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ショートショート:カフェ4分33秒

 あの子は、カフェとクラシックが好き。いっちょかっこつけてきますか。

「カフェ4分33秒ってどう?」
「何それ」
「普通のカフェなんだけど、途中のBGMを『4分33秒』にするんだ。他のBGMは普通のクラシックね。お客は音楽がない無音の状況を楽しめるってわけ。お洒落でしょ?」
 一息で言った僕をあの子はちらりと見て、ゆっくりとティーカップを置いた。

「4分33秒、ねぇ…」
「そそ。面白くない?」
「ええ、ある意味ね」
「え?」

「『4分33秒』は、楽器を演奏しないなかで生まれる偶然の音を音楽としているの」
「へぇ」
「だからあなたの『音楽がない無音の状況を楽しめる』ってのは、まるっきり的外れね」
「…」
「無音ではないし、音楽だし」
「…」
「で?他のBGMは普通のクラシックって言ってたけど」
「あ、うん」
「『普通の』クラシックって、一体なあに?」
「…」
「なあに?」

 この後の沈黙は、僕の体感では4分33秒をフル再生したくらいに続いた気がする。



(410字)




※フィクションです。
 たはらかに(田原にか)様の『毎週ショートショートnote』に参加しました。今週も難しいですね。いつもありきたりになってしまいます。





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