一人ぼっちで、お留守番。家の中は、

 しーんとしている。

 あんまり静かで、ちょっぴりこわい。

 「おはなしして。

 ねえ、だれか、おはなししてよ」

 やっぱり、だーれもこたえてくれない。

 「あーあ」

 ため息をついたとたん、どこからか声がきこえた。

「（あ）？あいことばは、（あ）だね？」

 机の下から白ネズミが、ピョンと出てきた。

 「♪あーあーあー♪」

 歌いはじめた白ネズミ。

 小さな手が、ぼくをゆびさした。

「（あ）のつくことばは、なにがある？

 あめんぼ、あおむし、あかとんぼ。

 ありんこ、あさがお、あほうどり。

 ほら、いっぱいあるだろ？

 きみの好きな（あ）はなに？

 あまい、あまいアイスクリーム？

 それとも、あつあつのアップルパイ？

（あ）をつかうとね、とってもステキな詩ができるんだ。 

  
  あなの

 あいたこころには

 あったかことばを

 あげてごらん

 あふれるぐらい

 あげてごらん

 あしたはきっと

 あかるくなるよ

 どう？」

（あ）のことばから、ぽっとあたたかいものが生まれた。

「じゃあ、こんどは（い）でいくよ。

 （い）のつくことばは、なにがある？

  いしころ、いちじく、いろえんぴつ。

  いちごに、いちょうに、いそぎんちゃく。

 （い）からはね、こんな詩が生まれるよ。

  とっくんとくとく、とっくんとくとく

  いのちの歌が　きこえるよ

  いろんなとこから　生まれてる

  いっぱい　いっぱい　生まれてる

  いっしょうけんめい　歌ってる」

 とくとくとく、どくどくどく。

 （い）のことばから、いのちが、あふれでた。

   白ネズミは、細くて長いしっぽを、くるくる回しながら歩きはじめた。

 「こんどのあいことばは（う）だよ。

 （う）のつくことばは、なにがある？

   うぐいす、うずまき、うばぐるま。

   うちわ、うめぼし、うみぼうず」

    白ネズミのうしろを歩きながら、ぼくもいった。

 「うさぎ、うま、うちゅうだってある。

 （う）からは、どんな詩が生まれるの？」

 「そうだなあ、こんなのは、どう？

 
  うえを　ぐーんとみてごらん

  うーんと大きな空はともだち

  うしろを　ずーっとみてごらん

  うみをまたいで世界もともだち

  うでを　ぱーっとのばしてごらん

  うちゅう人だって　ともだちだ」

 
（う）から、たくさんのともだちができた。

　　　　
「つぎのあいことばは、なにかな？」

   白ネズミが、きいた。

 「そんなのかんたん。（え）でしょ？」

 「あたり。

 （え）のつくことばは、なにがある？

  えのぐに、えほんに、えんどうまめ。

  えんぴつ、エプロン、エレベーター。

  えへへ　えへへ　笑っていいよ

  えーん　えーんえん　泣いてもいいよ

  えがお　泣きがお　笑いがお

  えらぶとしたら　どんなかお？

  えらんでいいよ　いろんなきもち」

 
（え）から、きもちがふくらんだ。

   白ネズミが、ぼくのひざに、ぴょんと

   飛びのった。

 「さいごは（お）だよ。

 （お）のつくことばは、なにがある？」

「ぼくに、いわせて。

  おはなし、おむすび、おくりもの。

  おもちゃ、おんがく、おつきさま。

  おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、

  おばあちゃん。 いっぱいあるよ。

  みーんな、ぼくの好きなものばかり。

  ねぇ、（お）からは、どんな詩がうまれるの？」

「おしえてあげるよ　ぼくのこと

　おしえてほしいな　きみのこと

　おんなじ星の空のした

　おもいをつないで生きるんだ」

 白ネズミが

 「あ、い、う、え、お」

  と、いった。

  ぼくも、つづけていった。

 「お、え、う、い、あ

（お）のつくことばは、おかあさん

（え）のつくことばは、えがお

（う）のつくことばは、うた

（い）のつくことばは、いいきもち

（あ）のつくことばは、あふ　れる

　おかあさんの

　えがおから

　うたがこぼれる

　いいきもちが

　あふれだす」

「すごい、すごい」

  パチパチパチ。

  白ネズミが、はくしゅをしてくれた。

「こんなにすてきな詩がつくれるなんて、きみは、なんてすてきな男の子な　   んだろう。

  ぼくは、ことばの花束をもらったみたいだよ。

   お礼に、この白ネズミも、きみに小さな花束をあげよう。

  あ・い・う・え・お

（あ）のつくことばは　あいたい

（い）のつくことばは　いま　いのち

（う）のつくことばは　生む

（え）のつくことばは　えらぶ

（お）のつくことばは　大きい　おかあさん

  あいたくて　あいたくて

  いま　ここに

  うまれてくることを

  えらんだのは　きみ

  おおきな

  あいと

  いのち

  うむことを

  えらんだのは

  おかあさん

 たった五つの　あ・い・う・え・お・

 こんなすてきな　ことばが生まれた。

 ことばって　おもしろいね。

 ことばって　ふしぎだね。