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ビバ! おにぎり

 「

 おにぎり」が、流行っているのだろうか?


 地元の商店街にも最近、おにぎり専門店が開店し、当初は行列を作り、今でも覗くたびに満席である。
 僕はまだ入店したことはないが、いずれ賞味したいとも考えている。

 実は、僕がおにぎりの美味しさを知ったのは……呆れ返ることに、去年の夏からなのだ。
 金欠いみじくして、昼食も省いていたのだが、いかんせん暑さに体力がついてゆかず、ついスーパーのおにぎりを買ったのが、まさしくエポックになったらしい。

 記憶を辿るまでもなく、僕はこれまでの人生でおにぎりを買って食べたことが一度もなかったのだ。
 あまり信じてもらえそうもない話ではあるが、どうやら僕はガキの頃からおにぎりが好きではなかったようだ。おかんの握ったおにぎりについて必死に思い出してみるのだが……たぶん、いり卵か何かを具にした奴を食った記憶こそあるが、遠足の弁当などにおにぎりが入っていた記憶は皆無である。
 確かに僕は、米よりもパンを好んでいて、おにぎりの代わりにサンドイッチを好んでいたらしい。
 はっきり言って、僕は日本人のくせに米の飯の美味さを知らなかったのだろう。
 それでも、家族は揃って米やご飯の焚き方にはうるさく……この米は美味いとか不味い、あるいは水加減がどうのと、始終ブツクサ言っていたようだ。
 叔父2などは、炊飯器の二度焚きでわざわざ「おこげ」を作り、塩を入れたお茶漬けみたいのに舌鼓を打っていたものである。

 とにかく子供時代……いや二十歳を過ぎてからも、僕は米の飯に鈍感であった。
パンの方が美味いと思っていただけに、焚き加減に文句をつけるでもない。ましてや、どこどこ産などには無関心であった。
 一度、地元の中華屋で、文字道理「臭い飯」を食わされ、大将に文句を言ったことこそあるが、その他は単に腹を満たす増量剤とでも思っていたらしい。

 かくして時が流れ……去年の夏のことだ。
 酷暑とあって、買ったおにぎりを冷蔵庫で冷やしてから食ったのだが……たぶん、生まれて初めて「おにぎり」を美味いと納得した瞬間であった。

 果たして、ようやっと日本人になれたのだろうか?

 これをきっかけに、おにぎりは常食になり……つい引っ張られるように、米の美味さを遅ればせに感得したしだいであった。

 我ながら呆れ返るほどの成り行きではあるが……近頃では米の産地や、ちょっとした水加減による味の善し悪しも味わえるまでに成長したらしい。やれやれ……

 とは言え、「おにぎり」に関しては初心者なのだ。
 具としては、「おかか」「塩鮭」「ツナマヨ」以外はまだ口にしていない。
「たらこ」や「めんたい」などは、長いこと和食の食材としてではなく、いっそパスタの食材と信じていたのだから……

 いずれにしても、おにぎり……すなわち米の美味さが漸く判り始めてきたのだ!

 これだけの事で、なんだか不意に人生が豊かになったように思える今日この頃である。

 暇を見て先の専門店の扉を排し、「おにぎり」の「通」を気取ってみたいと考えている。

 

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