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マーガレット・アトウッド『侍女の物語』


 若い頃、今のアメリカをよく知らなかった。特に、アメリカの翳の部分は。
 アメリカの問題といえば、ベトナム戦争とその後遺症ぐらいしか思い浮かばなかった。この問題は高校の授業でオリバー・ストーン監督の『プラトーン』を観たりしたので、何となく理解していた。

 アメリカの今を知らない私は、マーガレット・アトウッドの小説『侍女の物語』を現実とは切り離して読んだ。『1984』と並ぶディストピア小説の傑作だと思ったが、オーウェルの話とは違い、モデルとなる現実はない小説なのだと考えていた。

 キリスト教福音派について初めて耳にしたのはいつだったか。私が初めて『侍女の物語』を読んだのは2001年だ(早川epi文庫に入った時)。当時大統領だったブッシュ氏は福音派の支持を受けていたのだが、私はそれを知らない。
 聖書の文章を文字通りに解釈して、純潔を何より尊んだり、レイプや近親相姦によるものであっても中絶を否定したりする人たちがアメリカにいるのを知ったのは、多分2000年代の後半だ。
 彼らについての記事を読んで、『侍女の物語』が現実に根付いた、または現実を予言した小説なのだと理解した。
 ディストピアはすぐそこにあったのだ。

     *

 その数年後、『侍女の物語』がドラマ化されると知った。主演は、エリザベス・モス。私の大好きなドラマ『マッドメン』で重要人物を演じた女優さんだ。絶対観ようと思いつつ、いまだに観ていないのは、映像サブスクを制限しているせいだ(TSUTAYAの見放題に入っていた時に、映画廃人になってしまった過去あり)。

 それでも、ドラマ化された『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』が予想を超えるヒット作になったのは知っている。ちょうどMeToo運動が盛んだった時期なので、女性の尊厳を問うこの物語は「私たちの物語」として受け入れられたのかもしれない。

 作者であるマーガレット・アトウッドも、その動きにこたえた。第一作から三十年後に続編『誓願』を著したのだ。
 この続編は正編とは違い、希望に満ちた作品になっている。立場が違っても、人はつながれることを書いた作品であり、シスターフッド(女性同士の連帯)の物語でもある。

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 『侍女の物語』は、私にとって最愛海外文学10選に入る大切な小説です。


 そんな大好きな小説のドラマ版を常々リスペクトしている青豆ノノさんがお好きだと知って、小説の紹介記事を書きました。


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