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子育てメディカルチェック

私が子育てや主婦業に行き詰まっている話をすると、
「何か趣味を持ってみたら?」と度々言われる。
「仕事を始めてみたら?」も言われるが、それとは比較にならないくらい圧倒的に「趣味」を勧められる。

趣味。

1円にもならない。このご時世、専業主婦というだけで少し後ろめたく、その上趣味…。経済的に余裕があるわけでもないし、子もまだまだ手がかかって家事も行き届かないのに、遊んでいる場合ではないのでは。

と、あまり前向きに考えられずにいたのだけれど、以前こどもとハンドクラップというエアロビをやっていたときに、「あれ、これはなんかいいかも」という感触があり、私も気分が良かったが、子もなんとなく機嫌が良いような気がした。

運動をすると、心に余裕が出来て、こどもがゴチャゴチャと言うことにも寛容になれる。

月並みであるが、運動はいいらしい。私が運動すると子が元気になる。

うん、これは私のためではない。子のためだ。

といっても、二十年くらい運動らしい運動をしていない。試しに近所を軽く走ってみると、すぐ膝が痛くなった。学生時代に膝を怪我した事があり、その事が頭をよぎる。

もう私の体は運動できるような体ではないのだろうか。加齢によって、何かが損なわれてしまったのかもしれない。せっかく少しやる気になったのに、知らない間に衰えてしまって、もう散歩くらいしか出来ないかもしれない、と呆然とする。

つまらない。まだやる気だけはあって、学生時代のように、息が切れるくらいに追い込んでみたい。そういう気持ちに体が追いつかない。

散歩か…。やらないよりはずっといいとは思うものの…。

いや、これは私のためではない。子のためだ。

そうは言っても、まだ諦めのつかない私は、整形外科へ行ってみることにした。日常生活には全く問題がないので、場違いかもしれないとは思ったが、遠出してスポーツ整形外科なる場所に出向いた。

行ってみると、待合室にはズラリとスポーツ雑誌が並んでいる。色眼鏡で見ているせいか、患者さんも活動的な人が多いような気がした。普段着の人でも、足元だけはスポーツブランドの靴だな、などと、チラチラと見る。

ドクター以外にも、鍛え上げられた体のトレーナーが大勢居て、患者さんが別室で指導を受けている様子が見える。病院というより、スポーツジムのような雰囲気だ。

まだ運動を始めてもいない私が来るようなところではなかったか、と思うも、もう来てしまったので、とりあえず言われるままに体脂肪や筋肉量を計測され、レントゲンを撮り、診察となった。問診票には学生時代に怪我をした詳細を書き、その後遺症について聞きたいと書き添えた。

そう、これは私のためではない。子のためだから。

ドクターは、私のレントゲンを見て言った。

「なんでもないですね」
「え?」
「何も問題ないです。急に運動すると痛くなるのは、よくあることです。少しずつやってくださいね」
「じゃあ、痛くなったらやめて、痛くなったらやめて、ってやっていれば、そのうち痛くなくなるんですか?」
「そういう人が多いですよ」

なんでもない。

なんでもない?

それは、つまり。

痛みの原因は、ただの運動不足。

診察室の外から、トレーナーの明るい声が聞こえる。

私は、運動不足すぎて足が痛い、と、わざわざスポーツ整形外科に来た人であった。

「痛くなったら湿布を貼っておいてください」と、ドクターからその場で湿布を渡されて、お会計となった。2010円。なんでもないことを確認した金額。

いやいやいや、違う違う、来てよかった。スポーツマンを数多く見ているドクターが、なんでもない、と診断してくれたのだ。これで、痛くなっても、様子見しながら運動を継続できる。

それに、2010円は私のためではない。子のためだから。

私は足取り軽く、病院の外へ出た。場違いの恥ずかしさよりも、なんでもなかった喜びが勝って、スキップしたい気分だった。

あまり気負わず、また時間と気力があるときに、走ってみよう。おおらかに、余裕を持ったおかあさんを目指して、自分の気持ちを整えることから始めてみよう。

そして、その先に、機嫌良く笑う家族の姿があったらいいな、という願望の元。

これは私のためではない。子のためだから。

もちろん、私のためでもあるけれど。




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