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ショートショート『マクア』

闇金融に手をだした俺が馬鹿だった。親会社の倒産のあおりをくって、俺の会社までがあぶなくなった。資金ぐりのため、あちこちの金融会社に手をだし、にっちもさっちもいかなくなった。

ふと電柱に貼られた金融会社の電話番号をみて連絡をとり、希望の融資をうけることができた。しかも、お金での返済ではなく、融資分だけの精神的苦痛という利子と元金を返す仕組みという契約だった。
 
毎晩の安酒で朦朧とし、現実と夢が交錯していたときだったから、夢の続きのような気分で契約を終え、手元のどっしりと重い札束に気づいてようやくと現実だと実感できた。

そのお金で運転資金はなんとかなったが、朝から寝ているときでさえ悪夢にうなされ、精神的な苦痛が絶えることがない。これならまえとかわりばえしない。契約してから一週間がたち、ようやく冷静になり、契約解除をしようと心に決めた。

『マクア』というクレジット会社。逆さに読めばアクマというまったくふざけた店名だ。
しかし、黒ずくめの受付の彼女はとても愛想がよかった。だがしかし、どこか淫靡な顔立ちだ。
 
氏名を告げ、契約書をみせると、
 「ご来店ありがとうございます。現在七十万ほどの返済がなされております」
 
と、受付の彼女が微笑みながらいった。
 
あれから一週間、一日の苦痛につき、利子と元金あわせて十万か。
 
「そうです。ご契約のときにもお話しましたが、おなじ苦しむのでしたら、現実の返済ができたほうがよろしいでしょう」
 
なんだと! 俺の心が筒抜けだ。こいつら、只者ではないな。いったい何物なのだ?
 
「私に、少々特殊な能力があるだけです。あなたにお渡しした札束には、倒産して、この世に恨みと執着を残した人たちの怨念がこめられていました。ご自身で亡くなられたことなどで得られた保険金などが、私どもの会社の資本金なのです。あなたが苦しむことによって亡くなられた方々が憂さをはらし、供養されるという仕組みでございます」
 

「あんたら、宗教組織かなにかか? それにだ、怨念だかなんだかが消えていくということが遺族にはわからないはずだ」

「家族の方々からは、気持ちが軽くなった。トラブルがなくなったとお聞きしております」
 
俺はしばし考えた。このままでは俺の精神がどうにかなってしまう。毎日十万ではなく、せめて一万くらいの長期返済ならば、かなり日々の精神的な苦痛が楽になるだろう。

「毎日の返済額が一万ですと、あなたの寿命が尽きてしまいますので、誰か親族の方に肩代わりしてもらえますか?」
 
「ええっ! そんなことはできないよ」
 
しかし、表情も変えずになんと冷酷なやつだろう。目の前の受付嬢が、俺の心を読んだかふてぶてしそうに笑った。
 
「あなたは前世からたくさんの悪業を重ねてきましたね。お金に換算して、約十億もの借金を持ち越して生まれています。たぶん、来世にまで持ち越すことになるでしょうね」
 
まったく情け容赦がないとはこいつのようなやつをいうのだろう。きっと人が苦しんでいるのが楽しくて仕方がないのにちがいない。しかし、このまま苦しみ続けるのは耐えられない。
 
「あまり苦しまずに、効率よく返済する方法はないものですかね?」
 
「ありますよ。人間だから転生をくりかえすのです。借金を踏み倒したいなら、私たち、魔族になるしか手立てがありませんね」

にやっと笑った受付嬢の口から、鋭く尖った牙が飛び出した。

               (fin)

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