見出し画像

日本の医療動向 2025年問題「医療費の増大」

Written by 病院建築note(医療機器出身のゼネコン社員)

医療の2025年問題について書きます。

どんな問題が起きるのか、また病院経営への影響について調べました。

日本の医療には地域医療連携、医療費の増大、人手不足など様々な問題がありますが、その根幹にはこの2025年問題と、別の記事にする2040年問題があると思います。

■2025年問題 医療需要がピークを迎え、医療費が増大する。

団塊の世代(第一次ベビーブームの1947年~1949年生まれ)が後期高齢者(満75才以上)になるため医療需要がピークを迎えます。

つまり医療費を支える人が減り、使う人が増えるのは明らかです。

-----
※第1次ベビーブームとは
第2次世界大戦終戦による旧植民地からの引き上げや出征していた夫の帰還によって、日本の出生率が一気に上昇した。1949年には出生率4.32を記録しており、270万人もの子どもが産まれている。
-----

このままだと医療費が増大し財政が更に厳しくなることから、医療の効率化やダウンサイジングなどが進められています。

■日本の病院の数と病床数は世界NO1。供給過剰。

日本の病院数は2000年の9,200超から、2018年には8,400弱へのこの間一貫して減り続けてきました。
それに伴い、病床数も減っています。

しかし日本の人口当たりの病床数は先進諸国と比べて圧倒的に多い病院過剰の国です。

この原因1つとしては「国民皆保険制度」があると思います。

しかし国民皆保険制度もあり、医療提供体制も充実しているといわれることの多いドイツでも日本の6割程度です。

また、90年代初頭に唯一、日本に近い割合で病床数が存在していたのはスウェーデンだけですが、政府の取り組みで病床数を大きく減らし、諸外国と同じくらいの水準になっています。

その意味では、日本の医療供給のアンバランスは顕著なため対策が必要です。

日本は前々からこれを見据えており、1985年には基準病床数制度というものを厚生労働省が制定しました。都道府県毎に地域医療計画策定のスタートです。

各自治体は「2次医療圏」という単位で区画されおり、それぞれには基準病床数が配分されています。

例えば東京都は6個の医療圏に分かれており、それぞれトータルの病床数が決まっています。それ以上は病床を作ることはできません。

例えば医療圏を跨いで病院を移転する際は、土地があっても基準病床数の制限から移転の検討すらできないという事態もあります。

私もこれまでの病院建築の商談でも経験があるのですが、特に都内は中々良い土地が出ないので、移転先にはどの病院も苦労します。

ノウハウが必要なので病院単独での候補地探しは難しいです。企業、銀行、ゼネコン、地方自治体の協力が必要です。

大学病院も多い区中央部医療圏(千代田区・中央区・港区・文京区・台東区)を例に挙げますと、基準病床数6,049床に対して、13,303床と大幅に超過しているため、新しく病床を作れない状態です。

これより病床数は減少傾向にありますが、それでも供給超過は是正されていません。

参考資料 東京都の規定病床数
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kanri/jizensodan.html

■病床過剰なうえに、入院患者数は大きく減っている。

大きく減っている理由は、医療の高度化により入院日数が短くなっていることに加え、診療報酬が減額されるようになったことで長期入院が避けられているためと見られています。

日本の人口は2015年から減少に転じているので、供給のアンバランスは益々広まっていきます。

また病院を運営する医師や看護師などの働き手である医療スタッフは不足しています。

つまり、病院の稼働効率が低く、固定費が高い割に収益率が低いので病院経営は厳しいです。民間病院の約3割が赤字で自治体病院については補助金を含めなければ約9割が赤字と言われています。

■病院の収入は「入院」が6~7割を占めている。

医療サービスの単価は診療報酬制度によって決まるため、需要に応じて価格を上げ下げする余地はありません。

全国どこの病院で医療を受けても、支払う金額は同じです。

一例を挙げますと

診療報酬点数表
K655 胃切除 悪性腫瘍手術 55,870点
(1点=10円で換算するので、病院には558,700円入ります)
※最新の機器を使っても使わなくても同じ!
※若手医師でもベテランでも同じ!

逆に飲食店であれば、投資額や需要合わせて価格を調整できます。そして値段の割に高い店には客が来なくなり、差別化しているお店は繁盛するという市場の原理が働きます。

しかし病院はそれができません。

そのため病院の赤字解消には「ベットを埋める」か「ベットの回転数」を増やすしかなく、患者の減少により、病院間の競争は激化しています。

「病院過剰の国」では病院は生き残るために、入院患者を作ってしまうことに繋がりかねません。

■医療破綻の防ぐため、病院再編は避けられない。

このように病床が過剰な状態で団塊の世代が後期高齢者になると、医療費は増大します。

また現在はインフレの影響で病院の建築や改修に要する費用も増加しています。

建築資材は2021年1月比較で何と26%も高騰しているからです。

食品や機械の工場であれば、物価上昇分を価格転嫁して製品を高くすれば済みます。

なので物価上昇局面でも価格転換できる会社はどんどん設備投資ができています

しかし、病院の収益は診療報酬制度によって一律に決められているため、転嫁することはできません。

また診療報酬自体も抑える方向で国が動いているため、病院の経営は厳しく、倒産する病院も出てきています。

■【まとめ】医療崩壊を防ぐため病床数を減らすことは必須。

これから増大していく医療費を少しでも抑えるためには、病床数の削減が必要です。削減するための施策を考える必要があります。

病床数を減らすとことで得られる補助金もあります。
そのためコロナ対策と相まって公立民間問わず病室を個室化する病院も増えています。

病院の建て替えとは、それまでの前提や状況を一変させる大きなチャンスです。

病院の統廃合が進んでいますが、それをきっかけとして未来に繋がる病院作りをしたいと思います。

--------
hospital architecture note
mail:07jp1080@gmail.com
-------

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?