立田 順一

横浜市在住。教育関連のことを中心に書いていきます。

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45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(1)

突然の電話「立田さんには、4月からの1年間、企業等への派遣研修に行っていただきます」  教育委員会の担当者から学校に電話がかかってきたのは、3月中旬のことだった。  私は大学を卒業後、すぐに横浜市立小学校の教諭として働きはじめた。それから20数年間、何度か市内での異動はあったものの、小学校以外の職場で働いたことはない。私にとって、その連絡は晴天の霹靂だった。  と言いたいところだが、予感がまったくなかったわけではない。当時の横浜市教育委員会では、毎年、副校長昇任試験の合格者の

    • 私もマイクを切っていたかもしれない

       今月1日、水俣病の犠牲者を追悼する慰霊式の後に、環境大臣と患者や被害者団体の代表者との懇談会が行われた。その際、被害者団体のメンバーが発言をしている途中で、制限時間を超過したとして環境省の職員がマイクを切ったことが問題になっている。  問題が表面化した後、8日には伊藤環境大臣が懇談会のあった熊本県水俣市を改めて訪れ、関係者に謝罪をするとともに、環境省に水俣病対策専属の担当を新たに設けるなど体制を強化し、信頼回復に努めていくことを明らかにした。  水俣病は政府にとっての「

      • 誰が「ゴジラ」と戦うのか?

         遅ればせながら映画『ゴジラ-1.0』を観た。今から70年前の1954年に公開された第一作と同様に、今回のゴジラも核兵器による破壊を象徴しているのだろう。  終戦直後を舞台にした今作のなかでゴジラに立ち向かっていくのは、政府ではなく民間の人たちである。戦争によって傷つき、多くのものを失いながらも、彼らは愛する人たちのために立ち上がるのだ。  作品のなかに貫かれているのは「政府は信用できない」という市民たちの姿である。これは戦時中の大本営発表をはじめとする政府や軍部に対する

        • どこまで本気になれるのか

           前回の記事では、5月7日付の「教育新聞」に掲載された立教大学の中原淳教授と(一社)ライフ&ワークの妹尾昌俊代表理事による対談の前半の内容について紹介をした。  翌8日の「教育新聞」には、対談の後半の内容が掲載されている。  お二人によって後半に語られたのは次のような内容だ。  いずれも、頷くことばかりである。  教員の長時間労働を抜本的に是正するためには、次のいずれか(もしくは両方)を実現するしかないはずである。  一つは、学習指導要領を見直すことで授業時数を削減

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        45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(1)

          「見舞金」で切り崩されてはならない

           5月7日付の「教育新聞」に、立教大学の中原淳教授と(一社)ライフ&ワークの妹尾昌俊代表理事による対談が掲載されている。  対談の内容は、中教審「質の高い教師の確保特別部会」の「審議まとめ案」に関することだ。  この「審議まとめ案」のなかには、教職調整額の引き上げ案が盛り込まれている。しかし、中原教授はこの引き上げ案に対し、一貫して「手段と目的が整合的ではない」と批判をしている。  中原教授による批判の矛先は、審議の内容のみならず、その審議のあり方自体にも向けられている

          「見舞金」で切り崩されてはならない

          嘘ではないが・・・

           昨日(2024年5月6日)の立教大学・中原淳教授のブログに、「中途採用者の採用」にまつわる企業のマネジャーの話が紹介されていた。その一部を抜粋して載せさせていただく。  ぜひ、ブログ本文をお読みいただきたい(中原教授のネーミングのセンスには脱帽である)。  ・・・これに似たことは、学校現場でもある。  私がまだ20代だったころ、勤務先の小学校に4月の人事異動で2人の男性教員が着任した。年齢は2人とも40代の前半だった。  そのうちの一人であるA教諭の前任校は、市内で

          嘘ではないが・・・

          運動会の大小?

           町内会の回覧板に、近所にある小学校の年間行事予定表が挟んであった。それによると、今年の「春の大運動会」は5月の最終土曜日である25日に行われるそうだ。  最近は全国的に、運動会を秋ではなく春に実施する小学校が増えている。私が勤めていた横浜市では、1990年代の後半あたりから、他の学校行事が集中する秋を避けて、運動会の実施時期を春に移す学校が多くなったようだ。  また、近年は10月中旬ごろまで厳しい暑さが続くことから、熱中症対策として春開催に変更した学校もある。  とこ

          運動会の大小?

          「サバイバー」と「逃げ切り隊」〜【長時間労働の是正】にブレーキをかける者たち〜

           教員の「長時間労働の是正」に向けた中教審・特別部会の審議内容については、「不十分」「本格的に議論を深める必要がある」との批判が集まっている。  しかし、「長時間労働の是正」に向けた取組が「不十分」で、「本格的に議論を深める必要がある」のは、一部の学校現場についても同様だろう。特に現職の校長のなかには、この問題に対して十分に向き合おうとしていない者がいると言わざるを得ない。  そうした校長のなかに多いのは、自分自身が「長時間労働」を乗り越えて、学校運営・授業研究・部活動な

          「サバイバー」と「逃げ切り隊」〜【長時間労働の是正】にブレーキをかける者たち〜

          新任指導主事が直面する「リアリティショック」(後編)

           2回にわたって新任の指導主事が直面する「リアリティショック」とその原因について書いてきた。  だが、指導主事の業務には様々な困難がある一方で「やりがい」も大きい。今回は指導主事のそうした一面についても書いておきたい。  ・・・新任の指導主事が戸惑う最大の要因は、 「目の前に子どもがいないこと」  ではないだろうか。  これまで教員として、直接に子どもたちの反応を見たり感じたりしながら仕事をしてきた者にとって、この違いは大きい。「誰のため」「何のため」に仕事をしているの

          新任指導主事が直面する「リアリティショック」(後編)

          新任指導主事が直面する「リアリティショック」(中編)

           前回の記事では、新任の指導主事が直面する「リアリティショック」と、それが「学校」と「行政」との組織や文化の違いに起因するということについて書いた。今回はその続きである。  教育委員会の指導主事というと、 「授業研究会や研修のときに講師をする人」  という程度のイメージしかもっていない教員が大半だと思う。 「指導主事って、こんなことまでやるのか⁈」  という具体的なことについては、実際に自分がなってみないとわからないものである。  学校現場の場合にも、命に関わるような事

          新任指導主事が直面する「リアリティショック」(中編)

          新任指導主事が直面する「リアリティショック」(前編)

           早いもので5月である。 「4月は、あっという間に過ぎ去った」  と感じている人も少なくないことだろう。  その一方で、4月の1か月間が永遠であるかのように長く感じられ、ゴールデンウイークが来るのを心待ちにしていたという人もいたはずだ。  この4月から学校現場を離れ、新任の指導主事として働いている人たちの多くも、この「長い4月」を実感していたに違いない。  新任指導主事の場合、教員時代に学校間での異動をした際にも、不慣れなことの多さなどからこうした「長い4月」を感じたこ

          新任指導主事が直面する「リアリティショック」(前編)

          「結論ありき」の文章

           給特法に基づく教職調整額の在り方などについて審議する中教審の特別部会(第12回)が4月19日に開催され、  給特法の教職調整額を「少なくとも10%以上」とする  という方向で決着をすることが濃厚になった。  しかし、これは「教師の長時間労働の是正」を抜本的に図るための方策にはなり得ず、むしろ「定額働かせ放題」と揶揄される働き方を定着させることになってしまう可能性が高い。  この中教審の審議内容に対しては、批判的な報道も相次いでいる。  ・・・そもそも、今回の特別部会の

          「結論ありき」の文章

          未来の学校

           4月27日(土)・28日(日)の2日間、幕張メッセで「ニコニコ超会議2024」が開催された。  そのなかで注目されたイベントの一つが、角川ドワンゴ学園のN高等学校・S高等学校・N中等部による「磁石祭」である。  N高とS高は、通信制による正規の高等学校だ。両校の学習内容や学び方は共通で、パソコン・スマートフォン・タブレット・VRゴーグルなどを活用したオンラインによる学習が中心だが、スクーリングも行われている。  一方、義務教育段階に当たるN中等部は非正規の学校で、フリ

          未来の学校

          もう一つの「保護者対応」

           教職課程を履修した学生への調査の結果、教育実習中に「教員になりたくないと思うようになった」という者が4割を超えたことがわかった。  この調査は、名古屋大学大学院の研究チームが昨年11月にオンラインで行ったものである。  一方、教育実習中に「(教員の仕事への)やりがいを感じた」という回答も8割に上っており、魅力は感じつつも教員になることをためらうという学生の姿が浮き彫りになっている。  なお、回答した620人のうち、教員免許の取得をやめた者は149人だった。その理由で最

          もう一つの「保護者対応」

          「ニコニコ超会議」にはあって「大阪・関西万博」にはなさそうなもの

           昨日(4月27日)は、2日間にわたって幕張メッセで開催される「ニコニコ超会議2024」の初日に参加をしてきた。  この「ニコニコ超会議」は、日本最大級の動画配信サービスである「ニコニコ(niconico)」のコンテンツを地上に再現するというコンセプトのもとに、ユーザーが主体となって開催するイベントだ。  また、その模様はインターネットでも配信されており、世界中のどこからでも参加をすることが可能となっている。  今回のテーマである、 「ひとりのこらず主人公。」  という

          「ニコニコ超会議」にはあって「大阪・関西万博」にはなさそうなもの

          「遊び」「学び」「仕事」の一体化?

           教職大学院の授業では、新入生に対して「研究の進め方」をレクチャーする際などに、この『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎著・光文社新書)がよく用いられている。  著者である前野ウルド浩太郎氏は、1980年に秋田県で生まれた昆虫学者である。前野氏は31歳のときにアフリカのモーリタニアへ渡り、農作物を食い荒らすサバクトビバッタの生態を約3年間にわたって研究した。  その成果が認められ、現在は国際農林水産業研究センターの主任研究員を務めている。なお、ミドルネームの「ウ

          「遊び」「学び」「仕事」の一体化?