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貧すれば鈍する……


 四月に入ってから、スーパーの食品売り場の値札がやたら小憎らしく見える。あれもこれも……見回すところ、こぞって値上げラッシュの有り様である。さあ、困った。もとより切り詰めた生活……この上、何を切り詰めるべきか。

 まず、酒とタバコは絶対にやめるつもりはない! これは、僕にとっての基本的生命線なのだ。
 せめて……二日で食っていたパック入りハムを三日に延ばし、三合炊いていた米を二合半に減らし……特売以外に絶対に肉は食わず、スナック類などはご法度、夏服も去年ので我慢……ああ、……だんだんみみっちくなってくる!

 思えば、「貧すれば鈍する」という言葉がある。

 あんまりしみったれた生活をしていると、頭の働きまで鈍くなる……という意味だろう。
それだけは、ご勘弁願いたい。

 はて、何とする?

 ここは発想の転換で切り抜けるしかないだろう。

 そう。百円でお釣りのくる豆腐とて、ステーキに見立てれば立派なご馳走である。物価の優等生である卵など、江戸時代では贅沢品なのだ。
 そして対酌の相手としては、大田南畝あたりがぴったりだろう。この鎖国日本の器には入り切れなかったマルチの天才……、カネはなくとも本は買い、体調すぐれずとて酒は飲む。
いいねぇ。こういう御仁が相手なら、アタマを「鈍」にしていてはどんな狂歌をぶつけられるか知れたものではない。

 下級武士でありながらも、士農工商くそを食らえ、江戸文化サークルのスターとあれば、話も弾む。三味の音バックに小膝を叩けば、つい狂歌の一つも捻りたくなる……

 世の中はカネと鰻が敵(かたき)なり どうか敵にめぐりあいたい

 いけねぇ……つい本音が出てしまった。南畝先生の、馬鹿ーーにした顔がついそこに見えるようである……

 

 

 

 

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