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別れの日に何も言えなかった1年と1ヶ月の片思い

ある日の6月、私の好きだった人は突然と私の前から消えた。
復帰の目処が絶たない病気を患ってしまったらしい。
その人は会社の上司で、私が仕事で困った時は優しくサポートしてくれた。
会社の人間関係で悩んだ時も、自分なんて会社に必要ないんじゃないかと思った日も。
何度も私を励ます言葉をかけてくれた。
上司は私が沢山の病気を患っていることを知っていた。
だから優しかったのだと思う。
そういえば、上司は自分が慢性的な病気を抱えていることなど口走ったことなどなかった。
思い出すと異常に細い体型だった。
背が異常に高かった。
いつも出勤はギリギリの時間。
凄く弱いところがあるなんて思わなかった。
本当に弱い人は自分が弱いということも、自分が辛いとも言えない人だ。
そんな上司に私は自分の弱さを1ヶ月に一度のペースで吐き出した。
そんなことを続けていくうちに、私は上司を目で追いかけるようになった。
カタオモイをしていた。
ただその人が存在しているだけで、私は会社に居る意義を見出していた。
カタオモイをしていた。
5月のある日に、その上司よりさらに上の人に1週間ぐらい、持病で休むと聞いた。
そうか、1週間か。
また戻って来てくれるのか。
1週間後にはまた会えるんだな。
そう思っていた。また会うんだと思っていた。
2週間経っても、3週間経っても、4週間経っても上司は戻って来なかった。
あの人が病気だと伝えてくれた女性の上司に復帰の見込みは難しいと聞いた。
そっか。
私は上司が、毎日タバコを吸い、夜はコンビニ弁当で過ごしていたことを知っていた。そして寝る時間は遅いらしい。
女性の産休みたいに、かなり休んでからでいいから、一年後でもいいから、料理上手で規則正しい素敵なお嫁さんを連れてきてでも、戻って来てくれたらと思っていた。

そんな願いは叶わなかった。

7月7日に、七夕の日に6月30日付で、上司が会社を辞めたことを聞いた。
病状の悪化によって復帰の目処が全く絶たないとのこと。

この世に織姫様も彦星様もいないようだ。

6月の雨に濡れて涙なのか雨なのか区別もつかない時期に、神様に祈った。
あの人が復帰しますようにと。
そっか。

あなたは私から消えていった。

自分の弱さを見せることなく。

せめて

ありがとうございました。

尊敬しています。

想っています。

の言葉を言わせて欲しかったのに。

その上司は例えば、旦那さんの転勤に伴って、いなくなる人に必ずお別れの挨拶をする人だったのに。

病はそのような言の葉を言うことを許さなかった。

大っ嫌いなタバコの香りがした。

隣の人が喫煙室で吸って来たようだ。

私はその香りを深呼吸しながら吸ってみた。

7月なのに、私の曇ったレンズはまだ6月を写していた。







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