松下幸之助と『経営の技法』#5

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.2/20の金言
 いちばん大きな悩みだけしか悩まない。それが人間の心の自然な働きである。

2.2/20の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 複数の悩み事があっても、人間は一番大きな悩みだけしか悩まないことになっている。それで後の悩みが解消されるわけではないが、そのことで人間は何とかやっていける。生きていく道が生まれてくる。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 誤解していけない点は、一つのリスクに対応すれば良い、というわけではありません。松下幸之助氏は、一つだけしか悩まなくても、他の悩みが解消されるわけではない、と言及しています。
 ここでの氏の言葉は、悩みが多くても、人間、簡単には死なない、という励ましの言葉ととるのが素直でしょう。経営者は常に多くの悩みを抱えるものである、ということに対する理解と、けれども精神的にそれを乗り越えることができる、頑張れ、そういう意味と考えられるのです。
 これを、内部統制の観点から考えてみましょう。
 一つ目の評価は、複数の悩みを、組織として分担して処理し、解消していく、という体制づくりが重要である、という評価が可能です。経営は、そのうち最も重要な問題に専念し、その他の問題は、会社の各現場が処理していく、という組織作りです。
 二つ目の評価は、これと両立する話ですが、リスク対策に優先順位を付けよう、という評価が可能です。全てのリスクに同時に立ち向かおうとするのではなく、会社の持つ体力を考慮して、順々に潰していくことが重要、すなわち、全てのリスクに手を出して、そのため全てが中途半端になるようにしない、という戦略です。己の器を知り、一つだけ悩んでいる限り自分は潰れない、という自信があれば、それに基づいて一つずつ問題を潰していけばよいのです。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 さらに、ガバナンス上のコントロールとして、株主による「適切な」コントロールも期待されるべきです。
 すなわち、通常、ガバナンスと言えば株主やそれに代わる機関による厳しい突込みがイメージされますので、複数のリスクが有る場合、その全てについて迅速な対応をするようなプレッシャーを掛けることがイメージされます。
 しかし、ときにはその逆であり、会社の体力に合った現実的な対応プランができているのか、焦って全て中途半端にならないか、という観点からチェックする姿勢も重要です。何でもかんでも文句を言えばいい、というわけではない、という教訓です。状況に応じて、株主やこれに代わる機関も、チェックの在り方や視点を代えなければならないのです。

5.おわりに
 松下幸之助氏にこの話をすると、自分はそこまで言っていない、と言われそうです。
 けれども、永年の経営者としての蓄積に基づく発言であり、氏自身がそこまで意識していなくても、氏の発言の背景には経営者としての感覚があるはずです。経営者にこのように言わしめたのは、経営者を取り巻く人々との関係があってのことですから、その様々な人々を、ガバナンスと内部統制に整理して分析してみたのです。
 どう思いますか?


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