結婚モラトリアム

今週の土日、趣味のミュージカル関連の友人と会ってきた。もう付き合いも長く、ざっと出会ったころから10年。一緒に観劇したり、旅行に行ったりするかけがえのない友人だ。今年の冬に婚約し、来年のどこかで結婚式を挙げるといっていた。

結婚は絶対するべきとかそういう思想もないし、出来る人はしたらいいし、私は出来ないと中学生のころからずっと公言している。だから、友人も壁打ちのような感覚で話すようで、相手にも女子会の輪でも聞けない隠れたところの本音がむき出しになるような感じがして私はとても楽しい。

こと恋愛中よりも婚約から挙式・同居までの制約的独身モラトリアムを過ごしている人の葛藤はとても興味深い。「めちゃくちゃ嫌い」という言葉の実に相手を受け入れようとする感情の起伏が現れたり、何気ない愚痴にも「女の子」としての正解を教えてくれるので、楽しい。そして、話す顔が生き生きとしていて美しい。

「モラトリアム」という言葉と概念を私に植え付けたのは、多分椎名林檎だ。私はどうしたってその性の衝動が分からなかったし、今も理解できないところはあるけど、言葉にあふれる生死の感覚はみずみずしくてグロテスクで時々たまらなく欲しくなる。

赤と黒と白の椎名林檎の世界と私の友人の世界は多分決して交わらないし、そんなアーティストがいることも下手したら知らないかもしれない。

同居のための準備で実家に帰った彼女は、ちょっとだけ外見が田舎の空白の風景に染まっていた。その代わり内面に衝動をぶつけるように、赤い軽自動車を一括キャッシュで購入したらしく、彼女らしからぬ色のセレクトと大胆さに人の抑圧されたエネルギーみたいなものを感じた。

真摯に語る彼女のまなざしに椎名林檎イズムをみた。

結婚式には何人人を呼んで、ホテルで式を挙げたくて、こういうドレスが着たくてというプランは聞いているだけで目まぐるしい。彼にはまだプレゼンしていないそうだけど、決めることがこんなにも山ほどあるなんて大変だろうなとまず思った。

私の学生時代の友人たちは結構式を挙げない人も多くて、結婚式というものにかける時間やコスト、感情が全然よく分からなかったので、彼女のような趣味のつながりで出来た世間の波に合わせたいかつ合わせることの出来る人の話はめちゃくちゃ貴重だ。

「彼が誕生日プレゼントを要求してくる」の話は中でも面白く、誕生日プレゼントを全然渡していなかったらねだられた。趣味が合いそうにないから、身に付けるものをあれこれ見るけど面倒だという話だった。

高めのお酒を探しに行って一緒に飲めば、形にも残らないから後から使わないとかならないし、時間の共有と思い出の共有としていいんじゃないかという私の初心者的な?意見に対し、「それも考えたけど、そんなの彼女がすることじゃない」と教えてくれた。友人が学んだ女子会理論だとアクセサリーや服など身に付けるものを選んで、彼氏が外で彼女に貰ったと自慢できるようなものじゃなきゃ正解じゃないそうなんだ。なるほど。

ちなみに彼氏のおねだりはリュックかサンダルだそうで、その時点で全然「人に自慢する」シチュエーションが想定できないのだけれど、それについてはスルーしておいた。

サンダルってめちゃくちゃ生活用品じゃないか?誰も見ないと思う。しかも夏限定の季節品。まあ多分彼氏側の答えとしては彼女が選んでくれたものを身に付けていたいという気持ちを感じたが、私の出した答えよりは彼女の方がやはり結果的にニーズはあっていそうだったのでなるほど一つ勉強になった。

「馬鹿じゃないの」「嫌い」「分かってない」の言葉の裏には、友人であるところのましろさんならわかるでしょう?が込められているような感じがしていて実のところまあまあ気分がいい。

彼女の服の半分ぐらいは私のチョイスだし、クローゼットの中身も知っている。化粧品は殆ど私の意見が挟まれている。ちなみに彼氏からの誕生日プレゼントの服も先日の断捨離の時に「貴方の趣味じゃなくない?お母さん?着てないから捨てるよ」と言って捨てた。私があげて使っていない化粧品も私が捨てようとしたけれど、彼女の形式的な止めに素直に従ったので、多分ちゃんと残っている。

今は私の方が彼女のことを分かっていることが前提だから気持ちよく話が聞けるのかもしれない。思いついたことを思いついたままに言っている。ただ、結婚して同居してしまえば、分からなくなることも多いだろう。もしかしたら、結婚までの時間は彼女の独身モラトリアムでもあり、彼女と私の関係のモラトリアムなのかもしれないと感じることがある。そんな今日この頃である。


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