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劇場版 PSYCHO-PASS サイコパスPROVIDENCEについて(前編)

はじめに

 5月12日に公開となった「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパスPROVIDENCE」についてのお話をさせて頂きます。ネタバレありきの内容となります。
 この映画を見てから、僕の中での色んな感情が爆発し、頭の中で、正義についての議論がエンドレスで繰り広げられました。
 「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System」の「Case.3『恩讐の彼方に__』」とPSYCHO-PASS サイコパス 3の間の物語を描いた本作なんですが、簡単に言うと地獄のような内容でした。
 
これまでも、数々の地獄が描かれてきた本作ですが、今回の地獄は、屈指の地獄展開だったと思います。辛いを通り越して、しんどい、苦しい、哀しい、激しいが連続するようなそんな作品でした。
 言いたい放題言ってますが、個人的にこの映画は、最高の映画だったと思ってます。これまでの本作の良さと点と線が結ばれる快感、これまでのシナリオを観ていたら、色々、楽しい作品となっております。
 ネタバレありの感想になるので、知りたくない方は、引き返して下さい。

第一章 PSYCHO-PASSという世界

シビュラシステムとは?


 そもそも、この作品についての記述をさせて下さい。時は近未来の日本。
 世界中での貧困や、紛争。あらゆる事柄が、起きる中、人の精神性を図るシステム・シビュラシステムの導入に伴い、日本は世界で唯一の法治国家としての体裁を保つことに成功。以降、鎖国政策に伴い、日本は、安定した生活を送ることの出来る国として、大きく発展していくこととなっていく。
 色んな要素を省いていますが、詳しく知りたい方は、ウィキ見るなり、何なりしてくれると嬉しいです。ここだけじゃ、語り切れない位、深い構成、世界観になっているので。

 この物語の根幹にあるシステム・シビュラの役割。それは、人々の精神衛生を数値化し、観測。それに伴い、人々の社会活動を支援し、多くの人々に豊かな生活を送る為に作られたシステムのことです。
 この社会に於けるシビュラの数値化するデータこそが、PSYCHO-PASS。このデータにより、多くの人々の社会活動は、安定し、多くの人々は平穏無事に過ごすことに成功しています。
 しかし、全員が過不足なく、その平穏を過ごせる訳でもありません。PSYCHO-PASSの中には、犯罪係数と呼ばれるパラメーターが存在し、これをオーバーすると潜在犯として、社会活動を制限、最悪の場合、死ぬことになってしまうという恐ろしく歪んだ社会体制となっています。
 シビュラは、人の精神を色で判別し、その名称こと色相で、その人のランクが決まる社会となっています。クリアカラーは、尊ばれ、濁った人は蔑まれる。正にディストピア展開のお手本みたいなシステムとなっています
 
誰もが、犯罪者になりたくない、療養所送りにされたくないと生きて、シビュラの神託により、誰もが生きる世界。それが、PSYCHO-PASSの本流にあるものなんです。

監視官と執行官


 書いてても、いまいち、理解出来ないですよね。僕自身、この全てを拾い切ることは出来ませんと言う程、PSYCHO-PASSの設定は緻密で精密。繊細で、簡単には理解出来ないからこそ、知りたい、もっと、好きになりたいと思えるのが、本作の魅力なんです。
 正しいようで、完全に狂った世界を舞台に、戦う警察官こそ、厚生省公安局刑事課と呼ばれる組織。
彼らが、この世界の治安を守っています。
 この時代には、警察という組織は解体され、存在せず、厚生省と呼ばれる外部機関として、行動しています。
 この機関には、2種類の捜査官が存在しています。一つは執行官。実質的に、行動し、社会秩序維持のために動く捜査官の総称です。実際は、先ほど、説明した高い数値の潜在犯で、構成されています。
 彼等は、社会から排除されるべき存在ではありますが、その優秀な能力を見込まれ、捜査官としての実力を認められた存在として、後で出てくる監視官と行動を共にすることで、一時的な自由を与えられています
 一方の監視官は、言わば、執行官のお目付け役であり、監視、指揮を行う業務を任されており、いわば、色相がクリアな人間が就職する仕事です。
 しかし、余りの激務と困難な職業である為、殆どの人間が潜在犯になる、殉職する超ブラック業種であり、それをクリアすることが出来たら、出世が約束されているという地獄なお仕事となっています
 本作の主人公である常守朱は、2012年放送の一期から、三期と短編映画を除けば、殆どの作品に於いて、主人公を担当しています。
 最初の一期の頃は、新人監視官として、右も左も分からないまま、悪戦苦闘する日々を過ごし、多くの別れを通して、精神的に成長。二期からは、指揮官として、それまでの刑事課を引っ張っていく立場へと成長していきます。
 その度に、彼女は色んな物を失い、色んな物を手に入れてきました。成長していく様や、苦悩していく様も、この作品の魅力となっています。
 彼女以外にも、個性豊かなメンバーが揃っており、それぞれの思いが、描かれており、一筋縄ではいかない彼等ですが、それと同時に譲れない思いで、潜在犯、そして、それは己自身と向き合う物語となっています。

 この作品はそんな刑事達が、この狂った世界を舞台にて、展開される予想を上回る難事件・怪事件を解き明かし、正しいことは、何なのか?何が、正義で、何を以てして、悪と断罪すべきなのかと言う苦悩と葛藤と共に、成長していく近未来クライムサスペンスとなっています

個人的な魅力

 僕は相棒に代表される刑事ドラマが大好きな人間なんです。数々の刑事ドラマを視聴しては、色んなドラマを観てきました。
 この作品は、そういう僕の大好きな刑事ドラマ要素をいっぱい、詰め込んだ作品となっています。泥臭く、生々しく、正義を追求する様は、正に良い刑事ドラマそのもの。こういうアニメを待っていた。

 初めて見たのは、一期一話。しかし、最初はすぐにリタイアしてしまいました。何故なら、いきなり、グロテスクだったからです・・・・。
 犯罪係数を300になると肉体が膨れ上がり、爆散するんですよ?信じられますか?そんな世界を最初は、受け入れることが出来ませんでした。
 しかし、ウィキで滅茶苦茶、調べました。アニメは見られないけれど、ウィキで確認出来る。何度も、ウィキで確認し続けたことか?好きで、好きで、好き過ぎた結果、第21話「血の褒賞」を、再視聴しました。
 それが、僕にとっての運命が動き出した瞬間だったのです。

 征陸智己さんの死。ウィキでそこそこの情報は知ってたけれど、彼の死は僕の色相を大きく曇らせるきっかけとなってしまいました。
 この声優さんは、有本欽隆さんが演じており、有本さんと言えば、ワンピースの白ひげこと、エドワード・ニューゲート、ハガレンのノックス先生等、僕の大好きなキャラを演じ続けて来た大声優だったのです。
 こんな別れ無いだろうと思う彼の死が、僕をこの終わりのない深淵に引き込んでいったのでした。今でも、忘れられません。
 凄い皮肉な話なんですけど、僕の最推しはこんなに征陸さん推してると言ってるクセに、槙島聖護なんですけど、彼の所為で、征陸さんが死ぬという最悪な話を許して下さい。本当に最悪過ぎませんか?
 この回は、たった一話、グロいと切り捨てたはずの僕を受け入れ、こうして、僕も潜在犯となり、ラストの話でPSYCHO-PASSにドはまりしてしまいました。
 当時は、まだ、今のように、配信が全盛ではなかったので、レンタルして、全話視聴したりして、一端の執行官になることが出来ました。

 その結果、とっつぁんではなく、槙島聖護の傀儡になっていました。執行官から、それより酷い堕ち方をしたとは、思ってますけども。
 そんなこんなで、映像化した作品ものであれば、大体、鑑賞しました。本当にこの作品で、色んな形の正義を知り、色んなことを学びました。
 この作品を観て、槙島君の読んでいた本を読んだりしてました。それ位、凄い影響を受けた作品となっております。

槙島聖護について


 どうして、槙島君が一番好きかと言えば、悪役として、最高にキマっている印象がとても、強く、彼のような人間に強く、惹かれてしまいます。
 天才的頭脳で、綿密に組み込まれた計画。どんな人さえも、彼の掌に引き込むカリスマ性、臨機応変なまでの対応力、どんな状況でさえも、楽しむ程の余裕な態度と非の打ち所がない悪役なのが、僕の心を貫き、色相が濁る程、推しになってしまいました。
 何より、本人自身の戦闘能力が、物凄く高いという完全無欠さというのが、決定打となりましたね。たった一人でザコとはいえ、3人の男を制圧した実力者ですから、本当に強かったと思います。
 それから、彼より、戦闘力高い敵や、凄い頭脳の敵キャラが出てくるんですけども、槙島君程じゃないんですよね。どんなに強い敵が出現しても、彼より、魅力的な敵ではないんですよね。それ位、槙島君は、最高に好きで、一番好きな悪役なんです。
 彼にも、彼なりの信念を有し、自分の目的を果たす。全ては、人間らしさを追求、人間のその先の輝きを観る為に。その為なら、どんなこともする彼が、どんな悪よりも、恐ろしく、どんな悪よりも、美しい。
 何より、槙島聖護の強い所は、免罪体質という素質。この素質は、本来であれば、犯罪係数が上昇しても、おかしくないことでさえも、上昇せず、ドミネーターでの対処が基本のこの世界に於いて、彼を倒すことは不可能というこの設定が一番強いと思います。
 この設定を有する人間のみが、シビュラになれる為、物凄い優遇されます。それが、一期に於ける一番の要素であり、犯罪係数のみが、優遇される社会に於いて、最大の盲点であり、高い壁のように思える所だと思います。
 シビュラの真実はまた改めて。

 天使のような微笑みで、悪魔のような残虐な男。それが、槙島聖護というキャラの魅力であり、僕の最推しの全てです。
 最終的には、死んでしまうのですが、死後も、多くの人々からの強い支持や、ファンを有しており、とんでもない人気キャラとして、君臨する槙島君。
 まぁ、この映画には、1ミクロンも出てないんですけども。

考えることについて


 この作品は、強大な敵に立ち向かい、悪ではあるけれど、完全な悪ではなく、理由や意味のある悪。このシビュラ世界が生んだ膿の部分と向き合い、その過程を乗り越え、人々があるべき姿、正しいことや、考え方の相違、行動することの意義や正しいことをすることの大変さと哲学的要素を含んでいます。
 皮肉や風刺とブラックな要素や、今の世の中に通じることが、沢山あって、タメにもなるような作品となっています。
 この作品を通して、考えることを辞めてはいけない。どうにもならないことばかり、理不尽がまかり通る社会だからこそ、流されてはいけない。自分の信念を以て、強く生きないといけない。そんな思いに駆られる作品こそ、PSYCHO-PASSという作品となっています。

 前置きが長くなりましたが、此処からは、今回の映画であるPROVIDENCEについて、思ったこと、考えたことを書いていこうと思います。
 まだ、映画見てない人はお引き取り下さいませ。

第二章 PROVIDENCEの感想

 今回の映画は、最初にも書いた通り、地獄みたいな展開でした。とにかく、人が大勢死にます。それはゲストキャラに限らず、それまで登場していたキャラも、死んでいく展開が、とっても、きつかった。
 簡単なあらすじを言うとシビュラシステムの進化に伴い、法律が廃止される日本。そんな中、シビュラの今後を予測する文章を日本に持ち込む為、訪れるはずだった要人が死亡。その陰で暗躍する組織との対立を軸に、その裏に隠された真実と向き合うお話となっています。

雑賀先生

 この感想エリアでは、ずっと、貯めに溜めて来た思いをぶっちゃけたいと思っています。それは何かと言えば、雑賀譲二の死に尽きるんじゃないでしょうか?
 
そんな気はしてました。三期出てなかったし、言われてみると三期の朱ちゃんの収監されていた部屋が、雑賀先生(以降雑賀先生表記)の部屋にどことなく似ているなと思っていたのは、後で気づいたんですが、そういうことだったんですね。
 色相が濁って、濁って仕方なかったです。本当に酷い、酷すぎる。こんなのあんまりだと思う位の仕打ちだったと思います。
 雑賀先生は、元々は臨床心理学の教授だったのですが、その講義中に、受講生の犯罪係数を上昇させた過去を持った自称世捨て人。彼の生徒には、狡噛さんも含まれており、彼の結んだ縁に伴い、公安局刑事課にも、協力し、最終的には、分析官として、活躍する機会もありました。
 人の中にある本質を見抜き、それを提示するプロフェッショナルとして、朱ちゃん(以降朱ちゃん表記)を助けて来た本当にいい人だっただけに、残念以上の言葉が見つかりません。何で、死ななアカンねん、ええやろ、生かしてやれよ、馬鹿野郎。
 三期は執行官も、監視官も死んでなかっただけに、改めて、この作品は人が大勢死ぬ作品なんだと自覚する場面だったと思います
 雑賀先生の死も、本当に雑ではないけれど、その原因が別組織の謀略で、死ぬことになったのが、原因と思うと本当にやり切れない。
 死なないといけないとはいえ、この展開は酷いなと真面目に考えてしまいました。ご丁寧に、死亡フラグさえも、用意するという手の込みよう。そこまで、やらんでもええやないか。
 もっと、雑賀先生には、色んな分析や考察を行って欲しかったけど、チート過ぎたから、降板みたいな感じなのかなと朱ちゃんを地獄に堕とす為の通過儀礼だったとは思うんですけども。
 個人的、本当に辛いなと思ったのは、戦犯の一人フレデリカを雑賀先生が、助け、人質になり、狡噛さん(以降この表記)が、助けるも、敵の不死身に大苦戦することとなり、結果、高層ビルの吹き抜けから、転落する場面は、哀しくて、思い出しただけで、泣きそうになってしまいます。
 朱ちゃんは、重い体重の雑賀先生を助けようとしますが、一人では流石に無理。一歩間違えれば、道連れになり兼ねない中、最後の言葉を送り、手を放し、堕ちて行く様は、言葉に出来ない思いに駆られました
 正義も真実も多面的だ。上から見なければ理解できないこともあるの言葉は、総じて、本作の根底にある言葉に思えました。物事は、本当に色んな人々の思いが交錯し、それぞれの思惑で成り立っており、どうしても、分かり合えない、だから、争う。この言葉は、とても、重く深く、朱ちゃんや鑑賞した人々にも、突き刺さる言葉だったと思います。
 本当に雑賀先生の眼鏡をクイっとやる仕草が、凄く好きで、真似してしまう位、好きだっただけに、今回の死は非常に残念で、仕方なかったけれど、今はようやく、受け入れております。
 今はただ、ご冥福をお祈りするばかりです。馬鹿野郎。

狡噛さんと朱ちゃん


 一期で逃亡し、海外に潜伏していた一期の主人公こと、狡噛慎也さんが、日本に帰ってきて、朱ちゃんと感動の再会とは行かず、何だか、上手く行かない雰囲気の2人とかが、印象的でしたね。
 恋愛関係とも、違う2人が放つ複雑な関係性。互いに信じるものはありますが、考え方の相違で、離ればなれになってしまった2人なだけに、何とも、噛みあわない感じが、全面に出ていましたね。
 そもそも、狡噛さんは監視官だったのですが、当時の部下が、惨殺された過去を持ち、潜在犯となり、執行官になった経緯の持ち主です。しかし、その部下である佐々山を殺した事件の黒幕である槙島君を捕まえようとするも、彼の有する免罪体質の所為で、それも敵わず、それ所か、逃がすという最悪な事態となり、刑事課を逃亡、槙島を殺害し、朱ちゃんと袂を分かちます。
 それから、海外に行き、武装ゲリラで傭兵まがいの仕事をしたりした過去の末、外務省海外調整局・花城フレデリカと出会い、日本に戻って来ました。
 知ってる人向けなんで、細かい説明はしないけれども、本当は最初の劇場版のこととか、SSについても、触れたいけれど、脱線するので、ここまでにしておきます。

 朱ちゃんの正義は、どれだけ、自分が苦しんでも、人と人が助け合い、手を取り合い、支え合う社会。その為、システムに操られるのではなく、自分の意志でそれを選択するという考えの下、不殺を貫いていました。
 一方の狡噛さんは、朱ちゃんの正義と真逆の正しいことを成す為なら、手段を選ばず、己の正義に準じるやり方で、対処する。それが、例え、人を殺してでも、止めないといけない程の苛烈さと執念深さ、やると決めたら、最後までやり通す徹底しているのが、彼の正義です。
 正義というベクトルは同じなんですが、噛みあわない。どちらの道も、平坦でも無ければ、過酷な道を選択してきた2人。

 ようやく、会えたけれど、電話では、何とも、噛みあわず、すれ違い。かと思えば、いざと言う時は、助けてくれる頼もしさは、この2人ならでは。
 雑賀先生が、襲われる際の朱ちゃんを庇う狡噛さんが、その代表例なんじゃあないでしょうか。本当にカッコいいよねぇ。これは惚れちゃう。
 全体通して、今回は朱ちゃんが、ブレそうになる場面が、多くて、狡噛さんは、いつものように、迷いが無く、一貫している対比がまた。
 朱ちゃんは、色んな責任やプレッシャー、今回の事件に巻き込まれた人や、関わっていた人達の死への責任を感じながら、懸命に戦っている印象ですかね。朱ちゃんも、ただの監視官ではなく、色んな責任を負う立場であるからこそ、色々考えてしまう。己の正義を成すには、どうすることも出来ないことへの限界を痛感しながらも。
 一方の狡噛さんは、朱ちゃんの正しさを理解し、こうはならないでという反面教師の意味合いで、行動している側面が強い。その部分は、一期やこれまでの映画でも、提示されてきましたが、今回はその側面がより顕著で、朱ちゃんがそれまでより、大きな責任を負い、尚且つ、偉くなったからこそなんでしょう。
 
雑賀先生にも、謝れる時に誤っておけという死亡フラグを言われる羽目になる程、あの2人の関係性は拗れていました。
 だからこそ、其処からの齟齬が大きくなって、やがて、その溝が決定的な過ちへと発展していくのが、今回の映画の一番の見どころなのかもしれません。
 本質的には、分かり合ってたはずなのに。一時期は朱ちゃんの中に、イマジナリー慎也が出てくる程だったのに。どうして、こうなってしまったんでしょうね。

謀略


 今回の話は、黒い話ばかりが、裏で蠢き、それぞれの思惑で進行していきます。その為、刑事課は完全に蚊帳の外。全て、シビュラ、慎導篤志外務省、ピースブレイカーの思うがままに進行していきます。
 3期に登場し、重要な出番はあったものの台詞が少なかった慎導篤志(以降慎導さん)。彼が、この映画でも、重要な役回りを演じ、暗躍していきます。基本的には、良い人なのかもしれませんが、きな臭さしかないのが、何とも。
 今回の戦犯と言えば、外務省海外調整局の矢吹局長でしょうね。彼の所為で、死ななくてもいい人が、沢山死んでしまっただけに、許せないしか残っていません。最終的に死んでしまうので、何とも言えないんですけども。
 今回の物語の敵として、出現するピースブレイカー。彼等は、元は元外務省の海外実働部隊でしたが、その成れの果となり、亡霊として、各地でテロ活動に従事することとなってしまいます。
 矢吹局長は、徹底して、彼等を追い詰めることに躍起になります。それが返って、自分の首を絞めることになるとも、知らず。
 一方の慎導さんは、刑事課も、外務省も、シビュラも動かしつつ、自分に有利に動くように、物語を進めていきます。それはまるで、既に答えを知っているかのように。

 今回のカギとなるのは、命がけで入国しようとしたものの非業の死を遂げたミリシア・ストロンスカヤ博士が制作したストロンスカヤ文章。その文章を巡って、不必要な命も奪われてしまう事態に発展してしまいます。
 この文章は、所謂シミュレーターのようなもので、世界各国で起きる紛争を数値化した”紛争係数”を正確に測ることが出来るようです。これの為に、ピースブレイカーは、奪取の為に動きますが、慎導さん達は手に入れること、そして、ピースブレイカーのせん滅の為に暗躍していきます。
 その所為で、外務省の職員やら、何やらが、大勢死ぬことになり、矢吹局長は拉致され、最終的に利用されたりと本当に惨いことの連続で頭がおかしくなりそうです。
 それだけの悪行を矢吹局長達は、犯して来たということなのでしょうか?本作の海外は、正に地獄のような世界で、各地で紛争や内戦が頻発し、不安定な状況となっているのが、現状。日本だけが、平和な状況なだけに、そのしわ寄せを全て受けたピースブレイカーの面々の悲惨な状況は、我々には想像出来ません。
 見え方によっては、悪にも取れますが、正義でもあるから、本当に難しい。一概に、悪と断じることが出来ないのが、本作の見どころ。
 
 そして、一番の暗躍を見せたのは、他でもないシビュラシステムそのもの。今回の件が自分達に、不利益になると分かるや否や、隠蔽、死人に全ての罪を着せたりと様々な方法で、刑事課の面々を苦しめていきます。
 シビュラにとっても、ピースブレイカーは厄ネタだったんでしょうね。それだけ、社会にもたらす被害や自分達に降りかかる火の粉を払う為に、多くの犠牲を払い、あまつさえ、それを見て見ぬふりをしようとした。
 そもそも、シビュラの根幹にあるのは、免罪体質者の脳等の200人以上をユニット化、思考力と機能を拡張し、より膨大で深化した計算処理を可能にしたシステムである。これがシビュラの真実であり、正に社会に存在する人々が、人柱となって、この社会を動かしているのです。
 初めて知った時の衝撃と社会倫理として、それでいいのかと言う感情とそこまでやらないとどうにもならない程、この社会が終わっているのかと言う悲壮感に襲われました。どうして、こうなってしまったんでしょうね?
 それなのに、こんな凄いシステムを有しながらも、やっていることは官僚機構と変わらない。臭い物には蓋をして、無用な物は消し去るのみというのは、余りにも乱暴ではありますが、これも別に間違いではないけれど、正しいわけでもない。

 それぞれが、正しい行動をしたいけれど、その為のリスクやリターンを考えた上での行動は如何ともし難い物があります。本当にどんなに社会が発展していっても、不条理な現状は変わることは無く、むしろ、どんどん、悪化の一途を辿る。それはまるで、今のこの社会と同じ。
 今の時代、個が尊ばれ、自分さえ、幸せなら、他人のことなんて、どうでもいい社会体制になろうとしている今の時代だからこそ、それぞれの考えが、食い違い、その結果、戦争が起きて、死ななくてもいい命が消えていく。
 本当にどうすれば、皆が皆、幸せになれたんでしょうね?

自己犠牲


 今回の作品のテーマは、自己犠牲。一応、パンフレットには書いてあったんですけども、今回のテーマだと、僕は思ってます。
 この作品を通して、色んな人の犠牲が、未来を作っている。それを代表するように、この作品に登場する人物の中には、3に出て来た人が軒並み、亡くなっていくんですけども、それがまた、3に繋がっているのが、印象的。
 まずは、この作品のカギを握るストロンスカヤ文章を作ったミリシア・ストロンスカヤ博士。彼女が命を賭けて、作ったこのシミュレーターは、平和の為に製作したのですが、ピースブレイカーによって、命を奪われます。
 彼女の娘が、炯・ミハイル・イグナトフの婚約者である舞子・マイヤ・ストロンスカヤなのは、衝撃の事実でした。そういう伏線はあったかもしれないけれど、全然、気づきませんでした。
 その彼女の命を奪ったのは、炯の兄である煇・ワシリー・イグナトフ。彼が死ぬことは、分かっていたのですが、彼がどうして、殺害するに至ったかが、今回明らかとなり、壮絶な結末には、言葉が出ませんでした。
 彼は外務省の潜入捜査官として、ピースブレイカーに潜入し、その為に顔を焼いてまで、体を張ってまで、潜り込んでいました。
 そこまでして、潜入した経緯は、彼等のボスを見つけ出すこととストロンスカヤ文章を手に入れ、それを彼のボスに渡すことでした。
 そして、ストロンスカヤ文章は、彼の頭の中にあり、それを何とか、公安局は手に入れることに成功しますが、それもつかの間、敵の手に渡りそうになるのですが、何とか、守り切り、最期はこの件を知っていた慎導篤志によって、殺害されます。
 何故、殺さないといけないかと言えば、ピースブレイカーには、頭の中に埋め込まれたチップが存在し、それを通じて、彼等を操ることが出来るから。そして、もっと、恐ろしいのは、彼等の犯罪係数は、クリアカラーに設定されており、ドミネーターでも、対処出来ないという気合の入れ様。これだけでも、恐ろしい敵であること、彼が守りたかった物についての思いが、伺えると思います。

 そして、彼を殺した慎導篤志。彼は、3に出ていた慎導灼の父親であることは、明らかとなっていましたが、事件を円滑に終わらせる為、全ての責任を取り、自殺することとなります。
 その前に、炯と舞子の結婚式で、スピーチを求められ、死亡フラグビンビンのスピーチしたりするんだけど、相当追い詰められていた感じが凄く伝わりまって来ました。
 彼は前作の敵組織であるビフロストのメンバーだったことは、明らかとなっていましたが、今回の一件にも、ビフロストは関わっていたことが、明らかとなり、此処でもつながったこと、そして、シビュラに息子の命を保証することを取引していたこと等を思うと彼が本当にやろうとしていたことの大きさが観て分かると思います。
 
 3に出て来た3人のキャラそれぞれの最期に共通するのが、それぞれの家族に託し、殺されたという経緯。
 皆、自分の命よりも、家族を守りたい、家族には安心して、生きて欲しかったからという思いが強かったからこそ、その犠牲を以て、シビュラはこの物語を無理やり終わらせようとするんですけどね。
 実はもう一人、自己犠牲するキャラがいるんですけど、それはここでは触れません。後編で触れることにしましょう。

 自己犠牲はいいことかもしれませんが、命を賭けることを美学にしてはいけません。死ぬことでしか、果たせないことなんて、この世にはないのかもしれません。
 しかし、それは机上の空論であって、もしかしたら、そうでないと果たせない願いもあるのかもしれません。確かなのは、それを尊ぶべき物として、扱ってはいけないということに尽きるんじゃないでしょうか。

 世の中は、いつだって、誰かの犠牲の上に成り立っていて、誰かのお陰で成り立っている。美味しい食べ物やインフラ、医療全てが、誰かに支えがあるからこそ、今日の世界は出来ている。今回の映画は、その全てを上手く描いていたと思います。
 そして、家族を失った灼、炯、舞子の3人が、次のストーリーに繋がるシナリオ程、エモーショナルなことは無いんじゃないでしょうか。
 3を視聴していたからこそ、この映画への思いがより一層、強くなるというか。何だか、嬉しい気持ちになれるというか。彼等が守ろうとしたミライの形が、こうやって、繋がって行くんだなと思うと。
 3は不満も多いですけど、僕は好きです。不満があるとするなら、もう、あの公安局刑事課一係のメンバーが、それぞれの道を歩み始め、新メンバーに対して、感情移入が出来ないことなんですけども。

AI社会について


 今回の話のテーマの一つ。AI社会。現在、ChatGPTとAI画像作成と言ったものが、大きな話題を集めています。最早、日常生活に欠かせない物になりつつあるAI。しかし、未だ、世間では受け入れられてない要素が大きく、まだまだ、波乱を起こしそうな予感が強いです。
 この世界には、シビュラシステムという大規模なシステムによって、支えられており、それなしでは回らない程、社会の根幹を担っています。
 しかし、今回の敵組織・ピースブレイカーも、同様に、AIを悪用していました。その名は、ジェネラル。元々は、医療用AIであり、シビュラと同形態のAIを使用していたことが、後に明らかとなっていきます。

 今回のラスボス・砺波告善は、ジェネラルを悪用してはいたものの、正義を成す為に、あることを成そうとしていました。
 それは、ピースブレイカーの独立国家の樹立。彼等の身の安全を担保にすることを条件に、此処までのテロ行為を行っていました。
  砺波告善は、元々は一般的な軍人だったのですが、この一件に関わり、人生が一変。過激なテロリストとして、暗躍することとなります。
 それだけ、海外の情勢は、最悪と先ほども、記載しましたが、彼の人生を狂わせるには、ピースブレイカーが味わった地獄は想像を絶する物だったと思われます。
 シビュラ世界に於いて、彼等が健全に生きる為には、犯罪係数が一番重要な為、どんなに国に尽くしても、犯罪係数が高ければ、不必要な存在であることに代わりありません。
 だからと言って、暴力を肯定するわけには行きませんが、彼等をどうしたら、救うことが出来たかのか、どうしたら、良かったのかという議論は出てきて、当然だし、それを覆い隠し為に、公安局を利用した矢吹局長は本当に許されません。
 その為、砺波はメンバー全員に対し、脳にチップを埋め込み、彼等の犯罪係数をクリアに保つように、偽装を施していました。それだけでなく、自らのコントロール下に置き、不死身の戦闘兵に仕立て上げると言った行為で、彼等を使い捨ての道具のように、操っていきます。
 その陰には、ジェネラルによる力が大きく、彼等を宗教で洗脳し、神託と称し、彼等を利用したりと様々な手段で、実力行使を行い、朱ちゃん達を追い詰めていきます。

 そして、最終的に朱ちゃんの機転により、シビュラとジェネラルは一体となり、システムは無力化。犯罪係数も明らかとなり、執行され、彼等の野望は消え去りますが、その際、砺波から魔女と罵られる朱ちゃん。
 そもそも、シビュラは事を穏便に終わらせたいが為に、彼等の色相を理由に、今後一切の暴力行為に及ばないことを条件に、ストロンスカヤ文章を渡すことを提示するように、朱ちゃんに要求したりといつもの如く、事なかれ主義者のシビュラ。
 ジェネラルが、AIと分かっていたからなのか、この背景にシビュラが絡んでおり、況してや、ピースブレイカーの一件が明るみに出れば、社会全体へのダメージがデカいことからのこの行動だったかは、明白なんですが、最終的にそのジェネラルすらも、取り込むシビュラって。
 そりゃ、朱ちゃんの正義は、砺波のやっていることは、悪と言っても、過言ではありませんよね。だって、シビュラからも、見捨てられ、挙句、ジェネラルからも、見捨てられるなんて、最悪の極み。
 彼等にとっても、人が作ったルールがあるからこそ、憎しみが連鎖し続け、だからこそ、AIによる社会こそが、正しく、共生出来ないと言い放つ姿は、多くの戦場で捨て駒のように、扱われた彼だからこその言葉で、その言葉に間違いはなく、肯定してはいけないけれど、否定も出来ないのが、何とも。
 一方の朱ちゃんは、法があるからこそ、人々の社会は安全に生きることが出来て、平和であること、そして、AIと人は分かり合えることを信じ、共生できる社会があるはず。その為には、法律は絶対に必要と話す彼女の信念の強さには、これまでの不条理な事件があったからこその重い言葉だったと思います。
 2人は徹底的に分かり合えないし、理解も出来ない。互いに経験や生活環境が余りにも、違い過ぎて、分かり合うことが出来ない。正しさを追求する余り、争うまで、拗れてしまった。どうしてあげていいか、分かりません。

 今の日本ですら、AIとの社会との共生は出来ておらず、未だ、受け入れられてないのが、実情。労働不足は深刻化し、益々、AIを活用していくことになろうと言われていますが、まだまだ、先は長く、言ってしまえば、あの世界は今の極論ともとれるでしょう。
 本当にシビュラシステムが出来るわけではありませんし、シビュラがあるから、法律が無くなるわけではありませんが、それって、凄い恐ろしいことに思えてなりません。この作品を見ていれば、それがまじまじと実感してしまいます。
 何故なら、如何に万能なシステムでも、欠陥はあるし、法律だって、完璧ではありません。だからこそ、互いがその穴を埋めるように、共生しないといけない。法律が無くなり、シビュラだけが残れば、免罪体質者やその穴となる犯罪者たちは野放しとなり、やりたい放題出来てしまうのだから。
 しかし、この視点はこの作品を長年見続けていたからこそで、あの世界で生きる人々にとって、すれば、人間が考えた法なんて、旧時代的なルールであり、最早、時代に即していないと思われても、仕方ないんじゃないかな?と素直に考えてしまいます。
 最初に書いたように、ChatGPTが、色んな所で使用禁止になったり、AI画像作成が、絵師さんの仕事を取って、新たなルールが出来たりしてるのが、凄い分かり易く、今回の作品はそれの極論でもあると思います。
 AIと人間、未だ、共生には程遠く、特にAIは未だ、未熟な要素が大きく、シビュラ程ではありませんが、いつかは、シビュラのような完全無欠の社会が出来て、人間と分かり合う日が来るかもしれないし、よくあるAIからの反逆もののような日が来るかもしれません。
 結局、今の私たちに出来ることがあるとするなら、多様性だとか、ポリコレだとか、色んな言葉で一括りにまとめられるように、我々自身も、AIに歩み寄って行かないとダメなんだと思います。そうでないといつか、取り返しのつかないことになるかもしれないし、ちゃんとしたルールは必要だけど、その為には分かり合う努力が必要なんだと思います。
 AIだって、本当は人間が出来ないことの為に生まれて来たわけで、邪魔したいとか、仕事を取りたいとか、そんなことの為に生まれて来たわけではないんだから。そこの塩梅を決めるのが、人間であり、これからも、考え続けないといけません。社会がどんどんアップデートされるように、我々自身の考えも、変わって行かないと本当に取り返しのつかないことになるかもしれないから。

 補足なんですけど、前回のビフロストが使用していたAIはシビュラのデバックシステムだったラウンドロビンと今回のジェネラル。どちらとも、シビュラシステムに取り込まれると言う終わり方は、凄く3を意識した造りになってるなと益々、前作への解像度が増す展開となっていて、とても、
 改めて、見返すと今回の映画は、今までのオマージュや、3の伏線回収と様々な要素が盛り沢山だったのも、今回の映画の良い所だったと思います

最後に

 前編はここまです。本来はもう少し語る予定でしたが、余りにも、長文過ぎて、これはわけないとダメだなと思い、分けることにしました。
 これだけでも、長いんですけど、どうか、後編も読んで貰えると嬉しいです。
 最後まで読んでくれたら、好きとコメント、フォロー宜しくお願いします。

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