スズメの巣 第21話

第21話 折り返しは、慎重にしましょうね。

愛田は、誰も止められなかった。
色々尽力したが、権力につぶされた。
これこそ、大企業の社員の運命であった。
社長は知らないのだろうか。

チームの選手にも説明したが、驚かれていた。
それはそうだ。

3週間の悲劇の中、チームは6試合連続ラスなしを決める。
特に沖村が覚醒した。
個人連勝を挙げ、なおかつ1試合で7万点トップを獲得した。
日ノ出は、連闘もまだトップはない。
チーム順位は、3位と決して気は抜けない。
1位は、ブラックタートルズになった。
そして、依然レインボーズは早口頼りになっている。
早口以外はトップがない。

そんな中で、第7節の試合の日を迎えた。
今回の対戦は、V-deers、レインボーズ、ラフミカエルス、麻雀闘宴団というカードだ。

「下位3チームですね。」
橋口が考え込む。
「下手したらレインボーズが危ないかもね。」
金洗が話す。
「そうね。初トップでジャイキリってこともあるかもだしね。」
「ちょっといいか?」
「なんですか?鳳さん?」
「今日は、守りに全振りしてもいいんじゃないか?」
「なるほど。」
「おそらくだが、躍起になっていることだろ。」
「そうすると、布崎さんですかね?」
布崎を見る。

「僕かい?」
「行きますか?」
金洗が問いかける。
「分かった。行こう。」
「ありがとうございます。」
橋口がお辞儀する。
「じゃあオーダー出してきます!」
ロッカールームを出た。

橋口がオーダーを出した後。
戻る最中でとんでもない声が聞こえた。
「いい加減にしなよ!」
正直、橋口は驚いた。
なんかあったのかな?
あまり深掘りはしたくなかったので、素通りした。

その声が聞こえたのは他でもない。
レインボーズのロッカールームだった。
チームの雰囲気は、最悪だった。

監督のピコンゲームス社員の判田が、ミーティングで話している。
早口と藤は、真面目に聞いていた。
しかしながら、残り2人は聞くそぶりも見せない。
「あの・・・。しのびーるくん。キングくん聞いてるかな?」
判田が声をかける。
「ああ聞いてますよ。こっちも練習忙しくて。」
「同じでーす。」
「でも、こっちも本気だから・・・。」
判田が困っていた。
チームスタッフも困り果てていた。
そんな中で、早口が口を開く。
「人が話してる時ぐらいスマホって常識的に辞めたほうがいいんじゃないか?」
「はーい。」
聞く耳を持たない。
「勝つ気ないの?」
早口が聞く。

「どうせ勝てないでーす。」
きんぐりょうせーが話す。
「ちょっと・・・。」
判田が焦る。

しのびーるが禁断の言葉を放つ。
「本業忙しいんで。早口さんか藤ちゃんのどっちかでいいじゃないですか。勝てばいいわけですし。」

ロッカールームが、凍り付いた。
その一言で、完全に火がついてしまった。
「いい加減にしな・・・。」
「え?」
「いい加減にしなよ!!」
いつもは優しい早口が本気でキレた。
「何が本業だ。こっちだって本気でやってんだよ!!」
「忙しいのは事実でーす。」
「あっそう。こっちだってな。命かけてんだよ!!!」

一拍おいて、深呼吸をした早口が言った。
「もういい。」
「えっ。」
「判田監督。」
「あっはい。」
「こいつら試合に出さなくていいです。おまえら出てけ。」

「早口さーん。それぇパワハラですよー。あと、監督は辞めさせられないですもんね?」
しのびーるが言う。

「・・・スポンサーとか関係ない。もう出なくていいです。」
「はあそう。分かりました。じゃあ2人で頑張ってくださーい。」
2人はロッカールームを出た。
「じゃあ、藤ちゃん試合前にごめんな。無理しなくていいからな。」
「頑張ってきます。行ってきます。」
ロッカールームを出た。
「はぁ。」
早口は疲れ切っていた。
普段怒らないから怒り方がわからなかった。

「ありがとうございます。私だとあんな言えなくて・・・。」
判田監督は落ち込んでいた。
「スポンサーって怖いっすもんね・・・。」
早口は、冷静に言った。

12時45分。
生中継がスタート。
「シーズンスタートから早2カ月がたとうとしています。秋になる中でも、ここお台場では熱戦が続きます。」

「こんにちは!リーグ・ザ・スクエア2部リーグです。本日の実況は北条ちかが担当します!よろしくお願いします。」

「ドラフト会議で司会してた人ですよね?」
「元選手だからな。」
「言ってましたよね。」

「そして本日の解説は、雀士協会より王蝶位を2度経験されている早乙女ふうりさんです!早乙女さんよろしくお願いします。」
「はい。早乙女です。よろしくお願いします。」
「そしてフィールドリポートは岸本さんです。」
「よろしくお願いします。」

「それでは、さっそく対戦カードを見ていきます。」
東 幕張麻雀闘宴団 本郷勝雄
南 ラフミカエルス 松岡太郎
西 レインボーズ  藤 津奈
北 V-deers             布崎勇気

「では、早乙女さんどのようにみられますか?」
「そうですね。藤さんがかなりポイントになりそうですね。」
「ベテランの中で、唯一のルーキーですからね。」
「ええ。みなさんの麻雀を見ても、見ごたえはある1局になりそうです。」
「ありがとうございます。試合が近づいてきました。お知らせの後ホイッスルです。」

CMが明けた。
「では、選手入場です。」
その合図とともに4人が入場する。
今回は、ベンチには4チームともスタンバイしている。
一応タイムアウトは1回までとれるそうだ。

「さあ、試合が始まりました。改めて解説は早乙女ふうりさんです。」
「よろしくお願いいたします。」

東1局で、親番本郷がいきなり大物手をテンパイ。
ツモれば、リーチ・門前清一色・ドラ3・赤などで3倍満も見える。

「まずいな・・・。」
橋口は焦る。
「決められるとまずいね。」
「布崎さんだから大丈夫だろ。」

なかなかツモれない。
藤が追いついた。
「・・・リーチ。」
力強く発生した。
上がれば満貫確定だ。
「それをかわす一手となるか?!」
北条は、興奮している。
「これは、結構藤さんかもしれないですね。」
「どうしてですか?」
「それは・・・。」
「ロン。」
早乙女が解説しようとした瞬間、藤が発声した。
「一発だ!」
「12000。」
「鬼を破りましたルーキー藤!!」

ロッカールームからは、どよめきが起きる。
「これは、見事なあがりだな。」
鳳もうなった。

「今の藤のあがりはすごかったですね。」
「ええ。この試合どうなりますかね?」
「本郷さんは、一撃食らうとかなり性格が変わりますからね。メンタルを維持できるかですね。」
「なるほど。ちなみに岸本さんいかがですか。」
「そうですね。今本郷選手はかなりイラッとした感じに見えます。」
「やはり見えていますか。」
かなりカリカリしている。


東2局は、布崎が細かいながらも2000点のあがりを先制リーチの本郷から打ち取る。
東3局は、守りに徹していた松岡が1300・2600をあがる。
東4局は、布崎以外の3人リーチで流局した。

南1局1本場 供託3本
この時点での点数は、こうだ。
本郷  7,700点
松岡 30,200点
布崎 25,400点
藤  36,700点

南場は、完全に藤のラッシュだった。
南1局から、本郷からまたも8000点。
南2局は、鳴き仕掛けを活かし本郷・松岡の大物手をかわす500・1000点
南3局は、鳴き混一色・小三元・チャンタ・ドラ1でツモ上がる。
3000・6000。
藤無双の中で、周りから見ても本郷はイラついている。

「本郷さんイエローカード出そうですね。」
橋口は言った。
「出るんじゃない。というか出てほしい。」
金洗がいやいや言った。
「やめときな。そんな言うの。」
橋口が制止した。
そんな中で、とうとうサイレンが出た。
「おっとこれは、審判がフィールドに出てきましたね。」

審判がマイクを取る。
「審判です。えーまず。当該選手は幕張麻雀闘宴団の本郷選手です。
試合中の度重なる遅延行為や態度につきまして協議の結果。イエローカードを提示します。以上です。試合を再開してください。」

本郷が立ち上がる。
「お前ふざけんな。こら。」
審判に詰め寄る。
「なんだ。お前ふざけんじゃねえぞ。」
「協議の結果ですから。」
マイクのスイッチが切られての読唇術でも、暴言っぽくなっている。
ついに審判を押してしまった。
「審判です。ただいまの審判への挑発行為の協議を行うため、試合を一時中断します。少々お待ちください。」

審判室へ戻ってしまった。
「どういうこと?」
「イエローカードってどうなるんですか?」
沖村が聞く。
「私はわかります。勉強したので。」
「うーみんどうなんの?」
「イエローなら何もないです。2枚もらうかレッドだと・・・。」
「どうなるんだ。」
「3つ処分が確定します。まず、チームと個人ポイントマイナス100ポイント。次にこの試合の退場。最後に今シーズンの全試合に出場停止。もちろんジャッジメントトーナメントも該当するらしいです。」
「そんなに?!」
「あと審判委員会で、追加処分が検討されるらしいです。」
「厳しいっすね。私もしないようにしないと。」
「沖村さんは、大丈夫ですよ。」

「審判です。ただいまの協議ですがレッドカードの判断に至りました。
本郷選手は退場。幕張麻雀闘宴団は代替選手を直ちに出場してください。」

「とうとう出てしまいました。本郷選手退場です。」
「いやぁ。あらぶってますね。これは結構な荒れ具合でした。」

幕張麻雀闘宴団は、代打もむなしくラスに沈んだ。
藤が、ようやくトップを取った。
ちなみに、連闘連勝と覚醒したという。

第22話へ続く。

 


 

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