きなこ

はじめまして。野生の一人文芸部です。この物語はフィクションかもしれないしそうでもないか…

きなこ

はじめまして。野生の一人文芸部です。この物語はフィクションかもしれないしそうでもないかもしれません。 お仕事のご用命はTwitterのDM。もしくは此方の方までお願いいたします。⇨https://note.com/6016/message

マガジン

  • 1年生日記

    医療的ケア児付き添い登校の記録。

  • 1年生に、なれるかな。

    うちの末っ子、心疾患児であり医療的ケア児の就学の記録です。

  • 小説:グリルしらとり

    東京の小さな洋食屋を舞台に、ひとりの男の子の周りにいる人々のことを書きます。優しい物語を『グリルしらとり』のメニューを題名にして10篇ほどかけるといいなと思います。

  • 小説『みらいを、待ってる』

    コンテストに一応応募したものの箸にも棒にも引っかからなかったものを、さらに引き延ばして書いたものです。お焚き上げのような。

  • 短編集:詩を書く

    短歌や詩を下敷きにして小説を書きました。1つのものが1万字を上限にしています、ちょっと気の向いた時によめるものをこつこつ書いてここに置いておきます。あなたの気の向いた時に気軽に自由に手にとってくださると書いている人間は喜びます。

最近の記事

わたしと大阪

大阪が苦手だった。 わたしが地元の北陸を出て最初にひとり暮らしをしたのは、京都御所のごく近くの小さな学生用アパートだった。 平安の昔に建立された寺社仏閣と苔むした社の隙間に突然コロニアルスタイルの教会が現れ、その辺にいる若者の大体は近隣の大学の学生、駒寄せに囲われた町家の並ぶ街並み、そこにあるすべてのものをわたしはとても好きだったし、今でもとても好きだ。わたしがハタチ前後だったあの界隈にはまだ喫茶店の『ほんやら洞』があって、いもねぎが名物の『わびすけ』があった。 御所で

    • 1年生日記(12日目)

      実はここ数日、ずっと 「朝ウッチャンを送り支援級の担任の先生か支援員さんにその日の体調のことなどを申し送り、しばらく様子を見て帰宅、昼ごろ給食をめがけて再び学校に行き2.0vの酸素ボンベを1.1vのものと交換し服薬を確認して帰宅、5時間目の終わりごろに再びウッチャンのお迎えのために学校へ」 この3往復形式が果たして本当に正しいのかということを考えていた。一度は「まあしゃあないよね」と思ったこれを始めて数日後、我が家でちょっとした事件が起きたものだから。 さて、うちの夫と

      • 1年生日記(11日目)

        1年生11日目。 小学校の掃除の時間をわたしはあまり好きではなかった。廊下や下駄箱の掃除担当になるとグラウンドからさらりさらりと流れて、もしくは子どもたちの足裏にくっついてやってきた砂がホウキで掃いても掃いても出てくるし、トイレや手洗い場の掃除は、地元が冬はしんと雪の降る北国だったせいもあって手指の感覚が無くなってしまうほど冷たくて辛いし。 広い教室の床を雑巾で拭くのも嫌だった、膝をつきつき雑巾をかけるから膝が汚れるし衣類も痛む。思えばうちの一番上の現15歳の小学校の頃に

        • 不完全幸福

          3月まで居座っていた冬が、突然「あ、春でした」とでも思ったのか突然消え去って桜が各地のあちこちで咲き初めた4月。その4月第一週目に間に合わせるようにして桜の咲いた金曜日、12歳の中学校の入学式があった。 12歳が進学したのは地域の公立中学校で、12歳と同じ小学校のお友達の7割はここに進学するし、その上このすぐ前の3月に12歳の兄が同じ中学校を卒業したばかり、勝手知ったる中学校の、12歳自身も親も、随分と肩から力の抜けた、静かで穏やかな入学式。 「でも、制服が可愛くない」

        わたしと大阪

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        • 1年生日記
          9本
        • 1年生に、なれるかな。
          9本
        • 小説:グリルしらとり
          5本
        • 小説『みらいを、待ってる』
          4本
        • 短編集:詩を書く
          6本
        • 短編小説集:春愁町
          5本

        記事

          1年生日記(8日目)

          4月17日 小学校ではひらがなを、あいうえおの『あ』から習う。 わたしもかつて小学生だったうんと昔そうだったので、特に新鮮な驚きというものはそこにはないのだけれど、よくよく考えてみると一体何なのだろうかあの『あいうえお』って。 朝、ウッチャンと一緒に登校して1時間目のおわりか、2時間目の途中頃まで廊下でそっと立って(椅子も用意していただけたけど、座るとウッチャンが視界に入らない)ウッチャンの口唇の色、手指の血色、それから次第に姿勢が傾いて机に突っ伏したりしていないかを見

          1年生日記(8日目)

          1年生日記(7日目)

          4月16日 付き添い7日目、7というのは質感、音、形、全てがきれいな数字だと思う。その上、涼しい見た目に反していざ手に取るとほんのり温かい気がする。一見ひどく冷たそうに見える美人に意を決して話しかけてみると、意外に朗らかでまったく気取らない人だったと、そういう感じ。 でもうちの15歳、現在高校1年生から言わせるとそれは 「7はメルセンヌ数であり、メルセンヌ素数である、綺麗かどうかはしらん」 ということで、なんで数字の質感を気にするねんということのよう。尚この15歳の同

          1年生日記(7日目)

          1年生日記(6日目)

          4月15日 土日を挟んでまた月曜日、日中は少し汗ばむくらいの気候になってきた4月の半ば。 朝の登校班にはちらほらと半袖の男の子に、あれはなんて言う種類の衣類なのか、肩の部分がシースルーとかむき出しになっているタイプのカットソーの女の子(予防接種の時に喜ばれるアレ)がいて、そこだけなんだか初夏の風が吹いているような。 学校がお休みだった土曜日と日曜日、わたしは入学前に想像していた『病弱児・虚弱児学級』と、ウッチャンが今在籍している『病弱児・虚弱児学級』の実態があまりにも乖

          1年生日記(6日目)

          1年生日記(5日目)

          4月12日 5日間、1年生の教室に張り付いた、自分の子どものためだ。 医療的ケア児で、24時間の在宅酸素療法が必要なのだけれど、知的、情緒的、運動機能的な側面はぜんぶ普通の子のキワのキワにぶら下がっているウッチャンに『丁度いい学校』というものはいま現在地域に存在しない。 いや、もしかしたら、どこにもないのかもしれない。 少女漫画の古典にして金字塔、大島弓子先生の短編『毎日が夏休み』に、御近所の奥様方が「まあ立派なとこにお勤めなんですのねえ」と嘆息を漏らすような有名企業

          1年生日記(5日目)

          1年生日記(4日目)

          4月11日 Amazonのサイトに 『価格も品質も申し分ないのですが、いかんせん組み立てに力がいります。キャンプに持っていった際、高校生の娘の力では組み立てられませんでした』 というレビューのキャンプ用のコットがうちにある。それは撥水加工のキャンバス地に3つに分割してある骨組みを組み立てて滑り込ませ、キャンバス地と一体化した骨組みに空いた穴にスチール製の細い足を4つはめ込むと、軽量でかつ丈夫な簡易ベッドができるというもの、小さく分解できるので運搬も簡便。でもキャンプ用品

          1年生日記(4日目)

          1年生日記(3日目)

          4月10日 学校の廊下が寒い。 春、桜が咲いたらすぐに初夏がやってきてたちまち向日葵の笑う真夏になるというのが、ここ数年定着した春から夏への季節の移ろいだったので、今年も桜が咲いてしまえばすぐ上着要らずの温かな季節が来るだろうと思っていたら、ここ数日は思いがけず冷たい春で、わたしは今日も一人、換気のため窓を開け放った廊下で凍えながらじっと教室の張り込みを続けていた。 去年の冬「軽いし温かいし、きっと出先でウッチャンの保温に役に立つ」と言って清水の舞台から飛び降りて大腿骨

          1年生日記(3日目)

          1年生日記(2日目)

          桜散らす大雨の朝。 雨が降って初めて気がついた、わたしときたら雨の日の車椅子移動の際の雨具というか、装備は一体なにが最適解なのか、ぜんぜん考えていなかった。 そもそも車椅子という乗り物は悪路や悪天候で使用されることを想定していない(ですよね?)。ウッチャンの電動車椅子はバッテリーとフレームがYAMAHAで、座面は別会社のセミオーダー品。長時間座っていても疲れないように、そして夏場に蒸れないように、身体のカーブに沿った形に作られたメッシュ素材で中身が多分ウレタンスポンジのシ

          1年生日記(2日目)

          1年生日記(1日目)

          4月8日 朝、電動車椅子に乗ったウッチャンと、集団登校の集合場所に行き、その日初めてお顔を合わせた登校班の班長さんとご挨拶。利発そうな眼鏡の彼女は、ぺこんと頭を下げたわたしとウッチャンの姿を見て 「えっ?」 という顔をしたものの、わたしが「こういう事情のある子なので朝は親が付き添うし、電動車椅子はそれほどスピードが出る設定にしていなくて段差を迂回することも必要で、隊列には遅れがちなのでどうぞ他の子たちを連れて先に行ってね」と伝えると少しだけホッとした顔をしていた、ごめん

          1年生日記(1日目)

          1年生に、なれるかな(9)

          3月を舐めていた。 今年の3月という季節が巡って来るまでわたしは 「世界で一番なことは子の手術入院」 と思っていたし、実際にあの長い病棟での攻防は、手術を受ける本人も、それに付き添う親も、家でただ待つことになるきょうだいも、そしてその子達のために実家から呼び出される老親も、皆不便があり苦労があり、あれこそが精神的にも体力的にも金銭的にも、とにかく全方向すべてを削り取られる人生で一番辛い行事であるよと思っていた。 だから「中学卒業と小学校卒業と幼稚園卒園、間に高校受験

          1年生に、なれるかな(9)

          短編小説:たぬきの恩返し

          リョーコちゃんが俺に持たせた荷物の中に古い3合炊きの電気炊飯器がある。それはまるでサザエさんに出てきそうな昭和風フォルムの白い電気炊飯器で、俺は最初それを「いらへんて」と言った。 「リョーコちゃん俺、飯とかあんま炊かんて、むこうではサトウのごはん食うて生きていくつもりやし」 「アカン、ちゃんとご飯を炊かへんと食費が高うつくやんか、絶対に荷物の中に入れとき」 正月の鏡餅のように白くぽってりとしたフォルムでかつ、その首の上に乗っかる顔がタヌキそっくりのリョーコちゃんは、普段は

          短編小説:たぬきの恩返し

          登校日

          『高校に合格することはゴールではない、スタートである』 息子が中学3年間お世話になった学習塾の落ちっぞ先生(綽名、何かにつけて子どもらに「オメーは高校に落ちっぞ」など言うため)が、公立高校受験直前、教え子を前に語ったこの箴言を、わたしは合格発表の日にもう一度聞くことになった。 3月某日、3月末生まれでまだ14歳の息子が公立高校に合格した。 まだこの世のあらかたを14年分しか経験していない、頬にかすかに残る産毛に幼さを十分残した子が、初めて己を試される高校受験、合格発表の

          登校日

          卒業袴

          小学生の卒業式に袴を着ようなんてこと、一体いつごろ、どこの誰が思いついたのだろう。 個人的に、桜の御所車の宝尽くしの撫子の振袖に藍の浅葱の紫の袴を合わせたお嬢様方が、桜待つ弥生の街を華やかに和やかに歩く様を見ることは、大変好ましい。 でも12歳か、早生まれなら11歳の年端もゆかない女の子たちが袴姿で卒業式というのは、流石にちょっとやりすぎではないかしらん。それも普通の、公立の小学校で。 そう思っていたのは3年前、今年中3で中学を卒業した息子の小学校の卒業式のときのことで

          卒業袴