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「日本では、ボードゲーム(パズルゲーム)に著作権はない」という仮説を立てて、いろいろ考えてみる。

前回、前々回のノートの最後にタイトルの通りのことを書きましたので、仮説の回収に入ります。
最初にお断りしますが、自分は弁護士や弁理士ではありませんし、どこかの大学の法学部の学生だったということもありません。
ですので、これから書くことは、仮説だらけになると思います。ここがおかしいと思ったら、それは仮説なので個々の考えどころだということです。

スポーツの著作権

ボードゲームの著作権(知的財産権)を考えるにあたって、ボードゲームとよく似た事例を見ようと思います。そこで、スポーツです。

ボードゲームでも、アクション要素やほぼスポーツともいえるゲームがあります。たとえば、ボードゲーム寄りであれば『KLASK(クラスク)』、スポーツ寄りであれば『mölkky(モルック)』ですね。オリンピック・パラリンピック競技であれば『Petanque(ペタンク)』あたりは類想したボードゲーム(例えば『Targets(ターゲット)』とか)があります。

スポーツもボードゲーム同様に「ルール」があり、その著作権についても同じように議論されていました。参考となる記事として、以下のブログがありました。

「ルールブック」についても著作権の有無についてふれていました。思いっきり要約すると、

創作性と認められる表現が見受けられれば著作物になる

ということです。この点についてはボードゲームも同様ではないかと思います。このブログですが、翌日には「スポーツのプレー」についても書かれていました。

用具って著作物?

ひとまず、「ルール」の著作権性は一旦しめます。では、

スポーツの用具って、著作物ですか?

となると、まあ著作物ではないとなるでしょう。しかし、どういうわけかボードゲームの著作権について書かれた記事(例えば、今回のノートで非常に参考になった以下の記事にも)を読むと、なぜか、ボードゲームの用具のなかには著作権があるものもある、と結構書かれているのです。

※なぜそんなことになっているのかというと、おそらくトレーディングカードゲーム(TCG)を前提としているからでしょう(もちろん仮説ですよ)。

「用具のなかには著作権があるものもある」というのは、用具に著作権があるのではなく、すでにある著作権を利用して用具にしている(二次的利用)、ということでしょう。
そもそも、ボードゲームの用具は言い換えれば、

おもちゃ(玩具)で、応用美術品

です。

「これはゲームなのか?」という著作物

応用美術は、純粋美術に対する言葉です。雑に相違点を示すと、

応用美術は量産品で、純粋美術は一点物

ということです。純粋美術品の複製品(レプリカ)は応用美術品、ともいえます。で、応用美術に入るものの知的財産権は基本的には著作権ではなく、工業製品と同じように意匠権や実用新案などになるようです。

そして、玩具は遊戯の実用品である量産品であるから応用美術に入る、ということです。

その点について、noteにTT CRAFTさんの書いたノートがありました。

じゃあ、純粋美術に当たるボードゲームはなにかあるのかと考えると、

『これはゲームなのか?展』に展示したゲームたち

が、相当すると考え、著作物といえるでしょう。

ただし、第1回に出展された『VOID』や『ストーンヘンジと太陽』などは、普通に量産してしまったので著作物ではないと思います(ただし、後述)。

ついでに書くと、第1回『これはゲームなのか?展』のカタログは、著作物なのかどうなのか、考えると面白い。

『TwixT』は著作物

さて、前々回のノートに書いた『TwixT』騒動ですが、なぜアメリカとヨーロッパ(ドイツ)を挟んで勃発したかというと、

両国の著作権法ともに、応用美術品(ボードゲーム)は著作物だから

です。おそらく日本だともっと違ったことになっていたでしょう。
……あ、そういえば、最近似たような騒動がありましたね。

ただ、Oinkgamesは、販売した同年(2014年)に英語版も制作し、海外でも販売していたと考えます。ですので、海外の方での著作権法に助けられたかも知れません(※同様に『VOID』や『ストーンヘンジの太陽』は、海外でも販売したので海外での著作権が発生しているかも知れません)。

……、日本のみしか販売していない場合、どうなったんでしょうか。

ベルヌ条約だと著作物

『TwixT』騒動も、『エセ芸術家ニューヨークへ行く』騒動も、国内ではなく国際的な著作権に関する取り決めによって、一定の解決に結びついたと思います。

その取り決めとは、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約」(以下、略してベルヌ条約)です。
ちなみに、この条約の第2条第1項では、

 「文学的及び美術的著作物」には、表現の方法又は形式のいかんを問わず、書籍、小冊子その他の文書、講演、演説、説教その他これらと同性質の著作物、演劇用又は楽劇用の著作物、舞踊及び無言劇の著作物、楽曲(歌詞を伴うかどうかを問わない。)、映画の著作物(映画に類似する方法で表現された著作物を含む。以下同じ。)、素描、絵画、建築、彫刻、版画及び石版画の著作物、写真の著作物(写真に類似する方法で表現された著作物を含む。以下同じ。)、応用美術の著作物、図解及び地図並びに地理学、地形学、建築学その他の科学に関する図面、略図及び模型のような文芸、学術及び美術の範囲に属するすべての製作物を含む。
※太字は自分が追加しました。

著作物の対象として、応用美術は含まれています。ただし、日本の著作権法の第十条(著作物の例示)には、

第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

著作物の対象には入っていません。

「パズルオーディション」と知的財産権

自分の書いたノート

では、「第1回パズルオーディション」の結果「パズルゲーム」が1つも入っていないことに対しての言及をしました。
書き上げた後、『TwixT』騒動から知的財産権について調べるようになって、改めてオーディションの募集内容をふりかえりました。
いやはや、大変な気づきがありました。「作品の送付について」です。オーディションに送る作品を、2つに分けています。

☆知恵の輪、箱詰め、スライドパズルなど、モノを使って解くようなパズル
★ペンシルパズル(紙と鉛筆で解くようなもの)

これは審査する協会会員によって分けたものだ、と最初自分は思っていたのですが、それに付随する重要な意味を見落としていました。つまり、

意匠権・実用新案などによって保護するパズル
著作権によって保護するパズル

で分けていたということです。知的財産権の面で考えると「パズルゲーム」は、

ルール・問題・解答は文書、盤面・コンポーネントは応用美術品

の二重構造になっている、実際、面倒な代物だと考えます。

あえて、著作物でなく文書としたのは、日本の著作権法の第十条第二項に「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。」とあるからです。
「ルールのアイディア」が著作物に当たらないのは「雑報」とみなされるからです。
「ボードゲーム(パズルゲーム)のルール」は、言い換えると「おもちゃのマニュアル(遊び方)」なので、「事実の伝達にすぎない雑報」とみなされる可能性が高いです(もちろん創作性があるとすれば、冒頭の「スポーツのルールブック」に書いたとおり、著作物性が認められるでしょう)。

「答えを教えない」という保護

前回のノートでは、詰将棋の問題・解答には著作権性がほぼないと書きました。自分なりの理由をその時点では示しませんでしたので、書きます。

ルール・問題・解答だけでは、表現したとみなされないから

です。追加すると、

将棋の駒や盤があってこそ、十全な表現である、とみなされるため

です。そういった仮説から面倒な代物と書きました。

そうなると、問題・解答はどのように保護したらよいのか。
問題集などの編集物にする1つの手段があります。ただし、個別の問題・解答には著作権がないままです。
別な方法として、実際に行われているのが解答を隠してしまう(解答がほしい希望者は、連絡して購入するなどして保護する)方法です
RUSH HOUR(ラッシュアワー)の前身である『TOKYO PARKING』も解答を隠して発売しました。

しかし、Thinkfunはアメリカの会社ですから、問題・解答も著作物となるので普通に公開しても問題ありません。当然、解答も梱包してしまいます。
商品の魅力を比べると、解答ついている方が安心感があります。
これだと、日本でパズルゲームを制作して販売するのは不利と言わざるを得ません。

ただ、ルールが著作権切れやパブリックドメインだった場合、駒や盤の方を意匠権なり取得して保護する手段もあります。

日本の知的財産法は、著作権法の対象外は意匠権などで保護し、意匠権などの保護対象にならないものは著作権で守る、という双方かからないようにする考え方があるそうです(一部、美術工芸品のように双方の対象になる例外もあります)。
ボードゲーム、パズルゲーム、あるいはスポーツのように、著作物の対象と意匠権などの対象との編集物は、現行の法律に合わせづらいのではないかと思います。

後出し著作権が可能?

以前書いたノート

で、「詰連珠」と「ゴールは5」の類似性を述べましたが、ルール自体はほぼ同じです。

基本的な「5目並べば勝ち」はどちらも同じです。相違点を書くと、
・「ゴールは5」は、勝つ方はタテヨコナナメ4目並ぶ手を必ず指していく
・「詰連珠」は連続で4目並ぶ手はまとめて1手とみなされる
などあるようです。

ただ、困ったことというか変てこな事象が起こっているのです。それは、

「詰連珠」に著作権はないが、「ゴールは5」に著作権はある

ということです。「詰連珠」は碁盤と碁石があって初めて成立すると考えると、問題に著作権はないと考えます。一方「ゴールは5」では、すべて言語と図形で表現できるので、問題には著作権があると考えられます。

上の事象と同様に考えられるのが、「デジタルゲーム(テレビゲーム・スマホアプリゲームなど)」です。

実のところ「デジタルゲーム」の著作権が認められるのは、20世紀のほぼ終り(1999年あたり)からで、著作権法第十条第一項第六号「映画の著作物」として創作性が認められるようになりました。

要はですね、

ボードゲームを先に作って頒布したが、
それを模倣してアプリゲームを作成して発表すると、
後出しのアプリの方に著作権が発生する。

という非常に不公平な仮説も考えられるのです。

まあ実際は、このノートの前半にリンクを載せた前渋さんのブログにも書かれている「一般不法行為」などの一般法で牽制されるのでしょう。

安心して「アナログゲーム」を作りたいかも

とはいいつつも、3月になれば「ゲームマーケット大阪」が開催されて、たくさんの既存・新作ボードゲームが出展・出品されます。
知的財産権的には決していい環境でないことを踏まえているかたは、どれくらいいるのでしょうか(リスクを犯しても創作表現したい熱意には敬意を表します)。

「コンピュータゲーム」も権利のないなかでも創作をし続けてきました。著作権を得るまでにも、いろいろな運動もあったと思います。

今回のノートは、日本の「アナログゲーム」の創作環境は、今後どうなるのか、ではなくどうするのか、と考えてみる機会になればいいなと願いつつ、締めます。

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