニーガ星人の戦闘員にだろうか?しかし私だけならともかくビンズまでも気絶させられていたとは。はぁ、当然武器や通信機は没収されたようだ。その時だ、向こう側の牢屋から誰かの呼ぶ声が聞こえる。私が視線をそちらに向けると、ボタテ星人が捕まっていた。簡単にいえば、ホタテの形をした宇宙人だ。それ以外は何もない。私はボタテ星人から話を聞くと、驚くことにあのデタラメそうな新聞を書いた者だという。詳しく話を要約するとこうだ。ボタテ星人はその名の通りボタテ星にて小さな新聞会社にいた。ある日社長が秘密裏にガニーガ星人が他惑星の要人を殺してガニーガにとって有利な国交の流れを作っているという新聞を作るように命令した。元々売れない新聞会社であったため記事は本当にデタラメに書き、売れ筋アップを狙ったという。ところが冗談であったその内容は現実のものとなる。ボタテ星人が出先から帰ると新聞社の仲間が全てガニーガ星人に殺されるところを目撃してしまった。ボタテ星人はボタテ星を脱出しガニーガ星の情報を集めつつ新聞を作り、ガニーガ星人に対抗してくれる者をあの新聞で秘密裏に募っていたのだ。だが、結局それも虚しく、活動半年目にして2ヶ月前に捕まってしまったという。そうだったのか、あれは冗談ではなくボタテ星人の新聞記者が書いたSOSだったのか。確かに、あの程度でなければすぐに見つかってしまうだろう。でも話が本当であれば、ガニーガ星がこの数年のうちに異常なまでに栄えた理由がわかった。ガニーガ星がまず他惑星に味方を作る、この辺は賄賂で充分だろう。それを受け取らなかった者を秘密裏に殺害し、自分達にとって都合の良いもの達を残す。当然殺した奴らは綺麗さっぱりお片付けされてるはずだ。そうすることでいつの間にかガニーガにとって有利な状況が生まれる。賄賂で消費した分はその後の惑星の稼ぎでどうとでもなる。惑星の要人が表舞台から消えるなんて、内部抗争やら汚職やらでよくある話だしな。よく出来た仕組みだが1つだけ理にかなっていない部分がある。

それをやり遂げられる暗殺者がガニーガにいるのだろうか。

先程我々を襲ったガニーガ星人、確かに戦闘力が高かったがあの程度で要人を倒せるレベルだろうか。他惑星の要人もボディガードの1人や2人くらいはいるだろう。ビンズが倒したガニーガ星人のレベルで秘密裏に殺すなど難易度が高そうだ。それに、ガニーガという国家が行なっているのになぜ公にならないのか。黒い噂のひとつやふたつ、出回ってもいいのに、なぜ多くの惑星に足を運ぶ我々ですらここでようやく気づけたのか。


おうおう、あんた頭良さそうだな!オイラそういうの好きよ!なんなら答え合わせでもしてみるかい?


我々のいる牢屋の前にいきなり現れたのはガニバンであった。一体どこから現れたんだ?ガニバンは我々とボタテ星人を牢屋から出すと施設の中の訓練場らしき場所に案内する。訓練所は大きなコートの様になっており、入ってすぐの所には我々の荷物も置いてあった。我々が手にしてもガニバンはただ見ているだけだ。何のつもりだ?まさか我々をすんなりと帰してくれるのか?するとガニバンはこう言い放った。


あんたらを自由にしてやる。その代わり、オイラを殺せたらだ。


するとガニバンは自らの服を破り着込んでいた戦闘服をあらわにして何やら力を込め始める。そして体のサイズや色がみるみると変化していく。緑色の目と体、蛍光色に光るアザの数々。従来のよりも遥かに大きいハサミを持つガニーガ星人、すなわち我々を襲った者達と全く同じ姿に変貌したのだ。ガニバンは腕を軽くストレッチさせながら衝撃の一言を我々に告げた。


我が名はガニバン・クラブニド・ユデロスス。42代目ガニーガ星の王である。


はぁ!?確かにガニーガ星の王と同じ名前だ。数年前正式にガニーガの王になった。私も知っているのはその情報だけで本人の顔は見たことがない。それに我々が最初に会ったガニバンとは明らかに別人だ。ガニバンはさらに続ける。


せっかくだから教えてやろう。そこの頭の良さそうなテコヘン人は気づいているだろうが、俺は各惑星の要人を殺し自らの惑星に有利になる様な国交を樹立してきた。しかし、それを実行したのはこの俺と俺のクローン達のみ。よくテレビに出ている王もクローンの1人。普段は先程の様に姿を変えて生活しているが、今貴様らが見ているこの俺がオリジナルという訳だ。ここまでは良いかな?

撃っていいい?


やめろビンズ、まだ話の途中だ。


つまり、全て俺自身がやった行いであり、私以外に関係者はいない。気づかれぬのも当然。何より、クローンに任せているのは基本政治的身代わりと我々を嗅ぎ回る奴らの調査だ。殺しは全て、オリジナルである俺が実行している。当然腕には自信がある。近隣の星の連中は雑魚ばかり、だが少し遠くの星の奴らとなると話が変わってきた。そこにいるボタテ星人が書いた記事を信じて暗殺者を倒そうとしに来た連中が以前いてな、予想以上の強さだった。俺ほどではなかったがな。そして今回、偶然にも俺が次に貿易を行う惑星の人間が来た。テコヘンにも俺を嫌う連中は多い。そいつらを始末する前に、テコヘン星でも随一と名高い貴様を倒せば、俺は安心してテコヘンに出向くことが出来るんだ、ミスタービンズ。本来であれば貴様を見つけ出して戦いを挑む予定であったが、なぜかこの星にやって来たからな。これも神が味方してくれているという訳だ。


いや、そこはカニ食べに来ただけなんです。神様関係ないです。本当に偶然が重なっただけなんです。ビンズはガニバンの近くに歩み寄りその瞬間に銃をガニバンの額に向けて放つ。味方ながらなんてやつだ、いきなり撃つとは。だがガニバンの体は既に左に移動しており、ビンズは大きなハサミで攻撃されるが避けた。なんて素早い平行移動だ、ビンズの不意打ちを回避して反撃してくるとは。だがビンズも反応できている、こうなったら任せるしかないか。ガニバンはニヤニヤしながら肩を回す。


流石は惑星調査団最強と名高いビンズ君だ。だがこれで君もわかっただろう。俺はクローンとは違う。自らの肉体を改造手術し戦闘服も開発した。これで従来のガニーガ星人とは比較にならん程のパワーとスピードを実現させたのだ。


おお、自身とクローンだけでそこまでするとはなんてやつだ!


そして極め付けは、カニを沢山食べたのだ!!我らが先祖の肉を食う事で、肉体を飛躍的に向上させたのだ!たまたまカニが海で取れたので食べたのがきっかけだった!!そう、神が俺に味方したのだ!!


ああ、手術と戦闘服の開発が印象強かったばっかりに。その情報食いしん坊要素が強くなっちゃった。あと神様はあんたに味方しないと思うなぁ。するとビンズはこう言い放った。


俺も先程、海鮮焼きそばを食べた!! 


お前は何食っても変わらんだろうが!ガニバンは再び高速で移動しビンズを圧倒する。ビンズも避けながら標準を合わせようとするが定まらない。無理もない、あのスピードで刃が飛んでくる様なものだからな。サポートしてやりたいが、今回ばかりはどうする事も出来ない。ガニバンは笑いながらビンズを攻撃する。


どうした!!避けるだけで精一杯か!所詮テコヘン人の身体能力、技術力はこの程度というわけだ!そろそろ必殺技で終わりにしてやる!!


ガニバンは高速で移動し、訓練場の床と天井を走りまるで螺旋でも描くかの如くビンズに接近していく。ビンズは螺旋状にくる攻撃に対してあえて前へ回避する事で致命傷は避けたが、腹には大きな切り傷が出来てしまった。マズイ、あの攻撃は完全な回避が出来ないようになっている。部屋の中にいる空中以外の敵を完膚なきまでに切り刻む様になっているんだ。先程の様な避け方はもう無理だ、ビンズがやられてしまう!するとビンズは大笑いし、もう一度銃を構えた。


ガニバン、もう一度今の攻撃をしてみろよ。

ふん!ついに負けを認めたか!よかろう!お望みなら何度でもくらうがいい!


ガニバンはもう一度訓練所床と天井を螺旋状に駆けてビンズに近づいていく。もうダメだ、あのスピードと威力で当たったらビンズが、、、いや、ビンズはずっと一点に銃を構えている!ビンズは引き金を引いた。するとガニバンはまるで何かに転ばされたかの様に体が床に叩きつけられる。よく見ると3発、ガニバンの腹に光線銃が当たっており瀕死の状態だった。


な、何故だ、何故これ程までに正確に撃たれたのだ、、、。

別に。あんたが一定のスピードでぐるぐる来るから、銃身の向きに来たら合わせて撃っただけだ。


そ、そうか!いくらスピードがあってもリズムは一定だから単純にタイミングを合わせて引き金を引いたのか。理にかなっているが、これもビンズの実力があってこそ出来る技だ!流石は私の相棒だ。するとガニバンは懐からスイッチを取り出して押した。施設内に警報が鳴り響く。


施設の自爆スイッチを押した。俺が死ねば、クローンも死ぬ様になっている、、、。ガニーガを大きくする事が夢だった、、、。だが、俺1人の手でな、、、。俺のいない世界で、繁栄する事は許さない、、、。俺より無能な奴らが、俺の目の届かぬところで豊かになる事は罪、、、!俺の手の中に収まらない国民そのものが罪!滅べ、滅べぇえ!! 


なんて王だ。お前が築いたものなんて何もないのに。こいつは助けない。我々はボタテ星人を連れて早々に脱出した。誰も知らぬ軍事施設はゆっくりと崩壊し、邪悪なる王の墓標となったのだ。



我々はその後ボタテ星人を宇宙船で故郷に送り届けた。ガニバンが死んだ今、もう追手を恐れる心配もないだろう。そしてそのすぐ後にガニーガ星の王であるガニバンの死が伝えられた。事実を知っている我々からしたら「奴の駒が死んだ。」に過ぎないがな。結局、奴は何がしたかったんだろうな。少し沈んだ空気の漂う宇宙船の中で相棒のビンズはこう解釈していた。


ガニバンは国づくりゲームをやってただけだろ


なるほどな、いい表現だ。少なくとも、神様は国民を思わない王には厳しかった訳だ。しかし、我々は仮にもガニーガ星の王を殺した。ガニバンが消えた後、果たして彼らは今の様にうまくやっていけるのであろうか。するとビンズはパソコンを使ってSNSに投稿していた。「ガニーガの海鮮焼きそばは美味い。」などとガニーガの良いところを自ら宣伝していた。そういやこいつSNSのフォロワー億単位でいるんだっけ?するとビンズはこんな事を言った。


振り出しに戻っただけだ。俺たちなりに応援してやろうぜ。


そうだな。誰も傷つかないやり方で、私たちなりに彼らをサポートしよう。そうとなれば、ガニーガ星を調査して良いところを沢山見つけよう!我々はガニーガ星に座標を合わせ調査に向かうのであった。


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とある新聞記者はある日ガニーガの王に捕らえられ拷問を受けていた。だが王は決して彼を殺さなかった。

ボタテ星人よ、何故俺が貴様を殺さないかわかるか?


そ、そんな事知らないよ!私の命はもうどうでもいい!早く殺せ!


そう怒るなよ。貴様の新聞、思った以上に面白い。偶然とはいえ流石は唯一俺の殺しを目撃して生き延びただけの事はある。そこでだ、貴様は俺の管理下の元、この新聞を広めるのだ。


どうしてだ!?お前にはなんのメリットもないだろう!!


確かに、大々的に広まるのは宜しくはない。だが貴様程度がする新聞如きで国が傾く事はない。むしろ俺にとって頭の悪い訓練相手がガニーガにやって来るのだ。チャンスじゃないか、貴様が新聞を増やすたびに宇宙の強者どもが暗殺者を倒そうとやって来るのだ、お前を助けてくれるかもしれないぞ。


そんな、私はお前の野望を砕くために書いていたのに、、、。


残念だったなぁ。貴様の新聞では軍隊でなく一度に2〜3人来るのが良いところだ。まぁ、俺には丁度いいがな。無理にとは言わん。だが新聞を書いているうちは貴様を殺さんと誓う。こんなに面白い状況ははじめてだからな。たまには事実を知るものを生かすのも悪くない!


ボタテ星人の新聞記者は、口で命はいらないと吐くも新聞を作る手を止める事は出来なかった。だが、そんな彼に神が味方する日が来る事を誰も知らない。


宇宙人ビンズとガニーガ星人 〜完〜


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