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歴史映画レビュー 『提督の艦隊』~名作一歩手前の良作~ネタバレ有

評価 3.5点(5点中)


一言コメント:良くも悪くも良作


本題の前の小咄


2022年9月27日火曜日、安倍元総理の国葬が行われた。
「政治家として有能でない人物を国葬するのはどうなのか」
「このような人物のために税金が使われるのか」
そういった議論が連日Twitterを騒がせている。
私は国葬に対して賛成も反対もない。
ただ、国葬とは全く関係のない最寄りの駅で当日の13時になって国葬に反対するデモが行われていたのには流石に呆れた。
もう決まったことだから受け入れろという気持ちもある。
が、そもそも国葬に反対するのならば国葬の行われる土地に行ってデモをやればいい。
「わざわざこの地でやる必要はあるのか?」と疑念と不満を抱いてしょうがなかった。

本編


さて、今回から歴史映画レビューを始めていこうと思う。
歴史映画を見ると色々な感情が浮かび上がってしょうがないので、備忘録として書き留めておきたいからである。
更新頻度は週一、ニ……が理想的だ。

第一回目となる今回の題材は『提督の艦隊』である。


17世紀オランダに実際に存在した海軍の提督ミヒール・デ・ロイテルの話だ。
英国と戦い、勝利を重ねて英雄となるものの、嫉妬ゆえ戦死させられ、国葬される──名誉ある英雄の活躍とその末路を描いた英雄譚。

話の筋書きを書き出してみると、良く言えば王道、悪く言えばよくあるストーリーだ。ただそこに当時の政治の状況、迫力ある海戦のシーンが関わってきて上手いこと合わさっているので、凡作……とは言い難い。
ただ、「もう一度見たいような名作か」「人に勧めたいような名作か」と言われると首を縦に振れない。
凡作と名作の中間にある、名作一歩手前の良作なのである。
何がこの作品を名作から良作にしているのか。
この作品を凡作から良作にしている要素と一緒であると考えている。
そう、当時の政治の状況の描写と迫力ある海戦のシーンである。

当時の政治の描写の良いところ:公と私の対立


先程も話した通り、この作品はデ・ロイテルの英雄譚であり、第二次英蘭戦争、オランダ国内の状況を描いた作品である。
世界史の教科書に出てくる3代目オラニエ公ウィレム、後のウィリアム3世も出てくる。彼の話も合わさって面白くなっている点もある。

それを説明する前にこの作品の主人公についてもう少し細かく書く必要がある。
彼は戦争続きで半年間家を空けていたため、家族のために戦陣を退くことにした。
オランダ議会の一派である共和派から提督になることを頼まれても、家族と一緒にいたい想いがある彼は断る。
その後オランダの街が英国の攻撃を受け、妻に「国を守らなければ家族を守れない」と尻を叩かれる。
彼は覚悟を決め、提督になり、英国との戦争に勝利し続けて英雄となる。
次第にその活躍を妬まれ、総督ウィレムによってフランスと戦わされることとなる。
命令ではない。断ることもできる。
しかし、断っても英雄として妬まれ続け、政治闘争の末に消されるかもしれない。
だったら、と彼は選ぶのだ。
たとえ妻に「家族のことを考えろ」と反対されても覚悟するのだ。
心の中で激しい葛藤があっても決断するのだ。
国のために死ぬことを。
自分のホームである、海原の上、船の上で死ぬことを──。

「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」
平重盛は父に法皇を切れと命令された時、このような言葉を残した。
主君に忠実であろうとすれば親に背くことになる。
親に従おうと思えば主君に背くことになる。
この主人公もまた、このような公と私の対立を感じている。
家族を優先しようとすれば国のためにならない。
国を優先しようとすれば家族のためにならない。
実はこのような公と私の対立を感じているのは主人公だけでない。
主人公を死においやるウィレムもそうなのである。

ウィレムはオランダの名門オラニエ家に生まれた。
が、オラニエ家は議会では共和派より不利な立場に置かれている。
親族は国王になってるものもいる。
しかし、自分はオランダの名門の家の子止まりにすぎない。
国王になりたい。
その想いがふつふつとしていた。

だからウィレムは伯父であり英国王のチャールズ2世の姪メアリと結婚することを選んだ。(これのおかげもあり、後々英国王ウィリアム3世として即位する)

しかし、ウィレムには気がかりな点があった。
ウィレムには好きな男がいた。
2人でこっそり舞踏会ごっこをするほど睦まじい仲の。
メアリとの結婚式、その男もまた参加していた。
結婚式中の舞踏会でウィレムはメアリと舞う。
近くに愛する相手がいるにも関わらず。
愛する相手が自分を物欲しそうな目で見ているにも関わらず。
それに我慢できずウィレムは舞踏会から逃げ出してしまう──。

このようにウィレムの方もまた公と私の対立を抱えている。
そしてその舞踏会のシーンが主人公の最期の戦いと交互に、サブリミナルに描かれるのである。
本当にこのシーンは憎い。
もうそのシーンのためだけにこの映画撮ったんじゃないかってぐらい、そのシーンが好きだ。

このように当時の政治の状況の描写が上手いこと噛み合っている部分もある。
ただ、同時にそこがノイズになっているとも言える。

当時の政治の描写の悪いところ:この映画を煩雑とさせている


この映画の政治の状況の描写は豊富である。
英蘭戦争を描くだけでなく、オランダ国内の政治闘争、英国側の事情も書かれている。
ただ、オランダ国内の政治闘争が聞いただけでは分かりづらい。
どっちが共和派でオラニエ派なのか分かりづらいし、この映画、何故か説明が頭に入ってこないのである。

また、説明が不親切なところもある。
途中で英国が映され、国王チャールズ2世がフランスに支援を求むシーンがある。
その時にチャールズの傍にいた女性が「フランス王から十分にお礼をするようにと言われておりますので」(うろ覚え)と言って、チャールズの前で服を脱ぐシーンがある。

実はこの女性、ルイーズ・ケルアイユと言い、チャールズの愛人・ルイ14世の元からおくられたスパイである。
私はチャールズ2世推しのため、「チャールズの愛人でありフランスからの女スパイであるルイーズ・ケルアイユ」という情報を知っている。
でも、それは知っているから楽しめる台詞である。
この作品内ではルイーズの名前すら出てこない。
ルイーズがスパイであることすら明かされない。
この映画、なんかそういった不親切なところがあるせいか、難しく感じてしまう。

正直英国側の事情を描くのも正直不要なのではないかと感じてしまう。
たしかに伯父のチャールズ2世とウィレムの対談は壮観だ。
でも多分なくても話は進む。
先程のチャールズ2世がフランスから支援してもらうために手紙を送るシーンなどは正直不要であると思う。
「英国がフランスと組みました!」と知らされる話だけでいい。

多分英国を悪であり敵とするよりは、最終的に主人公を追いやるウィレムを敵役にして、オランダ国内で話を完結させていた方が複雑にならなくてすんだのではないか。

(でもそれだとチャールズ2世推しの私は観ることなかったんだよな……と思うとそれもまた複雑なのだが)

推しを拝むために観たのに推しがノイズになってる、この皮肉さよ

海戦描写の良いところ:迫力がある


この映画の海戦描写はとにかく迫力がある。
予算の都合上か、ところどころCGを使っているところもある、
が、上がる帆、飛び散る破片、大砲の音、剣での襲撃、とてもリアルである。
観ていて心躍るものがある。
船が好きな人、海戦が好きな人にはたまらないだろう。
だが、このシーンは同時にこの作品の悪点でもあると思う。

海戦描写の悪いところ:多すぎる


いや、当たり前だろ、海戦の映画なんだから。


そう思われるかもしれないが、この作品、なんか海戦のシーンが多いのである。私自身が船にも海戦にも興味ないからか、海戦のシーンの多さが目立つ。
最初は海戦のシーンを楽しめる。
滅多に観ないし新鮮だからかもしれない。
次第に「ああ、また海戦のシーンか」となってくる。
なんかこう、胸焼けがしてくるのである。
海戦が好きな人からしたら何度見ても面白いのかもしれないが、私はただのステュアート朝のオタクである。
慣れのせいで飽きてくるというか、退屈に感じてしまう。
しかしこれは私個人の感想かもしれないので、船とか海戦が好きなオタクに一度見せて反応を伺いたいと思う。
(多分「歴史描写要らない」「はよ船のシーン見せろ」と言うと思うが)

総評


全体としては凡作と名作の中間にある良作といった評価である。
凡作ではないのだけれど、名作にもなりきれていない。
当時の政治描写と海戦のシーンはこの作品を凡作から抜け出させており、
同時に名作と言い難い作品にもしている。
もう少しシンプルなつくりにすべきであったのではないか、と思う。

ちなみにこの作品のUK版のパッケージはチャールズ2世が飾っている。
もう一度言う。
悪役でもあり、ノイズでもあるチャールズ2世が飾っている。

なんでオランダ映画を英国王が飾るんだよ頭はどうなってるんだ頭は


お分かりいただけただろうか?

アンパンマンで例えるなら、ジャケットにアンパンマンよりデカデカとバイキンマンが載ってるようなものだ。
で、「バイキンマンが主役なんかな?」と思って観たら普通にアンパンマン主役というね。

詐欺にも程がある。

多分この映画がチャールズ2世出した理由、イギリスに売り出す事情もあったのだろうと思う。
イギリスにはチャールズ2世の方が馴染み深いから、そうすれば買ってくれるだろう、と。

でもこのジェケットは詐欺でしかないと思う。

というわけでまた次回。




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