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譲歩は承諾率を2倍にする「BYAF手法」

相手に意思決定を委ねることで説得の承諾率が上がるという論文があったのでメモ(1)。

社会心理学の領域では,どのようにすれば説得の承諾率が上がるのかについて数多くの研究が行われていきました。

・一度大きな要求をしてから小さい要求をする(ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック:DITF法, 2
・小さいお願いごとから通し,最終的に大きな要求をする(フット・イン・ザ・ドア・テクニック:FITD法,2
・細かい金額提示は譲歩を引き出す(3

このように考案された説得術のなかでも,今回紹介するBYAF手法は大きな効果が期待できます。

BYAF法とは,相手に依頼をした後に,「でも,その依頼に答えるか,巨費をするかはあなた次第です。(But You Are Free.)」ということで,承諾を得る説得方法です。

2012年に西イリノイ大学の心理学者であるクリストファー・カーペンターが,今までの説得に関する研究42件(22,000人)を分析にかけたメタ論文でも,「BYAF手法」は承諾率を大きく上げることが分かっています(4)。

では,BYAF手法はどのような実験で初めて効果が確認されたのでしょうか?

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2000年にサイス・ブリタニー大学のニコラス・ゲーガンらが選択の自由を与えることが説得の承諾率を上げるのかについて実験を行いました。

実験の対象になったのは,道端を歩いている大人80名でした。

実験対象者はランダムに2つのグループに分けられ,サクラ役である実験参加者に「お金を貸してくれないか?」と声をかけられます。

2つのグループの声のかけられた時の文言は以下の通りでした。

<グループ1>
「すみません,バスに乗るお金を貸してもらえませんか?」

<グループ2>
「すみません,バスに乗るお金を貸してもらえませんか?」
「でも,貸すか,断るかはあなたのご自由です。」

そして,最終的にどちらの方がお金を貸してもらえ,金額が多かったかを調べました。

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実験の結果,グループ1の場合では通行人の約10%がお金を貸すことを了承したのに対し,選択の自由があることを強調したグループ2の場合には,声をかけられた通行人の47.5%がお金を貸すことを承諾した。

また貸したお金の金額に関しても,グループ2は約$7.05だったが,グループ1では約$3.25だった。

まとめると,相手に対し「選択権はあなたにある」ことを述べた場合の方が要求に答えてくれる割合が高く,また金額も多かった。

なぜ相手に対して要求をする際,「でも,貸すか,断るかはあなたのご自由です。」の文言があれば,承諾率が高くなるのでしょうか?

研究者曰く,「選択の自由」を強調されることで,自分が断った場合の罪悪感が生じるであろうとの予測が依頼の承諾率を挙げているのでないかと言われています。

この最悪感による説得率の向上は他の説得方法の説明でもよく用いられており,あえて要求をするときにプレッシャーをなくすことで依頼を通す際に重要な要素であると考えられています(5)。

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(1)Gueguen, N., & Pascual, A. (2000). Evocation of freedom and compliance: The “but you are free of…” technique. Current research in social psychology, 5(18), 264-270.

(2)Freedman, J. L., & Fraser, S. L. (1966). Compliance without pressure: The foot-in-the-door technique. Journal of Personality and Social Psychology, 4, 195–202.

(3)Mason, M. F., Lee, A. J., Wiley, E. A., & Ames, D. R. (2013). Precise offers are potent anchors: Conciliatory counteroffers and attributions of knowledge in negotiations. Journal of Experimental Social Psychology, 49(4), 759-763.

(4)Carpenter, C. J. (2013). A meta-analysis of the effectiveness of the “but you are free” compliance-gaining technique. Communication Studies, 64(1), 6-17.

(5)Konecni, V. J. (1972). Some effects of guilt on compliance: A field replication. Journal of Personality and Social Psychology, 23(1), 30–32. 

■影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく/ロバート・B・チャルディーニ (著), Robert B. Cialdini Ph.D (著), 岩田 佳代子 (翻訳)

■事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学/ターリ シャーロット (著), 上原 直子 (翻訳)

■The Confidence Game|信頼と説得の心理学

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