スズメの巣 第18話

第18話 戦の前のほら貝はなかなか鳴らないです。

出場がなかったチームは、会場に残って観戦するか解散した。
開会式から3日。
チームの初戦まで、全然気が気でなかった。

開幕戦は、横浜シティドラゴが金沢・新田で2連勝。
反面。
昨年優勝の六本木桜花隊が2連続ラスとなっている。

2日目は初のトライアングルルールが発動され大荒れだった。
ホビーウォーリアーズとパールズが1トップずつ。
特にパールズ新加入、宝田がいきなり7万点トップを獲得した。
インタビューを受けた宝田は「攻撃派なのでサンマはよく打つので良かったかもです。」と話した。

2日目終了時1部リーグ 順位
1位 横浜シティドラゴ       +125.0ポイント
2位 RAKUWAホビーウォーリアーズ + 57.6ポイント
3位 TUNOYAMA パールズ      + 7.2ポイント 
4位 有楽町麻雀カルテット       +2.7ポイント
5位 麻雀組 焔            -3.8ポイント
6位 海王ゴールドバンディッツ    -72.3ポイント
7位 六本木桜花隊          -94.2ポイント

ついにうちのチームの初陣。緊張しないわけがない。
ちなみに、2部リーグ初日終了時はこうなった。
1位 大阪ラフミカエルス     +70.3ポイント
2位 幕張麻雀闘宴団       +30.2ポイント
3位 夕暮れポセイドンズ     - 5.1ポイント
4位 オダイバeレインボーズ    -74.4ポイント

13時ゲームスタート。
10時半にはスタジアム棟に橋口は到着した。
あとの3人も、橋口より早く来ている。
「おはようございます。」
「あぁおはよう。」
「おはようさん。」
「おはよー!」
ロッカールームでそろった。

「今日はどうなるんだろうねぇ。」
「選択肢は4人から。開幕は誰にしましょうか?」
橋口がそう発すると金洗が、手を合わせて言った。
「ごめん!うーみん!」
「どっどうしたの?」
「さっき連絡があって。今日日ノ出さん来れないみたいなの・・・。大事なお客さんが来て会合があるみたい・・・。」
「まぁ一会社の社長さんだしな。無理はないでしょ。」
「こういうことは、考慮しとくべきですね。」
鳳と愛田は、腑に落ちたらしく。
「そうなると、3人ですか。」
橋口は悩みこむ。
「そうなるな。」
「鳳さんはどう思います?」
「俺は、初戦は布崎さんでいいと思う。ベテランだから負けても損失が少ないだろ。」
「自分も賛成です。」
「じゃ初戦は布崎さんで。第2試合は?」
「いきなり連闘もね・・・。負担が大きいかなと思う。」
「太平ちゃんか沖村ちゃんが妥当だな。」
「ですね。さくちゃんは?」
「うん。私もそう思う。それに・・・。」

金洗は資料を見出した。
「どうした?」
「今日は鳴く選手が多いですしね・・・。」
「確かに。」
「みくちゃんかなぁ。」
「いきなりか?4戦目ぐらいでもいいんじゃないの?」
「うーん。」
迷ってしまった。

「1戦目終了後でもいいと思います。布崎さんの連闘以外は確定で。」
「そうだな。」
そう言うと、タイミングよく選手が入ってきた。
「おはようございます。」
太平である。
「あれ結構早くない?」
「そうですかね・・・?もう11時ぐらいだったので、いいかなと思ったんですが。」
「もうそんな時間!?」
時計は11時を回っていた。
「本当だ。他の人は?」
「私はまだ見てないです・・・。」
「そっかぁ。」

それからが、早かった。
5分後には布崎。10分後には、沖村が来た。

一息ついて、ミーティングを始める。
「今日は、日ノ出さんはお休みです。初戦は布崎さんでお願いしたいです。」
「自分だね。分かりました。」
「じゃあ1回戦のオーダー出してきます。」
「いってらっしゃーい。」
金洗が動いた。
ロッカールームを出る人が多くなっていく。
「俺ちょっと出てくるわ。」
鳳が席を外し、さらには、愛田もロッカールームを出た。
それぞれが更衣室などで着替えを終えた。

そんななかで、沖村が太平に話しかける。
「みくちゃんはさ、振興会じゃない?」
「ええ。なにか?」
「次のタイトル戦って大体いつなのかなって?」
「えっと。確か・・・女流選手権のリーグ戦が来週ですね。」
「そのほかのタイトルは興味ないの?」
「興味はあるんですけど・・・。私なんかじゃ。」
「ちなみに、リーグって今どこらへんなの?」
「Cリーグで一番下ですね。」
「なるほどねぇ。」
沖村は意味深な顔をした。

「わわ私ご飯取ってきます。何がいいですか?」
「えっいいの?じゃあカレーかな?」
「取ってきますねぇ。」
太平は逃げるようにロッカールームを出た。
「お願い。ありがとねー。」

「ありがとうございました。沖村さん。」
橋口が礼する。
「いいんです。緊張を少しでも解いてあげなきゃと思ったんです。」
「本当すみません。ちょっと私も少し出ますね。」
「はーい。」


ロッカールームには、沖村一人になっていた。
「あの子がいるべきなのは絶対に振興会じゃない。」
そうつぶやいた。

布崎が戻ってきた。
「布崎さん。」
「あれ1人だけ?」
「ええ。スタッフさんも忙しいらしく。」
「まぁそうだよね。バタバタしてるわ。」
「他のロッカールームも一応入っていいみたいですけどねぇ。」
「まあ知り合いがいたらでいいんじゃない。いきなり入ってって言うのもあれでしょ。」
「そうですね。」
他愛のない会話が続いた。

「そういえば、みくちゃんが優勝した天下統一戦見ました?」
「ああ。あれはすごい。」
「本音を言うと、振興会にいるべきじゃないと思ってるんです。」
「いきなりすごいこと言うね。」
「ええ。実はさっき話しててそう思うんです。あっ帰ってきたのでこの話は内密にお願いします。」
「分かった。」

「沖村さん。カレーです。」
「ありがとう。」
「布崎さんの分持ってこなかったんです。すみません・・・。」
「いいよいいよ。この後試合だからね。」
「本当すみません。」
太平は申し訳なさそうに言った。

スタッフ4人が戻り、にぎやかになった。
そのタイミングで運営スタッフが入ってきた。
「お疲れ様です。じゃあ布崎選手お願いします。」
「はーい。」

「じゃあ頑張ってください!」
「応援してます。」
選手2人の声援をもとに布崎は出ていった。

12時。
予告先発がHPとSNSで発表された。

東 キャピタル麻雀部 若林 浩二
南 JOY  V-deers 布崎 勇気
西 乃木坂アイロンマレッツ 金村 ゆかり
北 神保町ブラックタートルズ 嘉礼 歩

「高打点型プレイヤーが多いか。」
鳳が見て考える。
「そうですね。おそらくトップは厳しいかな?」
「行けるんじゃないですか?」
スタッフの意見は分かれる。

そんな準備もしつつ、生中継に近づく。
「とうとうですね。」
「橋口緊張すんなよ。」
「してませんって!!」
いつもの流れだった。

12時45分。
生中継が始まる。
「暑さも残るここお台場。すべてのチームの戦が始まります。こんにちは!リーグ・ザ・スクエア2部リーグ2日目であります。よろしくお願いいたします。」
「本日は、実況は矢面淳(やおもてじゅん)。解説は、プロ競技麻雀協会で活躍されております鳴沢雄二さんです。よろしくお願いいたします。」
「よろしくどうぞ。」
「そして、フィールドリポートは岸本優音さんです。岸本さんお願いします。」
「はいお願いします。」
「では鳴沢さんとともに第1試合の対戦カード見てみましょう。さぁ注目選手いらっしゃいますか?」
「やっぱり、移籍組の金村さんでしょうか。打点はかなりありますからね。注意すべきだと思います。」
「ありがとうございます。またこの試合は、実力者が揃いましたね。」
「そうですね。若手も多くいる中でも、やはり各チームスタートダッシュを切りたい思惑がありそうですね。」
「ありがとうございます。さあ試合開始の時間が迫ってまいりました。お知らせのあと、選手入場です。」

選手入場が終わり、国歌斉唱も終わった。
審判のホイッスルで試合が開始した。

「ついに始まりましたね。」
橋口が声をかける。
「ああ。そうだな。」
鳳が見ながら、気のない返事をする。

東1局は、リーチを打った嘉礼の1人テンパイ。
東2局は、先制リーチの金村と黙テンの嘉礼の2人テンパイで流局した。

最初に試合が動いたのは、東3局2本場供託2本。
ロッカールームのモニターで見ていた。

金村がリーチを打つ。
リーチのみ。あまりにおかしい。
「珍しいですね。リーチだけだなんて。」
金洗が言う。
「いや。違う。勝負に出たんだ。」
「どういう意味ですか。」
「暗刻が2つあるだろ。そういうことだ。」
「暗槓をしまくるってことですか?」
「おそらく。」
ロッカールームがざわつく。

そんな中。
「カン。」
新ドラはいまカンしたものが、4枚乗った。
さらに、嶺上は金村が暗刻になっていたものだった。
さらにカン。
さらなる新ドラは、はじめに先程新ドラが乗ったものだった。
つまり、ドラはこの時点で8枚。
衝撃が走る。


そんな中、実況の悲鳴が聞こえた。
「嘘だ!!テンパイしてしまったぞ。これは押しますか?」
「守り型ならね。行かないが。」
「当たり牌を切るしかないですもんね。」
「そうですね。親リーチなので辞めるかもですが。」
「でも、嘉礼ですよ!!」


「すぅぅ・・・。」
嘉礼が打った。
「やめましたね!!」
「ただ・・・。」
「ツモ。」
金村が手牌を開く。
「ツモったー!!」
裏ドラをめくると2枚で数え役満はいかなかったが、親の三倍満。
「12000オールは12200オール。」
「決めてきました金村ゆかり。意地の三倍満!!」

「これはいかついな。」
鳳はつぶやく。
試合は、南3局まで金村ペースで試合は運ぶ。

オーラスの嘉礼との満貫リーチ対決を何とか乗り切った布崎が2着を確保した。
最終結果
1位 金村 ゆかり 6万9300点 +79.3ポイント
2位 布崎 勇気  1万9400点 - 0.6ポイント
3位 嘉礼 歩     3300点 -36.7ポイント
4位 若林 浩二   -2900点 -62.9ポイント

第19話へ続く。













この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?