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【夜明けを待つ】劇団ノーミーツ「夜が明ける」を観ました

これは、すごい。またすごいものを観てしまった。
劇団ノーミーツの作品を観たのはこれで二度目だ。"むこうのくに"のときも思っていたが、この方々、いよいよすごすぎる。

0時から5時までの生配信、いつもなら起きてられてしまうのだけれど、自分のことを考えているうちにいつの間にか眠っていた。どんなふうに夜が明けたのか、この物語の結末を見ることはできなかったが、私の夜明けと途中までの感想を綴りたいと思う。


0時過ぎ、1人の男が焚き火を始める

おそらく主人公と思われる男が登場した。場所は海辺だろうか、真っ暗な中で波の音が少し聞こえる。

丁寧に薪を並べ、火をつけてゆく。

10分くらい経ったころ、そこにもう1人の男がやってきて、主人公に話しかけた。

『ここで何を?』
「待ってます。夜が明けるのを、待ってるんです」

主人公とその男はどうやら初対面のようで、他愛もない会話だけが続く。2人で焚き火を囲みながら、昔の話をしたり、穏やかな時間が過ぎていった。

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0時50分ごろ、男の雰囲気が少し変わったように思えた。

それはまるで何かを告白するようで、私は咄嗟に手元にあったノートとシャーペンをとった。

『はりきって会社を変えようとしたけど、必要とされてなかった』
『だからもう、待ちの姿勢で』
『やるせない』

それまではひょうきんな雰囲気を纏っていたが、思えばずっと、『待つしかないよね』と男は繰り返していた。

夜が明けるのを待つしかない、というのはどういう意味だろうか。
それはきっと、単に朝が来るのを待っているわけではない。

この辺りから、物語が示そうとするメッセージがだんだんと露わになってくる。


1時15分、また1人の女がやってくる

1時過ぎに男は立ち去り、主人公はひとりで焚き火を続けていた。
そこにまた1人の女がやってくる。

『何してるんですか?』
「待ってます。夜が明けるのを」

女はスケッチブックを持っていた。ギャラリーで働いているのだという彼女の話を、少し興味深そうに聞く主人公。

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もう連絡は取れなくなっちゃったけど、昔仲が良かった友だちがいて。
その子も絵描きなんです。
ちょうどこんな風に水辺で、喋りながら一緒に絵を描いてたなぁ。
その子の真剣さや、もちろん絵のうまさもそうですけど、そういうの見てたら『私は画家にはなれない』って思いましたね。
だけどやっぱり絵が好きで、近くで絵描きを応援したい気持ちから、ギャラリーで働くことにしたんです。

彼女の真剣な想いに触れ、私も主人公のようにぐっと耳を傾ける。
だけど今、この一年を通してギャラリーを開くことなんてできなくなってしまった。

主人公は問う。「じゃあ今、どうしてるんですか?」

『仕事がなくなっちゃいました』
『だけど他にどうしようもないから、結果として、待ってる。我慢してる。耐えてる。耐える以外の方法がないんです。こんなことで、やめるわけにはいきませんから』

結果として、待ってる。

この言葉は私の中で強く印象に残った。待つしかないし、かといってやめるわけにもいかない。長い夜も、待てばいつかは明けるはずなのだ。


2時5分、誰も居ない火に男が近づく

女が去った後、主人公も焚き火から離れた。誰も居なくなった火のそばに、また知らない男が1人近づいてくる。ここでは、男2と呼ぶことにする。

主人公が戻ってきて、男2は言った。

『ここで何されてるんですか?』
「待ってます」
『それは何を待ってるか聞いてもいい系?』
「夜が明けるのを、待ってます」

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『僕は早々にやめてしまいましたね、待つのを』
いつかわからない待ちがめちゃくちゃ不安で
『この一年、ずっとソワソワしてました』

さっきの女とは対照的なことを言っていて、これもまた印象に残った。

この一年間、確かに私たちは待ち続けている。
もう少しすればきっと、待てばきっと、そんな風に思い続けるのも限界だった。じゃあいつまで待てばいいの?

男2は続ける。

『すごく落ち込んだんです』
『自分のことでいっぱいで。いつかの世界のことより、明日の自分のことを考えてしまう
『そんな不安から、落ち込んでしまいました』

いつ元通りになるかわからない世界のことを考える余裕なんて、もうとうになくなっていた。新しいスタンダードに追いつくのが精一杯で、一日一日を上手にこなすことすら難しい。

ゴールが見えないもの、それは途方もなく不安だ。手を伸ばしても届かない、深さすらわからないのに、ただただ待つ。

私なら、何を想うだろう?「夜が明ける」まで、待つ?
もし、私がこの海辺で火を見つけたら、何を話すだろう?

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私のメモはここで終わっている。





深夜、私はあてもなく海辺を歩いていた。

5月でも夜の海はまだまだ肌寒く、ジャケットを着てきて良かったと思う。すぐそばまで波が寄せてきて、潮のにおいがする風を耳たぶで感じた。

こんな時間に、人がいる。
焚き火をしているのだろうか?そこだけがぼうっと赤く光っていた。

『あの、ここで何をしてるんですか...?』
「待ってます」
『誰か人を?』
いえ、夜が明けるのを

普段なら、このまま話そうだなんて思わないだろう。
だけど夜のせいなのか、海のせいなのか、私は火のそばに腰掛けていた。

『私も、夜が明けるのを待ってるんです』

本当は、夜が明けるまで待つ気などなかった。時間が経てば勝手にやってくる夜明けを、わざわざ待つ必要などなかったからだ。

気を許したようにぽろぽろと、私の口から言葉が溢れる。

この一年、本当に待ちが長かったですよね。
実は、私にとっては良かった面も少なくなくて。
なくなくて、ってややこしいですね。すみません。

私自身の停滞は、この一年よりもう少し前から起きていました。
何もうまくいかなくて、全てやめてしまったんです。
自ら、待つことを選んだんです。

そしたら、本当に待たざるを得なくなった。私以外も、みんな、待ち。

私だけが待ちを選んだから、すごく責められたというか。
時間の流れに押しつぶされそうになりました。
だけど今じゃ、みんな待ってるじゃないですか。
だから、私だけじゃないって思えただけで私にとっては良かったんです。

待ちが長いなぁとは、そろそろ思ってきてますよ、そりゃ。
待ったことで私に少しずつ余裕が出てきて周りを見てみたら、みんな意外と苦しんでいて。
待ちたくなかった人の方が多かったんでしょうね。
予想外のことに、みんな焦っている。仕方がないことです。

待ちたくない人に私もどんどんなってきて、遅ればせながら、焦っています。もし、あと何年も夜が明けなかったらどうしよう、とか。
明日って当たり前じゃないですし。

明日は勝手にくるもんだと思ってました。
意外と、そういうわけでもなさそうだなぁと、最近は思ってます。

いつ、夜が明けるんでしょうか。

彼は黙って話を聞いてくれた。
こんな風に、知らない人と話すのもいつぶりだろうかと思う。

いつ夜が明けるかわからないのはみんな同じだ。だけど彼は、夜が明けるまで待つことを選んだ。火を見守りながら、ずっと日登るまで待ち続ける。

私も、こうして待ち続けるしかない。自ら待ちを選んだのなら、世界のせいにせずに待てるなら、まだマシだ。

そう、言い聞かせてみようか。





割と、衝撃的なものを観たような気がする。

この作品に衝撃的なんて激しい言葉は似合わないが、印象に残ったという意味では衝撃的だった。

まず、開始10分誰も登場せず、真っ暗で音もなかった。もしかしたらこれはトラブルだったのかもしれないが、生配信で海辺を選んでいるという情報だけはその10分間でひしひしと伝わってきていて、今までにない凄みをすでに感じていた。

私が観れたのは2時30分までなので、ちょうど折り返し地点になる。
どこまでがアドリブなのかわからないほど自然で、初めの方はただ焚き火を見るだけの配信なのかと思うほどゆったりと時が過ぎた。

1人目の男が登場して、きっとこうして順に誰かが登場して主人公と会話していくのだろうと想像がつく。しかしその内容も初対面どうしの雑談のようで、どう物語として展開していくのか全くわからなかった。

0時50分ごろからの一変した空気に、身体をぐっと引き寄せられた。

これはただの配信ではなく、演劇なのだと私を意識させる。
「夜が明ける」ことと、今のご時世を重ねたものなのだと気づいてからは、一気にメモを取るべきものに思えてきて、結局見開きいっぱいになるくらいに字を書いていた。

私が見届けた3人はそれぞれ違う想いを抱えていたが、共通して今の状況をどうにか打破したい・つらいという気持ちも持っていた。
主人公だけがひたすらに「夜が明けるまで待つ」と決意していて、それに導かれるように正直な想いを話していく。

みんなそれぞれ、つらいのだ。
楽しそうに見えても、それなりに、しんどいのだ。

やはり、待つしかないのだと思う。「できることしかできない」なら、今できることは待つことなのだろう。

待つことを決意した主人公にハッとさせられたのなら、私たちも待ってみるしかない。火を守りながら、ひたすら待つ。火を守ることすらやめてしまっては、元に戻った時にうまく火を使えなくなってしまうのだ。

今はこうしていよう、そういうメッセージがこめられた一作だったように思う。それに、私たちはひとりじゃないということも。


おわり


あとがき
「むこうのくに」で出会った劇団ノーミーツ。本当にすごい方々です。
なんの経歴も実力もないのに、どうしても気になって学生オンライン演劇祭の裏方スタッフに応募だけさせていただきました。(笑)
最後まで観れなかったのが残念でしたが、とても素敵な作品でした。
劇団ノーミーツのみなさま、本当にお疲れ様でした!大切なことに気づかせてくれてありがとうございます!




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