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東京国立博物館特別展 『やまと絵 受け継がれる王朝の美』

 東京国立博物館(トーハク)で開催中の特別展『やまと絵 受け継がれる王朝の美』を見てきました。

 やまと絵は、ざっくりいえば日本の風物や人を日本の画法で描いた絵ということになるようです。
 もともと、古代日本では唐の律令制を取り入れた国家制度を目指していたこともあり、文化面でも漢詩や唐絵(中国の風物を描いた絵)が盛んでした。それに対して、日本の風物を描く絵や和歌が興ります。最初は唐絵の技法で日本の風物を描いていただけですが、次第にやまと絵独自の画法が生み出されました。

 つい最近まで、やまと絵だけでなく日本画全般に全く興味がなかったのですが、先日鑑賞したトーハクの常設展『近世のやまと絵 王朝美の伝統と継承』がとても興味深かったんですね。日本の古典や自然を題材にしているので、技法などはわからなくても、楽しく鑑賞することができました。
 それで、特別展にも行ってみようと思い立ったわけです。その時点ではやまと絵の定義さえよくわかっていなかったのですが、この特別展を見ることで、何となく全体像がつかめた気がします。といっても、系統立てて語るような知識はないので、個人的に気になった絵をいくつか取り上げてみます。

源氏物語絵巻 関屋・絵合

 名古屋の徳川美術館が所蔵する国宝だと知っていたので、とても楽しみにしていました。ところが、展示中の関屋・絵合の巻は保存状態が非常に悪く…。トーハクの常設展で関屋屏風を見たので、「この絵巻も、源氏が逢坂の関で空蝉たちと会う場面が描かれているのだろう」と見当がつきましたが、そうでなければ、何の絵かもわからなかったと思います(絵合の方は、字だけでした)。
 ネットで確認したところ、来週以降に展示される柏木等の巻はもっと保存状態が良さそうなので、この絵巻を見たい方は、来週以降をおすすめします。

現物はこれよりもっと見えづらい

信貴山縁起

 学校の教科書に載っていた絵巻です。今展示されているのは、飛倉の巻。信貴山で修行に励む僧が、神通力で長者の倉を信貴山まで飛ばす話が描かれています。飛ぶ倉を見て驚く人たちの姿が臨場感にあふれていました。芥川龍之介の『地獄変』は地獄をリアルに描くために、本物の地獄をこの目で見たいと願う絵師の話ですが、信貴山縁起を描いた絵師も、何らかの手段でモデルたちを驚かせ、その姿を描いたのではないかと想像しました。
 特別展では、この信貴山縁起以外にも、各地の寺院の成立事情を描いた絵や一遍や親鸞等有名な僧の生涯を描いた絵が多数展示されていました(直接的な仏教絵画はやまと絵には入らない)。字を読めない信徒たちは、それらの絵で寺院や宗派の尊さを学んだのでしょうか。
 信貴山縁起は、時期によって展示される巻が変わります。

驚く人々
長者の家に戻る米俵

 信貴山縁起の後は、地獄や事件、病人をリアルに描いた絵が続き、気分が落ち込みましたが、その後には可愛い動物たちの絵が…。

鳥獣戯画

 普段持ち歩いているエコバッグは、鳥獣戯画に上野のパンダが紛れ込んだイラストになっています。そのため、この絵巻にはとても親しみがあり、見るのを楽しみにしていました。
 展示されていたのは、有名なウサギとカエルの相撲部分前後。

ウサギの負け

 鳥獣戯画には、甲・乙・丙・丁の四巻があるそうです。甲巻は擬人化された動物たち、乙巻は擬人化されていない動物たち、丙巻は人間と動物たち、丁巻は人間だけを描いています。
 人間が登場する絵もあるんですね(ウィキには、鳥獣人物戯画という名前で載っていました)。
 鳥獣戯画も、期間によって展示される巻が変わります。甲巻は、10/22までです。

近衛兼経像

 今回の特別展には、教科書や歴史書でよく見かける肖像画も出展されています。後白河法皇、後鳥羽天皇、花園上皇、源頼朝など(頼朝の絵は、今では別人説が濃厚です)。ただし、今はどれも会期外でした。
 展示中の肖像画では、近衛兼経像が印象的でした。公家のイメージとは違うけれど、性格が伝わってくるような絵でした。兼経は鎌倉時代の公家で、太政大臣にまで進んでいます。六代将軍宗尊親王の正室である近衛宰子の父親としても有名です。
 宰子は将軍の妻なのに、僧侶と密通するんですね。それが原因で宗尊親王は将軍の位を追われるし、僧侶は絶食して死ぬし…。古い話ですが、大河ドラマの『北条時宗』で川原亜矢子さんが演じていた女性です。

近衛兼経像

平治物語絵巻 信西巻

 去年の国宝展で、トーハクが所蔵する『平治物語絵巻 六波羅御幸巻』を見ました。二条天皇が六波羅に脱出し、乱の潮目が変わる瞬間を描いた、歴史好きには見逃せない絵巻でした。
 今回は、六波羅御幸巻以外に、静嘉堂文庫美術館が所蔵する信西巻も展示されていました。信西(藤原通憲の出家後の名前)は当時のフィクサーであり、日本史上指折りの権謀術数の人です。平治の乱自体、信西を疎ましく思う人たちが立場を超えて結びついたという側面もある気がします。

隠れていた穴で自害した信西を外に引き出す場面

土蜘蛛草子

 源頼光といえば、酒呑童子(鬼のリーダー)との対決で有名ですが、土蜘蛛も退治したようです。この時期は、土蜘蛛以外の部分が展示されていましたが、気味の悪い妖怪たちが登場していて、なかなか不気味でした。
 他にも不気味な絵や怖い絵がいくつも展示されており、昔の人にもホラーテイストが人気だったのがわかりました。

土蜘蛛。ちょっとユーモラス。

百鬼夜行絵巻

 同じタイトルの絵巻は多いですが、特別展には、土佐光信が描いたと伝わる絵巻が展示されていました。家で使う道具たちが百年経つと妖怪になるという…。

妖怪に変化した傘や木槌

 他にも気になる絵がたくさんあったので、図録を購入しました。美術展で図録を買うのは初めて。家の収納スペースがないので、紙の本を買うのも十年ぶりぐらいです。…というように、非常におすすめの展覧会です。会期は12/3(日)まで。途中で3回展示替えがあります。土日は事前予約制です。

クリアファイル、絵葉書、風月堂のゴーフル。かわいいグッズが多数あり。ぬいぐるみが大人気でした。


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