社会不適合者1.2(素人小説)
「で?これはなんのためのパーティーだ?お前の暇つぶしか?」
盃都は咲夜に尋ねる。
「俺も呼ばれた側だ。何が起きるか分からない。」
そう言った咲夜は左手に持ったシャンパンを煽り、飲み終える。そしてそのまま通りすがったウェイターが持っているにグラスを置いた。一連の仕草はやはり慣れていて何処か洗練されている。
櫻太が咲夜の仕草を眺めていると、盃都も通りすがりのウェイターからグラスをもらい煽る。二人とも流れるような仕草だ。
櫻太は察する。この二人は元々こういった場に慣れていると。咲夜はついさっき初めましてをした人間だが、盃都とは何年かの付き合いだ。今まで知らなかった情報が拾えたことに新鮮味を感じつつ、自分もまだまだ浅い付き合いであることを知る。
櫻太が一人で思い耽っているところに千鶴が疑念を抱いているような声で咲夜に問う。
「分からない?あんたが主催じゃないの?加聖咲夜ってあんただよね?」
千鶴はそう言って招待状をバッグから取り出して咲夜の目の前に突き出した。
その招待状を覗き込む櫻太と盃都。
右下に書かれてある名前は明らかに目の前にいる紫の高級そうなスーツを着た男の名前だ。
仮面舞踏会。この日本で、しかもこの令和にいまだにこんな催しがあることが驚きだが、何も疑わないあたりこの人たちはこの社交界には慣れているようだ。櫻太をのぞいて。
パティー用の仮面を用意しろと言われて盃都はあっさり承諾し櫻太にスーツを見繕い、すぐに会場に向かった。その後は櫻太にこう指示したのだ。
「ビルから出てくる足元がおぼつかない仮面をつけた野郎から仮面を取って名前を聞け。」
盃都はそれだけ言って、実際にそれを目の前でやってのけた。櫻太も見よう見まねで同じことをして、盃都が待っているエレベーターへと乗り込み、この会場の入り口で盃都の真似をして先ほど仮面を貰った男に聞いた名前を入り口にいるガードマンに伝えると通されてこの会場にたどり着いた。
何が何だか分からないまま櫻太は盃都の真似をしたおかげでここにいるのだ。見て真似しろというのは櫻太の人の話を聞けない性質を知ってのことだが、櫻太は盃都が何の意図をもって指示しているのかは理解できていなかった。
そして、任務の内容も千鶴から詳しく聞いていないどころか、任務があることさえ全メンバーへの通知ではなく盃都から直接言われたことを踏まえると、やはり盃都はこの任務での身の振り方を知っているからこそ、櫻太のサポートを全任されたのだろう。
櫻太はここまでの一部始終を見て確信した。
今回の任務は千鶴・咲夜・盃都が生まれ育った社交界に関わる任務だと。
櫻太は盃都の肩に手を置きつぶやく。
「俺、お前についていくわ。」
「は?」
突然懐かれたかのような言動に戸惑う盃都だが、気にせず咲夜への聴取を続ける。
「お前を騙った赤の他人が開いたパーティーってことか?」
「そうなるな。うちの口座を見てもこのパーティー会場に対して動いた金はない。俺とは全く無関係のところで何かを始めようとしているらしい。」
名前を使われて怒っている様子もない咲夜。図ぶんと余裕がある。社交界では身分を拝借されることはよくあることなのだろうか。それとも、その赤の他人の予測がついているのか。
千鶴は咲夜に問う。
「咲夜、あんたどうやってここに入ったの?招待状リストに無い名前だと入れないでしょ?」
「俺が主催者なんだから俺が入れないとおかしいだろ。」
咲夜は堂々と正面入り口からはいってきたらしい。拝借された名前を使って。
「じゃあ、偽物の加聖咲夜はこの会場に来ていないか、別名で来ているか。」
千鶴は顎に手を当てて考えながら呟く。
そのつぶやきに対して盃都はさらに推理する。
「前者なら葉月にでも頼んで外から探りを入れるのが手っ取り早いが、後者なら怪しい奴をとっ捕まえて尋問するか。」
「葉月は今回戦力外だろ。」
櫻太は葉月のハッキング能力は今回適応できないことをついさっき盃都に知らされたばかりだ。そのことが念頭にあったため、盃都の意見に条件を足していく。すると、葉月という名前に咲夜が反応した。
「葉月?あいつまた眠り姫やってんのか?」
眠り姫。その言葉を使うあたり、葉月の過眠症について咲夜は把握しているらしい。
櫻太が元軍人だといいうことも知っていた。咲夜という男は果たして何者なのか。櫻太はますます謎が深まった。
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