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ステッカーの寿命。

 バッグや、自分の持ち物や、ノートパソコンなどにステッカーを貼る習慣があったら、もしかしたら、ステッカーというものをもらったりすると、もっとうれしかったのかもしれない。

 だけど、これまでは、そういう生活をしてこなかったので、もらったステッカーは、ずっと引き出しにあった。薄い形態をしているから、閉まっておくと気がついたら、奥に、下に入っていって、引き出しの奥のすき間から向こう側へ落ちたりする以外には、思ったよりもなくさない。

 だから、もう何十年も前になるのだけど、横浜にハマボウルというところがあって、そこの1階にかなりコンパクトな店構えなのに「国際スポーツ」という大きな名前のサッカーショップがあって、特に中学生の頃は、よく通っていた。

 お金もないから、スパイクもそれほど多く買えないのに、ただ見て、これが欲しいなどと思っていたのかもしれない。あとはストッキングやサッカーパンツやジャージなども、そこで購入していた記憶がある。

 あとで知るのだけど、その屋上にはアーチュリーの練習場があって、そこで矢を射っていた人がオリンピックのメダリストになったりもしている。


ステッカー

 そのサッカーショップで何かを買うと、それはおそらくはいくら以上、といったラインはあったはずだけど、ステッカーをくれた。そこには、「SOCCER SHOP OFF SIDE」と書いてあって、店名は確か「国際スポーツ」で、だから、名前が違うような気もしたけれど、サッカー部員の間では「こくさい、行こう」で通じていたから、それほど深く考えたこともなかった。

 そのステッカーのデザインは、タカかワシの絵が簡略化されていたが、よく考えたら、サッカーのドイツ代表のエンブレムと、そっくりだった。
 当時は日本のサッカーファンから見たら、ドイツのブンデスリーグが身近なせいもあるだろうけれど、著作権みたいなものはどうなっていたのだろうと今だと思うけれど、当時は気にしてなかった。

 ドイツのものと同様な色使いのものと、青と白の2種類が確かあって、それをもらったものの、そういうステッカーを堂々とスパイクケースや、バッグなどにつけることができるのは、サッカーがうまい人間だけだったイメージがあったので、とてもそんな自信がない自分はどこにもつけることができず、机の引き出しにしまっていた。

 邪魔になることもなく、引っ越しも何回かしたけれど、机の中のものをそのまま段ボールに入れて移動させたり、そして目についたときは、いつかどこかに貼るかもしれないし、なんだか懐かしさのようなものもあって、なんとなく捨てずに、ずっと引き出しの中に、そして、どちらかといえば、とても下の方にあった。

 今の家に引っ越してきたのは、20世紀の末だから、25年は経っている。

 だから、そのステッカーも、それだけの時間、ただ引き出しの奥にあって、それはまるで、眠っている、というような表現もふさわしいような気がしていた。

自転車のヘルメット

 ただそのステッカーを見るたびに、貼らないステッカーは、あまり意味がないのではないか、と思うこともあり、あるとき、家に置いてある大きめのプラスチックのゴミ箱に、青と白のステッカーを貼ってみた。

 カラーのものにしなかったのは、どこかでケチる気持ちもあったせいだろうけれど、ただ真っ黒なゴミ箱よりも、そういうステッカーがついているだけで、ちょっと気持ちが変わるというか、ゴミ箱にも少し愛着がわいたりすることに気がついた。

 あとは、黒とオレンジのステッカーだった。

 コンピュータなどに貼る習慣もないので、他にもどこかへ貼る気持ちにもなれないときに、自転車でもヘルメット着用が「努力義務」ということになった。

 それでヘルメットを購入し、そこに貼ることになった。

 妻と相談をし、家にあるステッカーでは2枚、貼ることにした。

 そのうちの一枚が、ずっと机にあったサッカーショップでもらったステッカーだった。その台紙をはがし、ヘルメットに貼るときはちょっと緊張もした。

 ヘルメットは球体に近いから、そこになるべく密着させるためには妻にお願いをし、微妙に切れ込みも入れて、それで、貼れた。

 ステッカーがやっとステッカーとして存在できたように思った。

ステッカーの寿命

 そのステッカーと、もう1枚のステッカーを貼って、ヘルメットをかぶると、どこにもないモノになっているようで、ちょっとうれしかった。

 それで、自転車に乗るたびに、風を切る音がよく聞こえるようになった、などと思いながら、何度か乗っていたが、そのたびに、そのサッカーショップのステッカーは微妙に浮いてきたように思った。

 それで、そのちょっとはがれそうなところを押さえて、またヘルメットの表面に密着させるようにすれば、そのすき間は見えなくなって、ちょっと安心する。

 その繰り返しが何度かあった。

 そのうちに、だんだん粘着力が弱くなってくるのが明らかにわかって、それは、ヘルメットの球面に貼るには、そのステッカーが大きすぎて、それで、いやでもはがれてきてしまったようだった。

 もう一つのステッカーは小さめだったので、しっかりついていて、やっぱりステッカーの扱いに慣れていないせいで、こうした判断ミスをしてしまい、それで、これ以上、ヘルメットに貼っておくには難しくなり、はがすことになった。

 何十年も、ただ引き出しの中にあって、ほとんど誰の目にも触れず、そして、やっとステッカーとしての機能を発揮し始めたら、ほんの数週間ではがれて、そして、ステッカーとしての機能はなくなってしまった。

 長く土の中にいて、夏に短い生涯を送るといわれるセミのようだと、ちょっと思った。

 これで、ステッカーとしての寿命は実質上はつきたと言っていいのだろうけれど、なんとなく捨てられず、今度は、プラスチック製の重ねられるCDを入れてある棚に貼った。しばらく大丈夫だったのだけど、翌日、ステッカーの裏を見せるように下に落ちていた。

 やっぱり、もう無理なのだとは思う。

 でも、なんとなく捨てられずに、本棚のところに、貼るわけでもないのに、中途半端な形で、置いてある。



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