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【読書レポ】「かわいい」じゃないものをカットして純度を高める

1.「かわいい」という言葉を使わずに「かわいい」を表現することの難しさ

「かわいい」と言う人々への批判に、自分は同意できなくても「かわいい」と言っておけば円滑なコミュニケーションができるという説があります。しかしながら「かわいい」以外の言葉を使って、同じように表現できるかというと難しいのではないかと感じます。

今回は、「かわいい」ものはそれ以外のイメージを排除することにより、「かわいい」を体現することに成功している事例を紹介した本を共有します。

共有する本:『キャラ化するニッポン』


2.「かわいい」をキャラとして実践する

今回は、第六章「消費・ブログ・ケータイ・セカイ化」を取り上げます。

相原は、キャラという言葉を「人格・のようなものとしてのキャラ」と解釈し、この象徴的存在にファッションモデルのエビちゃんを挙げます。そして、エビちゃんを他のモデルの特徴と比較して以下のように述べます。

それはかつての「憧れの存在」たちのように、その発言や生き方への共感というものではない。若い女性たちはエビちゃんという「キャラ」そのものにあこがれるのだ。そして、彼女たちがエビちゃんに対して使う言葉はただひとつ、「かわいい」だ。p.147

相原はエビちゃんを純粋な「かわいい」記号だけで成立する存在だと評価します。そのうえで、「蛯原友里」という人物像と「エビちゃん」というキャラを自覚的に使い分けていることを雑誌インタビュー記事をもとに指摘します。さらに、彼女が写真のような平面的メディアを活動のメインにすることも「エビちゃん」というキャラを促進しました。蛯原友里は、多くの女性が理想とする表面上の記号としての女性を完璧に作り上げました。この結果が、「エビちゃん」というキャラになったのです。

相原は、このキャラ化の過程を子供向けキャラクターのイメージ形成と同じであると結論つけました。

日本の子ども向けキャラクターはたいていの場合、男児向けは「カッコイイ」、女児向けは「かわいい」にイメージが集約される。むしろ、開発の段階で、それ以外のイメージを排除する作業をすると言ってもいい。
実際、ハローキティにしろマイメロディにしろキキとララにしろ、かわいい以外のイメージワードを挙げるのは困難だ。そのくらい、イメージワードを挙げるのは困難だ。そのくらい、イメージの純度は高いと言っていい。
エビちゃんは、実は日本の代表的なファンシーキャラが作られると過程と同じ作業を自ら行い、それによってキャラ化したのである。p.149

つまりエビちゃんは、多くの女性が理想とする女性像を体現することに集中し、女優業よりも雑誌モデルの仕事を優先することで「かわいい」以外のイメージが自身につくことを避けることに成功したのです。

3.小さなかわいいで大きなかわいいを創る

エビちゃんは、「かわいい」以外の要素や等身大の生き方や性格のイメージを排除することで、「かわいい」を実践することに成功したことが分かりました。

相原は、伊藤論を参考にキャラを「人格のようなもの」と解釈しました。この「ような」の部分の説明が難しいと感じます。「人格」でないことは理解できます。言い換えるならイメージでしょうか。シルエットのような気もします。

本の記述を引き継いで、エビちゃんの事例で考えてみましょう。現在ではさすがに流行遅れに感じるものの、多くの人々が「かわいい」と感じるキレイめのファッションです。そして「エビちゃん」と聞けばだいたい同じような服装をした蛯原友里の姿が浮かぶのではないでしょうか。相原は、エビちゃんを“キャラ”ではなく、「キャラ化」と表現します。つまり「人格のようなもの」が見えるように表現されたものが、「キャラ化」ではないかと分かります。「“人格”が見える」と「“人格のようなもの”が見える」とでは、印象がかなり異なります。

エビちゃんは「かわいい」以外を排除したと評価されます。多くの人が「かわいい」と感じるものを多数集めた結果、大きなひとつの「かわいい」を作り上げたことが分かります。

結局、今回の本では「キャラ化」は何かという点についての言及が甘く、分かるような分からないような感じです。「キャラクター化」という表現では、当てはまらないのでしょうか。

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参照・参考文献:相原博之『キャラ化するニッポン』講談社、2007年、pp.137-168

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