山(たかし)<掌小説>

結婚8年目にして父親になるなんて、夢にも思わなかった。
昨日は無理と報せが入ったが、今日ならOK、大丈夫と言う。
早速、パソコンを立ち上げる。直ぐに繋がる。部屋の様子が段々、はっきり映し出される。
「よおっ。お疲れさん。おめでとう。大変だったね」
妻はただただ笑っていた。一呼吸して、赤ン坊を見せる。
「ありがとう。ほぅ~ら坊や、ご覧なさい。パパでちゅよ」
お包みの中の赤ん坊は、すやすや寝ていた。
「うん」
そうか、コイツが俺の子か。ジュニアか。長男か。感慨深くなって来る。
一日でも早く帰国して抱きたいが、後(あと)半年はガマンの単身赴任。
カルフォルニアの太陽と仕事の順調さを心の支えに、頑張らねばなるまい。

「どうする?名前。何にしようか?」
妻の声に、僕は瞬時に反応した。
「<たかし>。たかしにしようや。山(やま)と書いて<たかし>。富士山の山(さん)。丁度いいじゃん、ウチ富士織(ふじおり)だし」
「あら、いいわね。富士織 山(ふじおり たかし)。山(やま)さん、か」
横のベットで寝入っている山に早速、妻は何度も呼び掛ける。
「俺にも又、見せろよ。お前にだけなんて、ズルいぞ。俺の子でもあるんだから。ちゃんんと親父の声と顔も、認識して貰わないとな」
(山(たか)ちゃん。山坊(たかぼう)。山々(たかたか)。山(たか))
何を第一声として、選ぼうか?
一寸だけ新米パパは、ドキドキそしてワクワクした。

<了>



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