スズメの巣 第16話

第16話 腹が減っては戦はできぬは当たり前です。

焼き肉店で肉と米にがっつく女子がいる。
橋口と金洗だ。
「チームミーティングも終わったし、あと少しで開幕だよ。長かった~。」
「まぁね。とりあえずは一安心ね。」
「そういえば、愛田さん今日残業するって言ってたよね。」
「確かに何してんだろ。まぁ。明日聞けばいいかな?」
「そうだねぇ。まずは肉を取ろう!すみませーん!」
この女子会は22時過ぎまで続いた。

翌日。
橋口がオフィスに出勤すると、まだだれも来ていない。ただ一人だった。

続いて、愛田が来た。
「おはよう。」
「おはようございます。」

愛田がバックを机に置くなり話し出した。
「そうだ。橋口ちょっといいか?」
「あっ。はい。」
真剣な表情をして橋口を見た。
橋口はなんか悪いことしたか?そう思ったという。
「遅くなって申し訳なかった。今シーズンのチーム資料が昨日できた。」
リストを手渡した。

「えっ。てことは、昨日の残業ってもしかして・・・。」
「これ作ってた。」
「本当ですか!?なんか申し訳ないです。」
「いいの。いいの。気にするな。」
「積極的に活用させていただきます。すごい。」
「そう言ってもらえると嬉しいね。優勝本気で目指すぞ。」
愛田は笑顔になった。
「もちろんです!」
橋口も強い意志が止まらない。

橋口が席に着いたときドアが開いた。鳳だ。
「おはようございます。」
「おう。おはよう。ちょっといいか?」
「ハイ。なんでしょう?」
「ちょっと豹田さんに呼ばれてしまってな。少し仕事を抜けるがいいか?」
「何時ごろですか?」
「15時ぐらいか。」
「分かりました。大丈夫です。あっそういえば・・・。」
「悪いな。どうした?」
「愛田さんがまた資料作ってくれたんです。」
「本当か?」
「ええ。そんな大したものではありませんが。」
「いやいや。お前の作るものはすごいからな。」
「恐れ入ります。」

「そういえば、金洗は?」
鳳が聞く。
「布崎さんの雀荘です。どうやら試食会っぽいですね。」
「一回食べてみたいねぇ。」
「鳳さんってスイーツ男子なんですか?」
「いや俺は飯を食いたいの。雀荘めしは宝庫だからなぁ。」
「そんなにおいしいんですか?」
「ああ。本当にうまいぞ。なあ愛田。」
「ええ。かなりこだわり強めな店もありますしね。」
「たぶんうちの展開してるものよりうまいものはあるかもだな。」
和やかに流れていく。

15時ごろ。
面談と同じ喫茶店に入った。
「おう。」
「お久しぶりです。豹田さん。」
「まぁ座って。」
「ありがとうございます。あっアイスコーヒーを。ミルクありで。」
「かしこまりました~。」
店員が去っていく。

「申し訳ねぇな。呼んでしまって。」
「大丈夫です。こちらこそドラフトの件は申し訳ありません。」
「いやいやいいのいいの。実力者とか勝る若者がいたんなら仕方ない。」
「恐れ入ります。」
「チーム動き出せそうか?」
「ええ。準備はかなり進んでいます。」
「9月の11ぐらいだろ。たしか。」
「開幕ですね。そうです。」
「ならいいんだ。辞退。欠場が多いしな。」
「おっしゃる通りです。」

豹田が真剣に聞いてきた。
「そういえば、あいつの周りで動きがあったらしいな。」
「あいつというと?」
「鮫坂だよ。」
「何のことですか?」
「とぼけるのも下手だな。」
「本当に何も知らないです。」
「本当か~?怪しいな。」
「麻雀に詳しい私でも名前はわかりますが、何が起きているかまでは・・・。」
「どうやら本当に知らないようだな。弟子がリーグ・ザ・スクエアに入ったらしい。本人から連絡があってな分かった。」
「なるほど。」
鳳は驚かず、冷静に対応した。
内心はとんでもなくびっくりしていたが。

そんな衝撃なことがあるのか?
会社に戻るなり、愛田の作成した資料を見る。
この人だ。
すぐにわかった。
「どうしたんですか~?」
「何でもない。」
まぁ言わなくても回るだろうそう思った。
開幕まであと1週間。
チームに全力でぶつかろう。そう決めた。

開幕まであと5日。
橋口と金洗はアリーナの視察に行くことになった。
「広いね。」
「確かに。ロッカールームが増えたんだよね。」
お客様を入れるわけではないが、広いスタジオにちょこんと麻雀卓がある。
16チームの代表が集まる。でもやっぱり男社会だ。
女性が本当に少ない。

アリーナ視察が終わり、最終打ち合わせが始まった。
開会式は16時スタート17時終了予定。
1部2部合同で行われる。
今回は観客を入れるため、14時開場となっている。
会場に12時までに集合とのことだった。
その他注意事項など諸々の注意が終わって打ち合わせを終えた。

「疲れた~。」
「本当お疲れさま。」
「これからどうなるんだろうね?」
「まぁ全力でぶつかるまでじゃない?」
「そうだね!GM~。」
「からかわないでよ!もーう。」
そう言うとおなかが鳴った。
「GMもおなか空いたんですねぇ。」
「ちょっと・・・。恥ずかしいから!」
「そしたらご飯にしよう。腹が減っては戦はできませんぞ!」
「確かにそうしよっか。」
昼食のために町に消えた。

日は流れて開幕前日。
開幕前最後のスタッフミーティングが行われた。
開会式の流れの確認。担当の確認。明日への意気込みなど。
全員が本気で取り組んでいる様子だった。
仕事だが、仕事じゃない。そんな感じがした。
「じゃ最後にGMから意気込みとか言ったほうがいいんじゃないのぉ?」
鳳が冷やかす。
「分かってます!もう・・・。」
橋口が立った。

その瞬間。ドアのノック音が聞こえた。
「あっ。どうぞ。」
「失礼します。お疲れ様です。社長がご挨拶したいと。」
秘書が淡々と挨拶する。
「分かりました。どうぞ。」
「では失礼します。」

天地社長が入ってくる。
「皆様お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
「いよいよ明日ですね。本当に楽しみです。」
「はい。チーム全員で頑張ってきました。これからがスタートとしてキープできたらと思います。」
「なるほど。その意気です。」
社長が笑顔で言った。
「橋口さん、愛田君、鳳さん、金洗さん。皆さんのそれぞれ個性を活かせば是非ともより良いチームにできるはずです。応援してますよ。」
「ありがとうございます。」
「では、私はこれで。」
「あっありがとうございました。」

鳳が悪い顔をする。
「そうだ天地社長。ちょっとお待ちください。」
「どうかしました?」
「これからチームの代表として橋口が決意表明みたいなことするんで、もしよかったらご覧になりませんか?」
「あっちょっと。鳳さん!!」
「そうですか。是非見せて頂きましょう。」
社長は乗り気だった。


「えーと・・・。私は正直無に近いです。でもみなさんの力でここまで来れました。みなさんとなら5年以内のジャパングランプリ制覇も夢ではないと思っています。見捨てないで力を貸してください。シーズン中もよろしくお願いします!」
拍手が絶え間なかった。
橋口の顔は、サンセットがちかい夕日ぐらい真っ赤だった。
「社長。何かありましたら。」
「橋口さんに任せてよかったです。この調子で頑張って。なおかつ助けてあげてくださいね。」
「はい。」
「それでは失礼いたします。お騒がせしました。」
「いえいえ。」
社長が出ていった。

「いやー。社長が来てくれるとは思いませんでしたね。」
「そうだな。いかに本気でやっていたかだな。」
「最後の挨拶までよかったしなぁ。」

そのセリフを機に愛田と金洗は殺気に気づいた。
これはやばい。
「ちょっとトイレ~。」
「私自販機行ってきます・・・。」
鳳は何も気づかず、コーヒーを入れる。
「鳳さん・・・。」
「橋口も飲むか?アイス?それともホット?今暑いからアイスだな。ハハハ。」

部屋の外で聞いていた2人は、嫌な予感がした。
「大丈夫でしょうか・・・?」
「大丈夫でしょ。橋口って文化部だろ?」
「いえ・・・。バリバリの体育会系です。たしか空手部だった気が。」
「そりゃまずいね。落とされなければいいか。」

5秒後。
「イヤァーーーーーーー!!」
断末魔の咆哮のごとく叫び声が聞こえた。
20秒後。
静まり返った。

不安に思った2人が部屋に入る。
「戻りました・・・。」
「戻ったぞ。」

そこには笑顔の橋口がいた。
「あ、二人とも。」
「〆めてないね?」
「あ。大丈夫です。寸止めです♡」
鳳は放心状態だった。
「大丈夫ですか?」
「怖かった・・・。」
「もう、あんなことしないでくださいね♡」
「もうしない・・・。出来心で。」
「よし。じゃあ今日は早めに上がって決起集会と行きますか。」
「賛成!行きましょう。」
「そうですね。」

各々支度を始める。
16時半過ぎ。会社を出た。

会社近所のお好み焼き屋で決起集会が行われた。
「じゃあ橋口・・・。言ってもらえると嬉しいなぁ。」
鳳は言葉を選びながら言う。
「うーん・・・。分かりました・・・。」
橋口は渋りながら言った。

「えっと・・・。まだ試合は始まりませんが、シーズンがスタートします。目標目指して成長していきましょう。乾杯。」
「カンパーイ!!」
ご飯が進む。
酒も進む。
男性陣2人に警告した。
「飲みすぎないでくださいね。明日11時現地集合ですから。」
「分かってるから安心しろ。」
「ちょっと遅れてもいいでしょ。」
橋口の顔を見るなり、態度を変えた。
「そんなわけないな。ごめん魔が差した。」
「ちょっと鳳さん!」
笑いあう。
正直明日の不安とかすべて流れていった。

不安よりもなんか楽しみが増えた感じがした。

第17話へ続く。



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