既に絶版かも知れない。
何せ、初版は昭和48年。わたしが小学校にあがった年だ。今の日本の基礎の基礎びょう。「もはや戦後ではない」が実感されてきた前後かと思う。
そういう中で、当時17歳。令和４年現在、生きていれば６６歳になっていたはずの、一人の病との共存記録である。

「筋ジストロフィー」
略し「筋ジス」。ヨチヨチ歩き前後から、歩く自体が大変そうで、よく転ぶ。やがて段々、徐々に徐々にと筋肉が弱まり、効かなくなって、車椅子生活に。更に残酷になってゆき……。「二十歳前後で」が長い間、その時期とされていた。が、様々により、現在なら50歳、６０歳と時期も永くなっているようだ。

わたしが「筋ジス」を知ったのは、テレビドラマの「ケンちゃんシリーズ」（TBS系）。同世代であれば、懐かしさの余りに涙がちょちょ切れるだろうが、「何とか屋ケンちゃん」の、お話しとして取り上げられていた。

ケンちゃんの、お友達のお兄さんだったかが、この病気に冒されている設定である。５、６歳の時に見たので、詳しく覚えてないのだが、「そういう病気の人がいるんだ」
「大変なんだ」「悲しいけれど、治らないんだ」子供心に強烈であった。最後に教会の場面があり、「鐘の鳴る丘」の歌が流れた。「ああ、懐かしいねぇ」未だ若かった亡母が一緒に歌っていたのを憶えている。

何で買ったか？何故選んだのかが、全く分からない。多分、書店でぶらぶらしていた時に何となく目に入った。けど、「筋ジス」（あっ！）。

「そういう病気の人がいるんだ」強烈だった思いを一挙、呼び戻すものがああった。「大変なんだ」「悲しいけれど、治らないんだ」１０年後の再会である。既にわたしは、１５、６歳となっていた。言葉を文字とし、当事者として気持ちを著（あらわ）した本だ。

両親共にクリスチャン。プロテスタント信徒である。だから弟さんを含め、家族全員がキリスト教徒である。だから自然「教会」とか「お祈り」が出て来る本著に、最初は戸惑う向きも出るかも知れない。

その方面のボランティアの人達との交流や、ちょっとした日記。親元を離れて一人、入院生活を送っていた頃、石川さんは当時、１０歳だった。わたしが生れる寸前だ。13歳。車椅子ではあるものの、普通の少年だ。この頃石川さんは、年上の女性に好感を持つ。憧れのような存在だ。


「ぼくの家は明るくていいね」
終章に題されている頃の石川さんは、17歳である。陶芸に夢中になり、好感から恋へ。女性の存在は、確実に大きくなる。思いも強くなる。
そんな息子に「正ちゃんが……」優しく悟り掛ける父親に
「分かっているよ」の件（くだん）は、読んでて何とも言えなくなる。

残念ながら石川さんは、23、4歳で帰天された。病気の進行である。17歳の頃には掛けていなかったのに、晩年は眼鏡を掛けなければならなかったようだ。

不治の病だからといって、特にどうこう言うこともない。やたらマスコミに出たがって注目を集めようなんて、どこを探しても本著にはない。その点が非常に評価出来る。「ダイアリー～車いすの青春日記」
長谷川真弓が主演、佐久間良子が支える母親を演じ切ったドラマにも
共通点を見るのである。＜了＞

#読書の秋2022