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職場の人に絶対に隠しておきたいこと

私の仕事は真面目なことが社会的に求められていて、他の仕事より高い規範意識が必要である。

それゆえに職場には真面目な人が多い。
だから職場では揉めごとなど変わった出来事が起こりにくく、わりと平和に過ごすことができている。

真面目ゆえの「物事はこうあるべき」という自分の正義感を相手に押し付けるようなパワハラめいたことはあるが、ブラック企業のように罵詈雑言で長時間罵るというような激しいことはまずない。

しかし真面目な人たちは真面目なことにコンプレックスがあるらしい。
私の職場にいる人たちは、人生において道を外れずに真っ当に生きている人がほとんどである。

そのことについて私はとても良いことであると思うので、誇りにしてもいいと思うのだが、不真面目への憧れのような気持ちを抱く人が多いことに気が付いた。

私は根本的に不真面目で、職場ではそれがバレないように必要以上に真面目なふりをしている。
周りにいる人と真逆である。

だから真面目にコンプレックスを抱く人の気持ちが分からない。

私には理解できないことであるが、私の職場の人たちは真面目コンプレックスを拗らせて、変な不真面目自慢をしてくることがあるのだ。

例えば「昨日飲んでいて終電逃した」とか「キャバクラに行ってそこで働いている女の人とLINEを交換した」などということをまるで武勇伝のように話す。

それが武勇伝として通ってしまうくらい真面目な職場なのである。
まるで中学生が「あーまじ昨日2時間しか寝てないからつれー」というようなレベルである。ある意味健全で微笑ましい。

このような話を聞くにつれて、ますます私は自分の不真面目を隠しておかないといけないと心に誓う。

特に私が酔っ払った時にしている時のことは絶対に誰にも言えない。



例えば、家で飲んでいる時に急にきしめんが食べたくなった時の話はできない。

その日は深夜まで家で飲んでいて、そろそろしめの何かを食べたいという気持ちになった。

その日はきしめんの気分であった。
ただきしめんの麺は家にない。
どこかに買いに行こうという時間でもなかった。
そこで私はトイレットペーパーを丁寧に1センチ幅に切り、麺の代用品にしようと考えた。

細すぎても太すぎてもきしめんではなくなるので、1センチ幅は遵守しつつ麺を切る慎重な作業は続いた。

幸い白だしのもとは冷蔵庫に入っていたので、一人前を計量カップでしっかり計り、適正の量の水と割って鍋で温めた。
沸騰したところでいよいよ麺の投入である。

トイレットペーパーなので当然すぐに溶けてしまう。
私はきしめんが食べられない現実に直面して咽び泣いた。


他にも酔っ払った時のことで、職場の人に言えないことがある。

それは例えば渋谷で飲んでいて、急に元阪神の赤星選手に憧れてしまった時のことだ。

その日は、どのような経緯でそんな思考に至ったのか覚えていないが、赤星選手の盗塁技術に思いを馳せて、私もそうならなければいけないような使命感に駆られた。

全く野球経験はないのだが、突然空からそのような啓示を受けたような感覚に陥った。

私は足が遅いので坂を利用してスライディングの練習をすれば良いということを思い付いた。

渋谷の道玄坂を使って、私は盗塁の練習を始めた。ぎりぎりの理性でヘッドスライディングはしなかったのであるが、何度かの足からのスライディングによりズボンが破れ泣きながら家まで帰った。



あと酔っ払った時に長渕剛さんが私に降臨した時のことも言えない。

ある日家で飲んでいた時、その日はごく自然な思考の結論として私は長渕剛さんの生まれ変わりなんだということが分かってしまった(長渕剛さんはご存命なので本当に申し訳ないのですが…)

そうと分かると私はクローゼットに行き、奥の方に眠っていたジージャンの袖を、裁縫箱の中に入っていた裁ち鋏で裁断した。

袖なしジージャンを素肌に着て、無事に私は長渕剛さんになることができた。
とんぼと乾杯としゃぼん玉を歌いきり、その曲の素晴らしさに感涙して、袖なしジージャンを着たまま大満足で眠りについた。


酔っ払って歌いたくなったといえば思い出したことがある。

神奈川県に住んでいた時に、酔っ払って帰ろうと思ったらどういうわけか高崎(群馬)に着いた。

「ここはどこ?」「私はだれ?」「私は一体何のために生まれてきたの?」という気持ちで高崎の街に降り立った。

そしてたまたまそこにいた路上ミュージシャンと意気投合して、高崎駅前でゆずの夏色(キーはだいぶ下げてくれた)を一緒に歌った。

これは路上ミュージシャンとの心温まる、いい出会いのエピソードかもしれないが、でも職場の人には知られたくない。

酔っ払った時の失敗は他にもいろいろある。
職場の人に隠しきれないくらいのことをやらかす前に、ほどほどに酔っ払う術を身に付けたいと思っている。

私はこれからも不真面目なことを隠して、そしてできるだけ真面目な振る舞いをするよう努めて、定年まで働き続けられるように頑張りたい。

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