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【育児】枕と化した私

生まれた頃の娘は寝返りを打てないので眠る時に動くことはさほどなかったが、いまではつたい歩きができるので非常によく動くようになった。毎度素晴らしい寝相で感心するものである。

この間娘が体調を崩し、鼻が詰まって眠るのに苦労していたことがあった。
呼吸のしやすい姿勢を探してか、何度も頭の位置をずらすのだが、偶然横になっていた私の胸の辺りに頭をことんと落としたことがあった。

それきり胸、脇腹、肩、太ももなど私の体の至る所に頭を落として娘はその寝心地を確かめていた。時折私の下腹部にも頭を落とすことがあり「ドラゴンボールの悟空がやってたキン●マクラってめちゃくちゃ痛いじゃん」などと鳥山先生を悼みつつ陳腐な感想を抱いた。
もっとも、私の立場からすると体の至る所に対して娘から頭突きされている状況なのだが、娘が眠るためであれば多少の頭突きも致し方ない。声を上げずに娘の枕と化した私は、親特有の海のようなおおらかさで娘の様子を眺めていた。

そんなこんなで数分すると、娘は太もものあたりで眠り始めた。背中をさすりながら娘を寝かしつけていたとき、わたしは「これしばらく動けなくなるのでは」ということに気づいた。
そして自分自身が歯磨きをしていないことにも気づいてしまった。将来「おとうさんのくちがくさい」などと言われないためにも、何としてでも歯磨きをしてから眠らねばならない。

しかし体調の悪い娘は幾分熱が高く、わたしからするととにかくあったかいのである。夜9時、ぽかぽかとした太ももから全身にぬくもりが広がる。寒い冬の時期にはこれほど素晴らしい暖の取り方もあるまいと思うわけだが、それだけに絶えず眠気が私に襲いくる。
太ももで寝息を立て始めた娘を起こさずに娘の頭を布団に着陸させるのはこの道ウン十年の凄腕パイロットでも不可能な芸当であり、私は娘が自発的に頭を退かすのを待つほかない。
ひとえに私が歯磨きをできるかどうかは私の意思の強さにかかっている。眠らぬようにーーと強い意志を抱いたわたしは、まもなく現実ではなく夢の世界に誘われたのであった。

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