スズメの巣 第8話

第8話 取るか取られるか

7月16日。
とある一流ホテルの宴会場の前で橋口は緊張していた。
「これはデジャヴか?」
鳳が思わず突っ込んだ。
「仕方ないでしょう!生配信もあるんですから。」
橋口は、緊張でおかしくなりそうだった。
「まぁ、そうだけどねぇ。」
「うーみんなら大丈夫じゃない?」
「ありがと。さくちゃん。」

愛田は目をキラキラしていた。
「ここでやるんだぁ!ドラフト会議久々だなー!」
「なんであんなワクワクしてるんですか。珍しいですよね。」
「あぁ。ありゃリーグ・ザ・スクエアのオタクモード入ってるわ。無視して大丈夫だから。」
「そうですか。」
そんな会話をしていると時間になった。
「じゃあ行きますか!」
橋口を先頭に入場口に入った。

19時ちょうど。
どでかい音量でファンファーレが鳴った。
そんな中で、男女が入場してきた。
「みなさん、こんばんは!今シーズンも実況を担当します土井です。お願いします。」
拍手が止まらない。

「そして、今シーズンから不定期で実況を務めて頂くのはこの方!!」
「はい!今シーズンから不定期ですが実況を務め、今回ドラフト会議のMCを務めます声優・プロ雀士の北条ちかです!リーグ・ザ・スクエアに戻ってまいりました!よろしくお願いします!」
MC2人の軽快なトークが止まらない。
6分ぐらいは経っただろう。
「そして今シーズンから8チーム新規参入をするというのは6月1日に発表があった通りです!新時代の幕開けです!」
「さぁ。それではドラフト会議に参加する16チームのチームスタッフの皆さんをお招きしましょう!どうぞ!」
幕が開いた。
スーツに身をまとった60名が現れ各々の席に向かった。

「では早速ですが、ドラフト指名に入ります。スタッフの皆様はタブレット端末に団体名と選手のお名前をご記入ください。」
橋口は、ペンを執った。
今回指名権があるのは、選手入れ替えを発表したTUNOYAMAパールズ1名・自由が丘ダイヤモンズ1名・海王ゴールドバンディッツ4名・そして新規参入8チームだった。

「では、出そろいました。指名発表に移ります。発表は前シーズン上位チームから行います。なお、新規参入チームは50音順に発表いたします。」

橋口をはじめとしてドキドキが止まらなかった。

「TUNOYAMAパールズ 1巡目希望・・・。」
「宝田 珠世 全日本麻雀連盟。」

「さくちゃん。知ってる?」
「42歳でプロ歴は確か18年目。ちなみに選考レースにも入ってたけど、今年は不調だったはず。タイトルはなし。」
「いわば無冠の女王ってやつだな。」
「なるほど。」

「続きまして、自由が丘ダイヤモンズ1巡目希望・・・。」
「鹿立 粟男(すだち あわお)プロ競技麻雀協会」
会場からどよめきが起こった。

「鳳さん、どんな方ですか?」
「たしかテクニカルセブンスはグランドスラム達成済みだが、帝雀位には準優勝が6回で優勝はしていない。ただ実力的には、昭和四天王のほかに昭和十武将と呼ばれる一人だ。」
「大ベテランじゃないですか!」
「でもなんで、あのチームなんだ?そして本来配信対局には出ない人だ。」
鳳は、首を傾げた。
「ルーキー多めですしね。」

「続きまして、海王ゴールドバンディッツ1巡目希望・・・。」
「金村 ゆかり プロ競技麻雀協会」
会場がさらにどよめいた。

「この方って・・・。」
「おそらくチーム再建だろうな。現役選手で自由契約になった選手を狙っていたんだろう。」
「なるほど。」

「続きまして、大阪ラフミカエルズ1巡目希望・・・。」
「松岡 太郎 全日本麻雀連盟」

「雀士界のおしゃべり怪獣と呼ばれてる。あのチームらしい人選だな。」

「続きまして、オダイバ eレインボーズ1巡目希望・・・。」
「早口 朝太郎 プロ電現麻雀連盟。」
歓声が巻き起こった。

「すごい人気ですね。」
「電現王座は、6度戴冠してる。プロ歴は28年で、元々プロ競技麻雀協会にいたんだ。だがこの団体には15年在籍してるベテランだな。ましてやあの天野の事件で繰り上がりとなって、初の電現王座を獲得した本人だ。」
「点棒投げられても?」
「その当時は、ネットだったからけが人はいない。」
「あっ。そうですね。」
橋口は、顔を赤くした。

「続きまして、キャピタル麻雀部1巡目希望・・・。」
「山崎 七瀬 雀士協会」
サプライズのようにどよめきが起こった。

「取ってきましたか。」
「おそらく、結果で取るつもりだったんだろう。」
「まぁ問題はなさそうですね。」

「続きまして、JOY V-deers1巡目希望・・・。」
「来ますよ。」
「太平 みく スポーツ麻雀振興会」
会場は驚き、混乱に満ちたざわめきがあった。


「作戦通りだな。」
「あとは祈るだけです。本人にも思いは伝えました。」

あの時の面談でうちに来てくれるそう実感した。と橋口は言う。

「続きまして、神保町ブラックタートルズ1巡目希望・・・。」
「古本 漣 プロ電現麻雀連盟」

「おそらく、コラムをやってるから交渉しやすかったんだろ。タイトルもそこそこ取ってるし。」
「交渉はしやすそうですが・・・。」

「続きまして、乃木坂アイロンマレッツ1巡目希望・・・。」
「金村 ゆかり プロ競技麻雀協会」

「とうとう、競合ですね。」
「俺の予想ならもう1つは指名するな。」
愛田は強く言った。

「続きまして、幕張麻雀闘宴団1巡目希望・・・。」
「金村 ゆかり プロ競技麻雀協会」

「ほらな。」
「よくわかりましたね。」
「剛腕だからイベントにも呼びやすい。ビジネスも合わせたんだ。」

「そして最後に、夕暮れポセイドンズ1巡目希望・・・。」
「海老原 九蔵 プロ競技麻雀協会」
ファンからは歓喜交じりのざわつきが聞こえた。

「嘘だろ・・・。」
「どうかしたんですか?」
「この人が参戦できるわけがない。」
鳳の言葉に、愛田は同調した。
「海老原さんは今公式戦には参加してないんだ。招待試合だけは参加してる。それも時間は限定してる。」
「何でですか?」
「今年で85歳だ。ましてや1部は夜だ。かなりきついだろう。現役引退も示唆してる。」
「なぜ指名をしたんですか?」
「一か八かって感じかな?もしくは1部昇格までの短期とするか。」

「さぁ。指名が出そろいました。この時点でパールズの宝田選手。ダイヤモンズの鹿立選手。ラフミカエルズの松岡選手。eレインボーズの早口選手。キャピタル麻雀部の山崎選手。V-deersの太平選手。ブラックタートルズの古本選手。ポセイドンズの海老原選手は重複がございませんので、指名権及び交渉権獲得となります!」

「うーみん!やったね!」
「とりあえずね。」
「あと3人取れれば問題はなさそうだな。」
「次は、選考レース2位か。2位は誰だったっけ?」
「一応競技のプロ歴23年目、帝雀位1期・ルーキーズをグランプリ含めたグランドスラム。去年スーパーグランドスラム達成した殻田さんです。今年は、テクニカルセブンス今シーズン初戦の立直王座で優勝。さらに、電現のeサバイバルのブロック初戦のオーバー40卯月杯で準優勝でした。取れたらいいのですが・・・。」
「まぁな。」

北条が話し始めた。
「では、金村選手が3チーム競合となりました。抽選に入ります。」
土井が続ける。
「ご存知の方も多いですが、改めて抽選ルールを説明いたします。」
「プロ野球のドラフト会議とは違い、抽選は巨大麻雀牌を使用します。1人1つ選択し、中を引いた方が交渉権獲得となります。なお、ハズレは白で統一されております。では、チームの代表者1名前方にお越しください。」

「では、順番はお任せします。」
やはりサラリーマンだ。譲り合いがすごい。
そんな中で、1番目は、幕張麻雀闘宴団の代表者が左を選択した。
続いて、ゴールドバンディッツが右を選択した。
残ったアイロンマレッツが、中央にスライドした。
「では、牌を一斉にオープンします。皆さん一斉にオープン!!」
少しの沈黙があった。
「やったー!」アニメ声が巻き起こった。
「ということは、乃木坂アイロンマレッツが金村選手との交渉権を獲得しました。」
「では、席にお戻りください。急ですが、指名し直しをお願いします。」
土井が促した。

「これで大体のチームの方針は見えたな。」
「そうですね。かなり絞れますね。」
「そうすると、殻田さんは相当危険だな。ゴールドバンディッツが取るかもしれないぞ。」
「確かになあ。剛腕が欲しいチームは取りに来るかもなぁ。」
「まずいですね。」

北条は話し始めた。
「選択が終了しました。では、再指名に移ります。」

「海王ゴールドバンディッツ 1巡目再希望・・・。」
「堀内 勇三郎 全日本麻雀連盟」

「うそでしょ・・・。」
橋口は、焦り始めた。
「どうした?橋口。」
「いやこのままだとまずい結果になります。」
「そうか。確かにな。」
「選考レースは、3位なんです。指名圏内で・・・。」
「でも大丈夫だろ。」
「さっきのシナリオ通りになると、あと一人しか指名できません。」
「きっと大丈夫だよ!」
金洗はそう励ました。
「お願い。取らないで・・・。」

「では、続いて幕張麻雀闘宴団 第1巡再指名・・・。」
「殻田 魁人 プロ競技麻雀協会」

絶望に変わった。
「まずいなぁ・・・。」
「大丈夫だよぉ。次ベテラン取ればいいんだし。」
「そうだね。」
不安ながらも絞り出すように言った。
「ちなみに、4位は誰さ。」
「雀士協会の布崎さんです。スポーツ麻雀時代は選手権3連覇。プロ競技麻雀協会時代は鳴王位2回獲得し、雀士協会では、選考レースは2カ月だけで、決勝2回優勝1回挙げてます。」
「布崎さんかぁ。そのまま指名でいいと思う。」
「そうですか・・・。分かりました。そうします。」


橋口は、フライング気味にペンを執った。

第9話へ続く。




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