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【旅掌編】リー・ウェンの物語

こちら中国の某社オーナーとの商談に、オーナーの娘である彼女が、自分の仕事の休みをとって参加していた。

私とオーナーである母親の商談に興味があり、参加したかったらしい。

商談後、一緒にランチをした際に、彼女から大学時代、ボストン大学と慶應義塾大学に留学していて日本語も少し話せると聞き、少し日本語で会話したと記憶している。

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その会社とビジネスをするには至らなかったが、しばらく経ったある日、彼女からwechatでメッセージが届いた。

「日本語をブラッシュアップしたいのですが、いい学校、あるいは先生を紹介していただけませんでしょうか?」

私が中国着任後しばらく授業を受けていた中国語の学校の名前を教えた。
私に教えてくれていた先生は非常に優秀で、中国人に日本語を教えることも可能だと思ったからだ。

と、そのメッセージを送った後にふと思った。
実は私も中国語のいい先生を探していたのだった。
いい先生というのは、教えるのが上手いとかではなく、人として素敵で刺激的な話ができる、という意味だった。

「ていうか、二人でランゲージ・エクスチェンジをしませんか?日本語、中国語で興味のある話をしゃべりまくるんです。ビジネスの話、教育の話、言語の話、日本の話など、共通の話がたくさんあると思います」

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私も多忙を極めていたので、毎週とはいかなかったが、週末時間を取れる時にはたっぷり時間をとった。

授業ではないので、興味、話題がポイントだと思っており、場所にもこだわった。

最初はカフェで始めたが、やがてランチとカフェがセットになった。

お互いに面白いレストラン、カフェを選んだので、場所自体が会話のネタになった。

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とにかくしゃべりまくった。

初回は前半日本語、後半中国語と決めていたが、2回目以降はそんなことは気にしなくなった。二人ともいい塩梅で言語を切り替えた。

気になる言葉が出てくると
「それちょうだい!」
と言ってwechatにメッセージで送り合う。
彼女は漢字と拼音で。私は漢字とかなで。
それが単語帳になった。

私の中国語の会話能力はグイグイ上昇した。
彼女の日本語もそうであったと思っている。

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私の他国への異動が決まり、最後のセッションはディナーにしようと決めた。
最後は彼氏も連れてくるように伝えた。

きっと彼氏は「週末の彼女の時間を大量に奪う泥棒野郎」の顔を見たいに違いない思ったので。

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金曜日で盛り上がる大人気のイタリアン・レストランで3人で食事した。

「毎回、セッションの後に、彼女はいつも私にセッションで何を話したか教えてくれるんです。その内容がすごく面白くて、一度お会いしたいと思ってたんです」

二人は留学時に慶応で知り合っているので、彼氏も日本語が話せる。

「言葉というより会話の内容が面白くて、いつも帰ってからノートに書き残して、彼氏に会ったら必ず話してたんです」

彼は想像していた通りの人柄で、彼女にピッタリだと思った。

さらに、彼の仕事が私の長男と全く同じ業界、職種である事を知った。
しかも、ニューヨーク大学に留学していたというところまで一致している。
こんな偶然があるのかと驚いた。

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人の出会いって不思議だ。

たぶんこの二人とは一生の友達になるだろう。

二人は私の妻、息子2人にも会いたいと言った。

息子達と同世代の二人は、きっと彼らの友達にもなるだろう。

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これがリーウェンとのストーリーだ。

そしてこのストーリーは続く。


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