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松下幸之助と『経営の技法』#356

2/5 自分を点数で評定する

~これまでの成果と失敗を点数にしてみる。通算してプラスになっているかどうか。~

 いかなる聖人君子といえども、完全無欠な人間になるなどということは不可能だと思う。なぜなら神は、人間を人間としてつくったのであって、神のごとき完璧なものとして作っているとは思えないからである。だから、お互い人間として、1つのことに成功することもあろうし、時には過ちもあるだろう。それは人間としてやむをえないというか、いわば当たり前の姿だと思う。しかし、過ちと正しいことを通算して、正しいことのほうがプラスになるような働きなり生活をもたなければ、これは人間として決して望ましい姿とはいえないと思うのである。
 例えば、ある人はあることに非常にすぐれたものをもっている。しかもそれには生命を打ちこんで成果をあげている。それを今、仮に点数で表し、一方またその人が他の面で失敗したことも点数に表してみると、はたしてどうなるか。僕は、前者のほうが後者よりも点数が高いというか、プラスになっているということが少なくとも必要だと思う。それを自ら評定して、自分は大体何点くらいあるかということを、素直に考えてみることが大事である。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで最初に浮かんだイメージは、日本の終身雇用制度に関する労働法・労働経済学の観点からの分析です。
 どういうことかと言うと、終身雇用制度が日本の会社にピタリと嵌ったのは、若い時には、仕事で会社に貢献した金額よりも少ない給与等を受けるけれども、いずれ逆転し、会社に投資した分を長く勤務することで徐々に取り戻していく、つまり、長期的に、会社も従業員も収支バランスが取れている、という分析です。
 この、生涯をかけたバランスシートを考えると、若い従業員こそ、プラスの方を多くしてもらわなければなりませんので、松下幸之助氏がここでかけている言葉は、若い従業員が終身雇用のもとでのバランスシートを実現するように、という声がけになります。
 見方によっては、若い時にこのバランスシートを実現してくれなければ、将来、会社が自分を雇い続けてくれない(雇い続ける原資がない)という状況になることの、警告にもなります。つまり、長く働きたいなら、(単価の安い)若いうちにこそ、会社に貢献し、恩を売っておくのが良い、ということになります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 この観点から見ると、若い従業員に対する意味と違った意味が見えてきます。
 すなわち、投資家である株主に対し、解雇されずに経営者として雇い続けてもらうためには、ある程度早い段階から、「この人に経営を任せてよかった」と認識してもらわないといけません。特にアメリカでは、この期間が極めて短いために、例えば4半期ごとに利益を上げ、株主に配当しなければならない、というプレッシャーが、経営者にかかってきます。
 つまり、従業員のように一生涯をかけてバランスシートがバランスすればよい、というのではなく、勤務中は常にこのバランスを取り続けなければならない、という状況にあるのです。

3.おわりに
 失敗しないことではなく、失敗も含めてミスを取り戻すことの方が重要です。減点主義の弊害は、リスクを取らなくなるため、気がつけばバランスシート全体が小さくなってしまいます。けれども、ミスもするが成功もする、ということが重要です。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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